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バキュラビビーの葛藤
星空の下のディスコード(上)
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「ジョーさん、なんか調子悪そうですね」
檜山から、指摘された。
「そうか?」
「ほら、またここに脱字がありますよ?」
「あ~、すまん」
「これで今日3つ目ですよ」
どうも集中力が欠けているようだ。
理由は分かっている。美郷のことが気にかかっているのだ。
この前、家を出て行ってから連絡一つよこさない。
いや、こちらから連絡するべきなのは分かっているのだが……。
「疲れてんのかな。今日は早めに引き上げるわ。こっちの資料、代筆頼めるか?」
「お、任せてくれるんですか?光栄だなぁ」
「部下に一任するのがいい上司ってやつだよ」
調子のいいことを言って檜山に仕事を丸投げした。
そのまま鞄を持ってオフィスを出る。
定時はすでに過ぎているから問題ない。
駅に向かい、電車に乗る。
今日も電車の中は満員だ。
(しかし、なんて言って切り出せばいいんだ?)
美郷のことで悩んでいると、二つめの駅についた。
開いたドアから見知った顔が乗ってくる。
美郷だ。
こちらが乗っているのはお見通しといった様子で、人混みを押し除けて、美郷は俺の横に立つ。
電車が発車すると、間もなく、
「怒らせてしまったみたいでごめんなさい」
と、美郷は言った。
俺は美郷の顔を凝視した。
額の怪我はすでに治っている。
「実はね、仲直りしたいと思ってるの」
口調が女らしいもの戻っている。
(もとの美郷に戻ったのか?)
期待してしまったが、密集した衆人環境なので、擬態しているだけだと気付いた。
「……こっちこそ、驚かせてすまなかった」
いろいろとツッコミたいところだが、まずは素直に謝った。
「少し話ができるかな?」
美郷が言った。
「ああ」
と答えたものの、その後は無言になった。
しかたなく、スマホでニュースサイトをチェックする。
美郷もスマホを取り出して。
何が忙しそうに入力していた。
(こうしていると、ただの女なのにな……)
電車が駅に着く。
俺が電車を降りると美郷もいっしょに降りてきた。
俺の家まで来るつもりだろうか。
何か話しかけようとしたとき、
「この時間の電車は疲労するな」
と、美郷が呟いた。
口調が軍人のようなものに戻ってしまった。
(その喋り方はやっぱりムカつくなぁ……)
と、改めて思う。
喋る気がなくなってしまい、無言のまま、俺たちはマンションまでの道を歩いた。
「……こっちで少し話そうか」
公園の前を通りかかったとき、美郷が言った。
大きめの公園だ。綿久公園という名前は知っているが、あまり入ったことはない。
奥には展望台もあり、景色が綺麗だとは聞いたことがある。
「空を見ながら話したい」
と言いながら、展望台のほうに向かって美郷は歩き出した。
ロマンチックなことを言うようになったもんだ。
展望台まで来ると、美郷は星が出ている空を眺めながら言った。
「私は星空が好きだ。やはり、この星空の中で生きていたいと願ってしまう」
何か語り出した。
正直、俺にはどうでもいい。
「この前は、おどかしてすまなかった」
俺は言った。
「気にやまなくていい。私は特に気にしていない」
美郷はそう言ってくれた。
あの時、俺が振り上げた拳は、美郷には当たらなかった。
美郷の横の枕にクリーンヒットした。
ギリギリで抑制が効いたようだ。
『……今日は帰ってくれ』
一緒にいる気もなかったので、そう言って追い返した。
美郷が出て、ベッドの上でぼんやりしていると、
どさどさどさ。
と、すごい音をが聞こえてきた。
驚いて部屋の外に見に行くと、美郷が階段の踊り場に倒れていた。
足を踏み外して転げ落ちてしまったらしい。
「おい、大丈夫か?」
駆け寄った俺に、美郷は額から血を流しながらこう言った。
『マグワヒとは足腰を痛めるものなのだな。足に力が入らなかったよ』
「怪我はもう大丈夫なんだな」
「君が気に止むことはない。私が勝手に怪我しただけだからな。修復には1週間かかったが」
今の美郷は本当のことしか言わない。裏を勘繰る必要もない。だから本当に気にしていないのだろう。
「だが、私といることで、君は満足なのか?」
「……ん?」
「私といることで、君が余計な苦労を抱えるのなら、私は君から離れるべきではないだろうか」
「……確かに、お前といるとすごいストレスだよ。可愛い美郷の口から小難しい言葉が出てくるのは、なんかムカつくしな」
「……やはりそうか」
「だから、1つだけワガママ言わせてくれ。口調だけは、俺の前でも美郷のように擬態してくれ」
「…….わかった。こんなかんじでいい?」
「ああ。それなら俺もストレスが少なく過ごせる。助かるよ」
「それで?」
「ん?」
「このまま、私と生活していくつもり? 口調は直したけど、根本的な解決になってないと思うけど?」
ん?
「お前は……俺も別れたいのか?」
「私と別れた方がいいんじゃないの? って言ってるんだけど?」
ぞわり。
あくまで、俺のために、というスタンスのフリをして。
別れる方向に持っていこうとしている。
冗談じゃない。
婚約までしてるんだ。
今更別れるものか。
ぞわりぞわり。
悪寒のようなものが、体の中を駆け巡る。
自分が悪くないというフリをして、別れようとしている。
こんなケースは以前にも経験がある。
「お前、他に男ができたのか?」
「……なんのこと?」
間があった。視線が下に落ちた。
間違いない。
濃厚に男の気配を感じた。
「どういうことだよ、おい」
美郷の胸ぐらを掴む。
「痛い。やめてよ」
「詳しく話せ。でないと離さん」
俺の腕に力がこもる。
今度は抑制が効きそうになかった。
檜山から、指摘された。
「そうか?」
「ほら、またここに脱字がありますよ?」
「あ~、すまん」
「これで今日3つ目ですよ」
どうも集中力が欠けているようだ。
理由は分かっている。美郷のことが気にかかっているのだ。
この前、家を出て行ってから連絡一つよこさない。
いや、こちらから連絡するべきなのは分かっているのだが……。
「疲れてんのかな。今日は早めに引き上げるわ。こっちの資料、代筆頼めるか?」
「お、任せてくれるんですか?光栄だなぁ」
「部下に一任するのがいい上司ってやつだよ」
調子のいいことを言って檜山に仕事を丸投げした。
そのまま鞄を持ってオフィスを出る。
定時はすでに過ぎているから問題ない。
駅に向かい、電車に乗る。
今日も電車の中は満員だ。
(しかし、なんて言って切り出せばいいんだ?)
美郷のことで悩んでいると、二つめの駅についた。
開いたドアから見知った顔が乗ってくる。
美郷だ。
こちらが乗っているのはお見通しといった様子で、人混みを押し除けて、美郷は俺の横に立つ。
電車が発車すると、間もなく、
「怒らせてしまったみたいでごめんなさい」
と、美郷は言った。
俺は美郷の顔を凝視した。
額の怪我はすでに治っている。
「実はね、仲直りしたいと思ってるの」
口調が女らしいもの戻っている。
(もとの美郷に戻ったのか?)
期待してしまったが、密集した衆人環境なので、擬態しているだけだと気付いた。
「……こっちこそ、驚かせてすまなかった」
いろいろとツッコミたいところだが、まずは素直に謝った。
「少し話ができるかな?」
美郷が言った。
「ああ」
と答えたものの、その後は無言になった。
しかたなく、スマホでニュースサイトをチェックする。
美郷もスマホを取り出して。
何が忙しそうに入力していた。
(こうしていると、ただの女なのにな……)
電車が駅に着く。
俺が電車を降りると美郷もいっしょに降りてきた。
俺の家まで来るつもりだろうか。
何か話しかけようとしたとき、
「この時間の電車は疲労するな」
と、美郷が呟いた。
口調が軍人のようなものに戻ってしまった。
(その喋り方はやっぱりムカつくなぁ……)
と、改めて思う。
喋る気がなくなってしまい、無言のまま、俺たちはマンションまでの道を歩いた。
「……こっちで少し話そうか」
公園の前を通りかかったとき、美郷が言った。
大きめの公園だ。綿久公園という名前は知っているが、あまり入ったことはない。
奥には展望台もあり、景色が綺麗だとは聞いたことがある。
「空を見ながら話したい」
と言いながら、展望台のほうに向かって美郷は歩き出した。
ロマンチックなことを言うようになったもんだ。
展望台まで来ると、美郷は星が出ている空を眺めながら言った。
「私は星空が好きだ。やはり、この星空の中で生きていたいと願ってしまう」
何か語り出した。
正直、俺にはどうでもいい。
「この前は、おどかしてすまなかった」
俺は言った。
「気にやまなくていい。私は特に気にしていない」
美郷はそう言ってくれた。
あの時、俺が振り上げた拳は、美郷には当たらなかった。
美郷の横の枕にクリーンヒットした。
ギリギリで抑制が効いたようだ。
『……今日は帰ってくれ』
一緒にいる気もなかったので、そう言って追い返した。
美郷が出て、ベッドの上でぼんやりしていると、
どさどさどさ。
と、すごい音をが聞こえてきた。
驚いて部屋の外に見に行くと、美郷が階段の踊り場に倒れていた。
足を踏み外して転げ落ちてしまったらしい。
「おい、大丈夫か?」
駆け寄った俺に、美郷は額から血を流しながらこう言った。
『マグワヒとは足腰を痛めるものなのだな。足に力が入らなかったよ』
「怪我はもう大丈夫なんだな」
「君が気に止むことはない。私が勝手に怪我しただけだからな。修復には1週間かかったが」
今の美郷は本当のことしか言わない。裏を勘繰る必要もない。だから本当に気にしていないのだろう。
「だが、私といることで、君は満足なのか?」
「……ん?」
「私といることで、君が余計な苦労を抱えるのなら、私は君から離れるべきではないだろうか」
「……確かに、お前といるとすごいストレスだよ。可愛い美郷の口から小難しい言葉が出てくるのは、なんかムカつくしな」
「……やはりそうか」
「だから、1つだけワガママ言わせてくれ。口調だけは、俺の前でも美郷のように擬態してくれ」
「…….わかった。こんなかんじでいい?」
「ああ。それなら俺もストレスが少なく過ごせる。助かるよ」
「それで?」
「ん?」
「このまま、私と生活していくつもり? 口調は直したけど、根本的な解決になってないと思うけど?」
ん?
「お前は……俺も別れたいのか?」
「私と別れた方がいいんじゃないの? って言ってるんだけど?」
ぞわり。
あくまで、俺のために、というスタンスのフリをして。
別れる方向に持っていこうとしている。
冗談じゃない。
婚約までしてるんだ。
今更別れるものか。
ぞわりぞわり。
悪寒のようなものが、体の中を駆け巡る。
自分が悪くないというフリをして、別れようとしている。
こんなケースは以前にも経験がある。
「お前、他に男ができたのか?」
「……なんのこと?」
間があった。視線が下に落ちた。
間違いない。
濃厚に男の気配を感じた。
「どういうことだよ、おい」
美郷の胸ぐらを掴む。
「痛い。やめてよ」
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俺の腕に力がこもる。
今度は抑制が効きそうになかった。
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