マイのまねごと 〜AVやったきっかけ、やってみた感想、それで今ここ〜

寸陳ハウスのオカア・ハン

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第5話 AV女優たちの休日

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 最近は、ちょっといい日が続いている。

 24歳。AV女優になってそろそろ1年になるころ。ようやく、現場がスムーズに終わるようになってきた。
 スタッフに顔を覚えられて、「マイちゃん、今日もよろしくね」と、カメラを回す前から少し笑ってもらえるようになった。監督には「芝居、よくなったね」なんて言われたりする。
 内心では「えっ、ほんと?」ってびっくりしてたけど、顔には出さなかった。出せなかった。

 ちょっとずつできるようにはなってると思う。けれど、まだ怖さは消えない。

 でも、メグちゃんとの共演以来、少しだけ……ほんの少しだけ、自分に自信が持てるようになった気がする。

 初めての、ダブル主演作。ふたりが並んだジャケットは「タイプが違って魅力的」とか、「ふたりの絡みが自然でいい」と評判がよかった。
 マイのふわっとした感じと、メグちゃんのきびきびした空気。撮影のとき、どちらが欠けても成立しないと監督に言われたとき、私は本当に嬉しかった。


***


 休日。今日は友達と3人で遊びに行く。カフェ巡りをする約束だ。

 駅で電車を待っていると、グループチャットにメグちゃんからメッセージが来た。

『ごめん、寝坊した! 先行ってて!』

 メグちゃんはしっかり者のように見えて、意外と抜けてる。でも、一昨日は撮影だったから、まだ疲れが抜けてないんだろうとも思った。私も、撮影の次の日は死んだように寝ちゃうし。
 AVの撮影って、映像で見るより大変なんだよね。長時間同じ体位でキープしたり、カメラの角度で動きを合わせたり……思ってるより、ずっと体力も集中力もいる仕事だ。

『いいよー。焦って事故らないでね! ご安全に!』

 私はメグちゃんに返信すると、電車に乗った。

 待ち合わせの駅で電車を降りると、またスマホの通知音が鳴った。

『マイちゃーん、駅着いたよ!』

 カナちゃんからのメッセージ。
 私はニコニコマークのスタンプを返信すると、すぐに改札をくぐった。

 駅前のベンチで合流したカナちゃんは、水色のシャツを着て、短い黒髪をちょこっと縛って、薄化粧にニコニコ顔で座っていた。服のサイズがちょっと大きめで、ほとんど「部屋着?」って感じだったけど、なんかそれがカナちゃんらしい。

「カナちゃん、お待たせ~! 今日、予定合わせてくれてありがと~」
「いいよ、いいよ。最近、ふたりとも忙しそうだし。じゃ、行こっか」

 一緒に歩きながら、ふたりで他愛もない話をする。
「この前の現場、ソープものだったんだけどさ。マット中にローションで滑って、すってーんって転んじゃったんだよね」
「え、怪我は? 大丈夫だった?」
「うん。私は大丈夫。でも、寝転んでた男優さんのちんちんに肘打ち入っちゃって、しばらく悶絶しちゃって……」
「あ~。まあ、たまにあるよね、そういうの」
「そう、それでね。最近はご安全に! ってみんなで言うようになったんだぁ」
 私が敬礼のポーズを取ると、カナちゃんは笑った。

 カナちゃんとは、メグちゃんの紹介で知り合った。事務所は違うけど、AV女優の先輩。メグちゃんと同じで、なんとなく波長が合う人で、気付けば自然と仲良くなっていた。

 お店に入る。
 よく行く、落ち着いた雰囲気のカフェ。ナッツ入りのキャロットケーキとカフェラテを注文し、ソファ席に腰を下ろす。カナちゃんはミントティー。甘いものは苦手なんだって、前に言ってた。

 飲み物を片手に、話は続く。
「そういえば、そのあと男優さんは大丈夫だった?」
「うん。復活したあとはちゃんとできて、パイズリの見せ方うまくなったねとか、褒めてもらえた」
「おお、よかったじゃん」
「……本音は、まだまだ怖いけどね。誰かに褒められても、まぐれかもとか、たまたまかもって思っちゃうから……」

 ちょっと声が震えた。それをごまかすように、ラテを口にする。

「でもね……最近は、ちゃんとAVやれてる気がするんだ」

 私は、ぎゅっと手を握っていた。

 カナちゃんはゆっくり頷いてくれた。何も言わずに。ただ、優しい目で、「そうなんだね」って。

 それだけで、涙が出そうだった。自分の頑張りを認めてもらえたような気がして、嬉しかった。

「なんだかんだ、マイちゃんも現場慣れてきてるみたいだね」

「……そういえば、カナちゃんって最近あんまり現場出てないよね?」

 ふと、そう聞くと、カナちゃんは少しだけ目を逸らした。

「……んー、ちょっとプライベートがね。バタバタしてて……」

「え、なに? 彼氏できたとか?」

「……ふふ、どうだろうね~」

 ごまかすようにカナちゃんが笑った、その瞬間──。

「おまたせ!」

 カフェの扉が開いて、メグちゃんが入ってきた。黒のニットに細身のスカート、髪はシンプルなハーフアップ。派手じゃないのに、ちゃんと目を惹く。私は、さすが女優だなって感心していた。

 3人でのカフェタイムは、あっという間だった。

 メグちゃんがハマってるアニメの話や、カナちゃんの節約自炊チャレンジの話。私は好きな日本酒の話をした。全部くだらないけど、楽しかった。

 気づいたら夜になっていたので、私は提案した。

「このまま飲み行こ~?」

 3人で、私の行きつけの飲み屋に行って、飲み明かした。気づいたら終電はなくなっていた。

 馬刺しが美味しかったとか、カナちゃんが酔って「レバ刺しって生きてたときの味するよね」とか言い出して、メグちゃんが「それ言うと食べづらくなるからやめて」って真顔でツッコんだり……。そんな夜だった。


***


 翌朝、目を覚ましたら、知らない天井──じゃなくて、自分の部屋の天井があった。

 ベッドで寝てたらしく、毛布がかかっていた。

 キッチンからは、卵を割る音。カナちゃんがエプロン姿で朝ごはんを作ってくれていた。
「起きた~? ごはんできるよ~」
 振り返ると、ソファに寝転がっていたメグちゃんが、虚な目でボヤいていた。

「昨日、ほんと……飲みすぎた……。頭痛い……」
「ふふ、メグちゃんがべろんべろんになってるの、レアだったな~」
 目玉焼きをお皿によそいながら、カナちゃんがニヤニヤする。
「え? カナちゃん、撮ってないよね……? ね?」
「……どうかな~?」
「えー!? なになに? 昨日、何かあったの? 私にも教えてよぉ~!」

 そんなふうにふざけながら、3人で朝食を食べた。焼き魚と味噌汁、卵焼きに白ご飯。カナちゃんの料理は、お母さんの味、って感じがした。

 その日は昼過ぎには解散して、なんとなくそれぞれの場所へ戻っていった。


***


 しばらく経ってから、私はメグちゃんとふたりでカフェに入って、3人で遊んだときの話をした。

「……あれ、楽しかったね」

「うん。……なんか、またやりたいね」

 そして、ふと口にした。

「カナちゃん、最近どうしてるかな?」

 メグちゃんはコーヒーを一口飲んで、ちょっとだけ考えてから言った。

「……きっと、ちゃんと生きてるよ。カナちゃんは、自分のこと、わかってるから」

 感情を押し殺したようなその言葉に、私は頷いた。

 出会いから1年。カナちゃんはAV女優を引退した。
 3人でお茶会したり、買い物に行ったり、温泉にも行った……。親友だった。でも最後は、『今日で辞めるね』というメッセージだけ残して、静かにいなくなってしまった。

 最後のメッセージは、今も覚えている。

『短い間だったけど、ありがとう。バイバイ。マイちゃんは大丈夫。自分を信じて、焦らず、しっかりね』

 メッセージを受け取ったとき、私はすごく動揺した。わけもわからず、メグちゃんに電話をしていた。そのとき、メグちゃんは落ち着いていた。

 たぶん、メグちゃんは気付いてたんだと思う。カナちゃんが、いなくなっちゃうことに……。

 カナちゃんがいなくなってからしばらく経つけど、今でも寂しさを感じる。友達が、本当にいなくなっちゃったんだって。
 メグちゃんはもっと寂しいんだろうと思った。私よりも付き合いが長かったし、なにより、カナちゃんの話をすると、いつも目元に涙がにじむから……。

 それでも、私の人生は続いている。メグちゃんも、同じように。

 だから、ちゃんとやっていこうと思った──私らしく、マイらしく。
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