マイのまねごと 〜AVやったきっかけ、やってみた感想、それで今ここ〜

寸陳ハウスのオカア・ハン

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第8話 メグちゃんとふたり旅行!

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 AV女優・〇〇マイとしての最後の撮影は、いつもより静かに始まり、いつもより静かに終わった。

 引退はごく一部にしか伝えていない。この作品も元々決まっていたスケジュールで、事実上の引退作であることを知る人は少ない。

「マイちゃん、今日もよろしくね!」
 カメラマンの声に、私は微笑んでペコリと頭を下げた。

 今日は女優ふたり、男優ひとりの痴女3Pものの撮影。共演女優はメグちゃんだった。

「マイちゃん。最後、最高の作品にしよう……!」
 バスルームのセット横。こっそり耳打ちするメグちゃんは、いつも以上に気持ちが入っていた。

 言うまでもなく、私が尊敬していた先輩。引退することを直接打ち明けた親友。昔、彼氏の部屋で見たAVの出演者のひとりで、AV女優になるきっかけを作った、あの人。

 だけど今日は——いや、今日くらいは、ただの共演者だった。

 撮影が始まる。
 メグちゃんはいつも通りだった。細やかな気遣い、目線、声のトーン。すべてが私との共演作品のために整えられていた。

 衣装を脱いで裸になったとき、なぜか、最初に見たあの人の作品を思い出した。
 カメラに映るその姿は、たどたどしくも、自分の何かをぶつけるような、そんな強さがあった。

 だけど私は、ずっと上の空だった。

(最後、カナちゃんもこんな感じだったのかな……?)

 段取り通りに絡み、演出通りに喘ぎ、規定時間内に終わらせる。決してサボっていたわけじゃない──けれど心は、もうここにはなかった。

(はぁ~……。終わったぁ~)

 撮影後の楽屋。終わったという事実だけが胸の奥に残った。
 3年の時間はあっけなく終わった。こうして私は、26歳でAV女優を引退した。


***


「マイちゃん。撮影、お疲れ様」
 撮影後、一緒にシャワーを浴びながらメグちゃんが言った。

「ありがとう」
 私が微笑むと、メグちゃんも笑った。でも、その顔は、どこか疲れていた。

「メグちゃん。今度、旅行行こうよ」

 何気なく、私はメグちゃんを誘った。
 これまでも、ふたりでよく遊んだ。旅行に行くのも初めてじゃない。でもAV女優を辞めたら、マイとメグミの関係ではなくなる。そんな気がした。

「いいね! 行こう!」

 泡まみれのメグちゃんは、まるで子供みたいに喜んでいた。それを見て、私はちょっぴり嬉しくなった。

 シャワー中も、そのあとも、私たちは旅行について話しながらスタジオから帰った。


***


 東京からかなり離れた温泉宿。山の中の川沿い、露天風呂つきの広い部屋には、ふたり分の浴衣が並べてある。
 
 湯けむりに包まれて、肌がほんのり赤く染まっていく。

「ふぅ……」
「あぁ~。極楽ぅ~」
「ふふ……。マイちゃん、おじさんみたい」

 湯船の中でおっぱいを浮かしながら、「おっぱい潜水艦~」とか「乳首潜望鏡~」とかふざける私を見て、メグちゃんが笑う。

 肩と肩が触れるくらいの近さ。これまで、たくさん見てきて、触れてきた裸。だけど、もう「撮影」じゃない。ただの友達。女同士の時間。

 AV女優を引退して1ヶ月。私の身体は明らかにたるみ始めていた。対して、メグちゃんのプロポーションはさらに引き締まり、女性らしさを増していた。
 本人は胸も尻もそこそこと言うけれど、湯けむりに包まれ、ほんのりと赤らむその肌は、女の私から見てもドキッとしてしまうほどである。

「メグちゃん、メンテのお店変えた?」
「いつもの場所だよ? どうかしたの?」
「いや、なんか前より身体つきよくなったなぁって」
「あぁ。ちょっと前からジム行ってるんだ」
「すごーい。運動してるの?」
「うん。元々運動は得意じゃないから、体力付けなきゃって思って。それにやってみてわかったけど、意外とストレス発散にもなるしね」
 感心する私の前で、メグちゃんは胸や腰を強調するポーズを取った。

(AV長く続けるのって、大変なんだなぁ……)

 湯船から夜空を見上げながら、私はそんなことを思った。

 お湯のぬくもり、火照っていく肌、湯気と混ざった髪の香り。ふとした仕草に、どこかエッチな意識がにじむ。
 だけど今は、それもただの日常の延長である。

「メグちゃん。お酒、飲も~」

 のぼせる前に、私たちはお湯を上がった。濡れる足が、ピチャピチャと石畳に音を立てた。


***


「あぁ~~っ……! しあわせぇ~……」
「マイちゃん、おじさんなの? ふふふ……」

 机の上には地酒の瓶と、おつまみの皿。浴衣の襟元は緩く、ふたりともほろ酔いである。

 気持ちよくなり、私はごろんと畳に寝転んだ。
 ふと、浴衣の隙間から、メグちゃんのパンツが見えた。撮影のときのようなエロ下着ではなく、ちょっとくたびれた水色の綿のパンツである。

「ねぇ、メグちゃん」
「うん?」
「……昔ね、彼氏とAV見ながらエッチしてたとき、彼氏が、AVやってみたら? って言ったんだよねぇ」

 この話をするのは初めてかなぁ……──酔いの勢いもあって、私の口は少し軽くなっていた。

「え、何それ? 最悪じゃん……」
「でもね。言われてさ、別に嫌じゃなかった。元々、都合よく抱かれてただけだし。身体もそれなりだと思ってたし。それにね……」

 マイは天井を見つめた。

「そのときに彼氏と見たAVの中に、メグちゃんがいたんだぁ」

 私は寝転がったまま視線を上げた。メグちゃんは咄嗟に目を逸らした。そして、それを誤魔化すように、お酒をちびちびと飲んだ。

「私ね、メグちゃんを見て、AV女優になろうって思ったの」

 これまで、誰にも言わなかった思い。それを、私は初めて打ち明けた。

「そうなんだ……」
「全部が全部、メグちゃんが理由だったわけじゃないけどさ……。でも、なんかね、メグちゃんって他の女優さんと違って見えたんだよねぇ」
「……それ、何の作品だったか、覚えてる?」
「うん。大乱交スプラッシュギャルトーナメントみたいな名前だったかな?」
「えっ!? もしかしてスプギャルSEXのこと!? あれ20人くらい出てたやつだよ!? よく私なんか見つけたね……」
 驚いたメグちゃんは、でもちょっとだけ嬉しそうな顔もしていた。

「そのくらいメグちゃんは特別だったんだよ。私にとっては……」

 私が呟くと、メグちゃんは頬を赤らめながら、静かに俯いた。グラスを持つ手はちょっと震えていた。

 しばらくの間、言葉が途切れた。

 どこからか夜風が吹き込む。外の虫の声だけが、すうっと夜に溶けていく。

 時計の針が静かに時を刻む中、寝転んだまま、私はまたぽつりと呟いた。

「ねぇ、メグちゃん」

「……なに」

「毛、パンツからはみ出てる」

「……えっ! ちょ、やめてよ! なんで今それ言うの!? さっきまで雰囲気、台無しじゃん……!」

「あぁ~……だって、ずっと気になってたから、なんか言いたくなっちゃって……」

「もー! 今さらだけど、マイちゃんこそ、おっぱい丸出しでよくあんな空気にできたよね!」

 私たちは笑っていた。

 メグちゃんの笑顔は、どこかで見たあの映像の中の表情よりも、ずっと近くて、ずっと柔らかだった。
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