圏ガク!!

はなッぱち

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新学期!!

圏ガク裏事情

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 翌朝出所すると、呆れ顔の身内に迎えられ、味気ない朝食を五分で片付けた後、愛すべき我が家に帰ってきた。

 反省室で一夜を過ごした経緯をぼかしぼかし伝え、オレらの部屋を荒らした黒幕が興津だった事を話すと、由々式が気まずそうに顔を手で被った。

 何か興津とトラブったのかと皆元が由々式に尋ねる。それにはオレが「違う」と口を挟む。

 エロマンガ教は無関係だ。オレが興津に目を付けられただけだと、皆元に説明すると、何故か由々式が「申し訳ない事をした」とオレを見ながら言った。

「わしが引き会わせてしもうたせいじゃ。あの人がホモじゃちゅーのんは分かっとったんじゃが、夷川までいけるとは思わんかった」

 どういう意味か尋ねると、由々式は一度目を瞑り悩むような素振りを見せた後、迷いなく興津の事を話し始めた。

「単なる男の娘萌えかと思とったんじゃ。夷川は全くタイプが違うからのう」

 男の子燃え、いや萌えだったか。幼い奴が好きなのか。

「いや、男の子じゃのうて、男のむすめと書く方じゃ。あーそうじゃの、分かりやすく言えば女装男子じゃよ」

 なるほど、それなら性悪は興津の好みそのものだな。てか、なんで由々式がそんな事を知ってるんだ。そんな特殊な性癖をベラベラ他人に喋るような奴、あまり想像出来ないんだが。

「神殿の作品で男の娘モノがあっての。たまたま、それを見てえらく気に入ったみたいじゃ。『続きがあるなら見せてくれ、ないなら続きを描いてくれ』と今の環境を整えてくれたんじゃよ」

 呉須がマンガを描く事であの場所を手に入れたらしい。なんか凄まじいな、マンガの力ってのは。

「まあ元から人気があった作品じゃから、続編は出す予定だったんじゃ。かなりニッチなジャンルではあるが、ここにはほれ、リアルな存在が居るじゃろ」

 なるほど、性悪の姿を重ねて、そのマンガを見てシコってる奴がいると……なんか性悪に訴えられそうだな、由々式。

「大丈夫じゃ、読者は良識ある人ばかりじゃからな。こっそり一人で楽しんで貰とるよ。『女装男子大好き!』とか、この学校で宣言出来る猛者はおらん」

 確かに、そんな狂気を孕んだ猛者は見た事ないな。「それが興津の正体だ」と言われれば、納得出来る。

「ちなみに誤解のないよう言うとくが、神殿は学校のメイドをモデルにしてマンガを描いた訳ではないからの。ここに入学する前にあった神殿のオリジナルキャラじゃ。まあ、神殿は読者のリビドーから作品の着想を得とるから、間接的には学校のメイドからアイデアは頂戴しとる事になるがのぅ」

 それ、モデルにしてるって言ってるようなもんだろ。ほんと大丈夫かエロマンガ教。

 圏ガクの暗部を覗いてしまった気分だった。由々式が相手しているのは、生徒会の奴らではなく一般の生徒なはず。それがこぞって性悪に盛っているなんて、ちょっとした悪夢だ。柏木は大丈夫だと言っていたが、本当に性悪は安全に生活出来ているんだろうか。間違いなく余計なお世話だろうが、そんな詮無い事を少し思った。

 興津の性癖は明らかになったが、好みはあれど男のケツならなんでもいいという、はた迷惑な嗜好であるのも事実で、それと真っ正面から対峙する羽目になってしまったオレは、その日なかなか寝付けない夜を過ごした。

 オレ自身が狙われるだけならば問題はない。心底胸糞悪いがケンカを売られたと解釈すれば、対処法はシンプルで分かりやすい。

 けれど、問題はそこではないのだ。興津が握っている性悪の秘密を寮長に暴露させる事は避けたい。性悪に対して同情とかそういうのも多少はあるが、何より先輩が守っていたモノをスルーするのは嫌だった。興津の好きにさせた日には、ちゃんと戻って来た先輩が、悲しい顔をするのは目に見えているからな。

「まあ、性悪の事は生徒会……つーか、会長が保護してるんだよな」

 抑止としての柏木の力は、オレも目の当たりにしたので、性悪の身の安全は考えなくてもいいだろう。なら、事は意外にシンプルなのかもしれない。

 寮長に興津を接触させなければいい。疑う事なく信じてくれそうな単細胞もとい素直な(らしい)執事もどきがいる。朝一でアイツに一言声をかけておこう。

 一つ問題が解決したように思えたが、残った問題の大きさに自然と溜め息が零れた。

 寮長は対策が立てられるが、もう一方はどうしたものかと、改めて頭が痛くなる。
 先輩を目の敵にしている久保、そいつに興津は有ること無いこと吹き込もうとしている。それを阻止するにはどうしたらいいのか、まるで答えが見つからなかった。

 オレが百万払えばその情報を売ってやると言っていたが、見事に決裂させてしまったからな。別れ際の興津の様子を思うに、仮に今から百万持って行ったとしても、黙っているとは考えられない。

「刑事のオッサン……芭灯とか言ってたっけ。あの人、まだ学校に居るのかな」

 あの人に連れ帰ってもらうのが手っ取り早いんだけど……まあ、興津をとっ捕まえて監禁するよりは、現実的な案ではある。明日はダメ元でオッサンを探してみよう。

 やる事、いや、やれる事が見つかると、いつの間にか眠気も出てきた。欠伸一つして眠気に身を委ね意識を手放そうとした時、先輩に殴られた頬がにぶく痛んだ。

「せんぱい……だいじょうぶ……だよな」

 子供みたいに泣く先輩の顔を思い出して、守ってやりたいという気持ちが、形にならない不安を揉み消した。眠りに落ちる前、最後に感じたのは自分の胸にある熱さだった。
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