29 / 411
家畜生活はじまりました!
魔窟発見!
しおりを挟む
「てめぇ、飼い犬の躾けくらいしとけよ。ま、まあ、今回は大人しく横に立っているってんなら、許してやらん事もないけどさ」
向田の阿呆な言い草は、完全に右から左だった。扉に手をかけたまま、硬直するオレを怪訝な顔で見る向田は、事もあろうに再び地獄の蓋を開けようとしてきた。
「おい、夷川。手を離せ。中に入らない事には話しにならないだろうが!」
馬鹿を言う向田と睨み合いながら、文字通り押し問答していると、中の連中に気付かれてしまったらしく、おぞましい気配が扉に近づいて来る。
「あっれ~、今ぁ扉の所に誰か居なかった? もしも~し」
女のような甲高い声が聞こえ、中から扉をノックする音が聞こえた。思い切り向田を睨み付けてやったが、奴は顎を馬鹿みたいに空に向け、
「一年の向田です。遅くなって申し訳ない。ご所望の夷川を連れて参りました」
扉の先に居る、生徒会の連中に声をかけやがった。例え、中から開けられようとしても、この手は絶対に離すまいと、向田と一緒に来ているだろう同行者に手伝えと声を張り上げるが、まるで返事がない。すると、向田が愉快そうにオレを無理矢理見下ろし、スバルの行方を鬼の首でも取ったように教えてくれた。
「残念だったね、おまえのアホ犬は腹が減ったって言いながら購買の方へ走って行ったよ」
そうだな、スバルを当てにする方が間違ってたな。ある種の覚悟が決まると同時に、部屋の中から外で押さえるオレの力なんて物ともせず、強引に扉が開かれてしまった。
「やっだわ。ホントにアタイ好みのイケメンじゃないー。向田だったかしらぁ、アンタお手柄ねぇ」
扉の向こうから目の前に現れた化け物にウインクらしきモノをかまされ、脳が激しいダメージを受け思考が麻痺する。そのせいで、すぐにその場を飛び退けば避けられたはずの、オレの方へと伸ばされた重機のような腕に掴まれ、化け物の巣窟である生徒会室に引きずり込まれてしまう。
プンと鼻に付くのは、化粧品や香水の臭いと、その真逆である男臭さが、濃厚にブレンドされた異臭だった。
室内は正に生徒の校内私物化の極みで、ここが学校という施設の名残は何一つなさそうだ。煌びやかと言えば聞こえはいいが、正直な事を言わせて貰うと悪趣味以外の何物でもなく、どんなに豪華な家具を配置しようと真っ当には見えない。その理由は一つ。その場に居合わせた奴らがどう見ても頭が湧いているとしか思えないからだ。
「へぇ~、本当だ。すごくかっこいいね、夷川くん」
オレの顔を覗き込むように、小さく一歩近づいて来たのは、声からしてさっき扉を中からノックした奴だろう。どこにでも居そうな顔した女子が必死こいてメイクしましたと言ったイタさが滲み出たそいつは、秋葉原にでも居そうなミニスカートのメイド服でコスプレバイト中といった様相だ。
「みんな、駄目だろ。会長が来るまでに、そんな詰め寄ったら。あ、あぁっ、こんな格好した僕らを見て……彼がどう思ってるかって考えると、僕は、もうっ!」
見るからにやらされてます感が半端ない女装の男は、部外者のオレの視線にさらされ恥ずかしいらしく、頭を抱え込みその場で蹲るという真っ当な反応を見せるが、なんか後半は妙な息づかいになり、変態という言葉を代名詞にしても問題ないような身悶えを始めた。
「よねぇ~、もうたまんないわぁ。アタイ今夜は張り切っちゃうわよぉ」
そして鼻息でそこら辺の観葉植物を腐らせそうなこの化け物は、女装とも変態とも呼ぶことを躊躇わせるくらいのインパクトがあった。
その三人の姿はここが圏ガクでなくてもおかしいのだが、まあ普通の高校なら、ちょっとしたジョークで済まされるのかもしれない。だが、ここは圏ガクだ。紛れもなく男子校なのだ。要するにここに居る奴らは全員もれなく女装していたのだ。しかもなんの趣向か知らないが、メイド姿という異常を異様で塗りたくるような有様で。
女装、変態、化け物に取り囲まれ、オレは次第にその包囲網が狭まってきている事に気が付いた。
「夷川……夷川なんて言うんだったかしら?」
化け物が向田に答えろと言わんばかりの視線を投げると、この三妖怪を前に顔色一つ変えない奴は、オレを売り飛ばそうとしているのか、軽快なセールストークばりに饒舌だった。
「清春です。どういう理由かは知りませんが、どうも名前で呼ばれるのを嫌っているようです。身動きが取れないようにしてから、存分に嬲ってやる時にでも名前で呼んでやって下さい。それはもう、先輩方を楽しませる反応をすると保証しますよ」
向田の答えに、化け物は壮絶な笑みを浮かべて、他の二人より一歩前に進み出る。
「そりゃあ楽しみだ。そのくそ生意気そうな顔をどろどろにしてやるよ。おい、コイツはおれが貰うぞ。いいな」
おかまの芝居を切り上げ、面白可笑しく化粧を塗りたくった顔が獰猛な男の顔に戻った化け物は、今まで味わった事のない強烈な嫌悪感をオレに植え付けていく。そいつの視線が這った場所は、汚物を投げつけられたみたく気色が悪い。
向田を盾にして、なんとかここから逃げだそう。オレが逃走ルートを頭の中でシミュレーションし始めると、女装と変態が化け物の言動に非難めいた声を上げた。
「それはダメだよ。一番最初は会長なんだから! 先に味見とかも絶対ダメなんだから!」
「そ、そうです笹倉君。彼を呼び出したのは会長です。夜会のゲストになるかは、まだ分かりませんし、不用意な発言は控えて頂かないと。仮に彼が会長のご寵愛を受ける事にでもなったら、今の発言は大問題に発展しますよ」
それを聞いて、この三人の中に会長が居ない事に安堵した。最悪の展開は避けられた……と一瞬は思ったのだが、こいつらよりも、もっとえげつないのが出てきたらどうしようと、安堵したのも束の間、更に不安が増してしまった。
「だから、だよ。こんな上玉めったに居ねぇぞ。それこそゴチョウアイ受けちまう。そうなったら手出せねーだろが! お前らにも後で回してやるから、黙ってろよ。なぁ向田?」
妖怪包囲網の外に立つ向田は、化け物の問いかけに一瞬だけ顔を顰めたように見えた。商品の引き渡し先を間違えた、みたいな自分のミスを発見してしまったのだろう。
ここでこの化け物にオレがボコられたら、会長からの依頼を自分で破棄してしまうようなものだ。オレだってタダで殴られてやるつもりはないが、どうにも体格差がありすぎる。力士のような固そうな脂肪を巻き付けた化け物は、ただのデブと認識して舐めてかかると絶対に痛い目に遭うと、自分の防衛本能が訴えかけてくる。
「笹倉先輩……そのご心配には及びません」
向田はギリギリまで答えを引き延ばし、暫し沈黙の後、何か思い浮かんだのだろう、顔を上げるとセールスマンの仮面をしっかりと被り直していた。
「この夷川、見てくれは上等そうに見えますが、中身は礼儀の知らないただのガキです。口も悪いが、口よりも手足が先に出るような、悪癖もあります。会長は六岡先輩のような楚々とした方がお好みと聞きました。この夷川が会長のご寵愛を受けるなど、とてもそのような大役、務まるはずがありません。せいぜい、夜会のゲストが関の山でしょう」
ヤカイってなんだ? 圏ガクの学校行事だろうか。そんな面倒事を押しつけられるのはまっぴらだったが、それを聞くや、化け物は上機嫌で芝居を再開し始めた。「それならいいのよん」と巨体をくねらせ、不気味な笑みをオレに向け他の二人と同じ線上に戻った。けれど向田の言葉は、反対に機嫌を損ねた相手も居るようだった。
「向田くん、それ、誰が言ってたのか聞いていい?」
女装が向田に満面の笑みを向けた。そこに好意的なモノは存在せず、その代わりに底冷えするような悪意が目に見えるようだった。
「えと、なんの、事でしょうか?」
冷や汗を流し、先ほどまで絶好調だった舌はカラカラに乾いてしまっているらしく、向田は歯切れの悪い返事をした。次の瞬間、オレと向田は同時に凄まじい寒気に襲われた。
「会長の好みがミサだなんて、誰がそんな根も葉もない事を言ってたのって聞いたんだけど?」
女装はゆっくりと向田へと歩き始めた。オレとしては、殺気の塊が徐々にでも遠のいているのでありがたかったが、矛先の向田は気の毒なくらい血の気のない顔で後退っている。
「あの、誰に聞いたって訳では、なくてですね……会長のお側でよく六岡先輩をお見かけするので、そうなのかなと思いまして」
向田の答えに女装は「ふぅーん、そうなんだぁ」と、再び満面の笑みを零す。女装の足は止まらず、向田との距離がほぼゼロになる位置まで進められた。
部屋の隅で追い詰められるような状況の向田は、こちらに視線を泳がせて図々しくも助けてくれと言うような表情をして見せた。ただでさえ気に食わない上、人を物のように扱ってくれた向田をオレが助けに入る理由などなく、化け物と変態も同じくその理由はなさそうだった。
「小清水の前で、その話題はタブーですよ。いえ、小清水だけに限りません。先ほどの発言は僕にとっても不快でした。会長は誰にとっても尊い御方なのです、例え六岡君であろうと、会長の神性を汚すような事は許されるべきではありません」
変態が真面目な顔をして、なんかとんでも発言をしていた。生徒会長はお前にとって神なのか? いや、神だったな……ここでは三年は神ならしいから、特別とんでもないって訳でもないのか。
「ま、アタイはどうでもいいけどねぇ。向田は残念ねぇー、せっかく生徒会に入れたのに、一度も楽しめず追い出されちゃうな、ん、て」
化け物が何故かオレの方を見てそう言った。気色の悪い顔から目を背け、向田と女装へと視線を戻す。しかしこれで向田はクビになるのか……向田の女装姿を皆元らとこっそり覗いて、爆笑してやろうと密かに思っていたのに残念だな。
「て、ことはぁ~、向田くんには、会長がミサを気に入ってるって思ったんだよねー。でもぉ、どうしてミサなのかな? わたしだって会長にたくさん可愛がってもらってるのになぁ。わたしの方が、ミサよりたくさん会長のお相手させて頂いてるのになぁ。ねぇ、どうしてそう思ったの? わたしよりミサの方が会長の好みだって、どうしてそう思っちゃったの? 答えてよ」
女装は指先で自分の髪を弄びながら、至近距離で向田をネチネチと問い詰めていた。向田は誰からも助け船はないと悟ったらしく、自分でなんとかしようと口を開きかけていた。
向田の阿呆な言い草は、完全に右から左だった。扉に手をかけたまま、硬直するオレを怪訝な顔で見る向田は、事もあろうに再び地獄の蓋を開けようとしてきた。
「おい、夷川。手を離せ。中に入らない事には話しにならないだろうが!」
馬鹿を言う向田と睨み合いながら、文字通り押し問答していると、中の連中に気付かれてしまったらしく、おぞましい気配が扉に近づいて来る。
「あっれ~、今ぁ扉の所に誰か居なかった? もしも~し」
女のような甲高い声が聞こえ、中から扉をノックする音が聞こえた。思い切り向田を睨み付けてやったが、奴は顎を馬鹿みたいに空に向け、
「一年の向田です。遅くなって申し訳ない。ご所望の夷川を連れて参りました」
扉の先に居る、生徒会の連中に声をかけやがった。例え、中から開けられようとしても、この手は絶対に離すまいと、向田と一緒に来ているだろう同行者に手伝えと声を張り上げるが、まるで返事がない。すると、向田が愉快そうにオレを無理矢理見下ろし、スバルの行方を鬼の首でも取ったように教えてくれた。
「残念だったね、おまえのアホ犬は腹が減ったって言いながら購買の方へ走って行ったよ」
そうだな、スバルを当てにする方が間違ってたな。ある種の覚悟が決まると同時に、部屋の中から外で押さえるオレの力なんて物ともせず、強引に扉が開かれてしまった。
「やっだわ。ホントにアタイ好みのイケメンじゃないー。向田だったかしらぁ、アンタお手柄ねぇ」
扉の向こうから目の前に現れた化け物にウインクらしきモノをかまされ、脳が激しいダメージを受け思考が麻痺する。そのせいで、すぐにその場を飛び退けば避けられたはずの、オレの方へと伸ばされた重機のような腕に掴まれ、化け物の巣窟である生徒会室に引きずり込まれてしまう。
プンと鼻に付くのは、化粧品や香水の臭いと、その真逆である男臭さが、濃厚にブレンドされた異臭だった。
室内は正に生徒の校内私物化の極みで、ここが学校という施設の名残は何一つなさそうだ。煌びやかと言えば聞こえはいいが、正直な事を言わせて貰うと悪趣味以外の何物でもなく、どんなに豪華な家具を配置しようと真っ当には見えない。その理由は一つ。その場に居合わせた奴らがどう見ても頭が湧いているとしか思えないからだ。
「へぇ~、本当だ。すごくかっこいいね、夷川くん」
オレの顔を覗き込むように、小さく一歩近づいて来たのは、声からしてさっき扉を中からノックした奴だろう。どこにでも居そうな顔した女子が必死こいてメイクしましたと言ったイタさが滲み出たそいつは、秋葉原にでも居そうなミニスカートのメイド服でコスプレバイト中といった様相だ。
「みんな、駄目だろ。会長が来るまでに、そんな詰め寄ったら。あ、あぁっ、こんな格好した僕らを見て……彼がどう思ってるかって考えると、僕は、もうっ!」
見るからにやらされてます感が半端ない女装の男は、部外者のオレの視線にさらされ恥ずかしいらしく、頭を抱え込みその場で蹲るという真っ当な反応を見せるが、なんか後半は妙な息づかいになり、変態という言葉を代名詞にしても問題ないような身悶えを始めた。
「よねぇ~、もうたまんないわぁ。アタイ今夜は張り切っちゃうわよぉ」
そして鼻息でそこら辺の観葉植物を腐らせそうなこの化け物は、女装とも変態とも呼ぶことを躊躇わせるくらいのインパクトがあった。
その三人の姿はここが圏ガクでなくてもおかしいのだが、まあ普通の高校なら、ちょっとしたジョークで済まされるのかもしれない。だが、ここは圏ガクだ。紛れもなく男子校なのだ。要するにここに居る奴らは全員もれなく女装していたのだ。しかもなんの趣向か知らないが、メイド姿という異常を異様で塗りたくるような有様で。
女装、変態、化け物に取り囲まれ、オレは次第にその包囲網が狭まってきている事に気が付いた。
「夷川……夷川なんて言うんだったかしら?」
化け物が向田に答えろと言わんばかりの視線を投げると、この三妖怪を前に顔色一つ変えない奴は、オレを売り飛ばそうとしているのか、軽快なセールストークばりに饒舌だった。
「清春です。どういう理由かは知りませんが、どうも名前で呼ばれるのを嫌っているようです。身動きが取れないようにしてから、存分に嬲ってやる時にでも名前で呼んでやって下さい。それはもう、先輩方を楽しませる反応をすると保証しますよ」
向田の答えに、化け物は壮絶な笑みを浮かべて、他の二人より一歩前に進み出る。
「そりゃあ楽しみだ。そのくそ生意気そうな顔をどろどろにしてやるよ。おい、コイツはおれが貰うぞ。いいな」
おかまの芝居を切り上げ、面白可笑しく化粧を塗りたくった顔が獰猛な男の顔に戻った化け物は、今まで味わった事のない強烈な嫌悪感をオレに植え付けていく。そいつの視線が這った場所は、汚物を投げつけられたみたく気色が悪い。
向田を盾にして、なんとかここから逃げだそう。オレが逃走ルートを頭の中でシミュレーションし始めると、女装と変態が化け物の言動に非難めいた声を上げた。
「それはダメだよ。一番最初は会長なんだから! 先に味見とかも絶対ダメなんだから!」
「そ、そうです笹倉君。彼を呼び出したのは会長です。夜会のゲストになるかは、まだ分かりませんし、不用意な発言は控えて頂かないと。仮に彼が会長のご寵愛を受ける事にでもなったら、今の発言は大問題に発展しますよ」
それを聞いて、この三人の中に会長が居ない事に安堵した。最悪の展開は避けられた……と一瞬は思ったのだが、こいつらよりも、もっとえげつないのが出てきたらどうしようと、安堵したのも束の間、更に不安が増してしまった。
「だから、だよ。こんな上玉めったに居ねぇぞ。それこそゴチョウアイ受けちまう。そうなったら手出せねーだろが! お前らにも後で回してやるから、黙ってろよ。なぁ向田?」
妖怪包囲網の外に立つ向田は、化け物の問いかけに一瞬だけ顔を顰めたように見えた。商品の引き渡し先を間違えた、みたいな自分のミスを発見してしまったのだろう。
ここでこの化け物にオレがボコられたら、会長からの依頼を自分で破棄してしまうようなものだ。オレだってタダで殴られてやるつもりはないが、どうにも体格差がありすぎる。力士のような固そうな脂肪を巻き付けた化け物は、ただのデブと認識して舐めてかかると絶対に痛い目に遭うと、自分の防衛本能が訴えかけてくる。
「笹倉先輩……そのご心配には及びません」
向田はギリギリまで答えを引き延ばし、暫し沈黙の後、何か思い浮かんだのだろう、顔を上げるとセールスマンの仮面をしっかりと被り直していた。
「この夷川、見てくれは上等そうに見えますが、中身は礼儀の知らないただのガキです。口も悪いが、口よりも手足が先に出るような、悪癖もあります。会長は六岡先輩のような楚々とした方がお好みと聞きました。この夷川が会長のご寵愛を受けるなど、とてもそのような大役、務まるはずがありません。せいぜい、夜会のゲストが関の山でしょう」
ヤカイってなんだ? 圏ガクの学校行事だろうか。そんな面倒事を押しつけられるのはまっぴらだったが、それを聞くや、化け物は上機嫌で芝居を再開し始めた。「それならいいのよん」と巨体をくねらせ、不気味な笑みをオレに向け他の二人と同じ線上に戻った。けれど向田の言葉は、反対に機嫌を損ねた相手も居るようだった。
「向田くん、それ、誰が言ってたのか聞いていい?」
女装が向田に満面の笑みを向けた。そこに好意的なモノは存在せず、その代わりに底冷えするような悪意が目に見えるようだった。
「えと、なんの、事でしょうか?」
冷や汗を流し、先ほどまで絶好調だった舌はカラカラに乾いてしまっているらしく、向田は歯切れの悪い返事をした。次の瞬間、オレと向田は同時に凄まじい寒気に襲われた。
「会長の好みがミサだなんて、誰がそんな根も葉もない事を言ってたのって聞いたんだけど?」
女装はゆっくりと向田へと歩き始めた。オレとしては、殺気の塊が徐々にでも遠のいているのでありがたかったが、矛先の向田は気の毒なくらい血の気のない顔で後退っている。
「あの、誰に聞いたって訳では、なくてですね……会長のお側でよく六岡先輩をお見かけするので、そうなのかなと思いまして」
向田の答えに女装は「ふぅーん、そうなんだぁ」と、再び満面の笑みを零す。女装の足は止まらず、向田との距離がほぼゼロになる位置まで進められた。
部屋の隅で追い詰められるような状況の向田は、こちらに視線を泳がせて図々しくも助けてくれと言うような表情をして見せた。ただでさえ気に食わない上、人を物のように扱ってくれた向田をオレが助けに入る理由などなく、化け物と変態も同じくその理由はなさそうだった。
「小清水の前で、その話題はタブーですよ。いえ、小清水だけに限りません。先ほどの発言は僕にとっても不快でした。会長は誰にとっても尊い御方なのです、例え六岡君であろうと、会長の神性を汚すような事は許されるべきではありません」
変態が真面目な顔をして、なんかとんでも発言をしていた。生徒会長はお前にとって神なのか? いや、神だったな……ここでは三年は神ならしいから、特別とんでもないって訳でもないのか。
「ま、アタイはどうでもいいけどねぇ。向田は残念ねぇー、せっかく生徒会に入れたのに、一度も楽しめず追い出されちゃうな、ん、て」
化け物が何故かオレの方を見てそう言った。気色の悪い顔から目を背け、向田と女装へと視線を戻す。しかしこれで向田はクビになるのか……向田の女装姿を皆元らとこっそり覗いて、爆笑してやろうと密かに思っていたのに残念だな。
「て、ことはぁ~、向田くんには、会長がミサを気に入ってるって思ったんだよねー。でもぉ、どうしてミサなのかな? わたしだって会長にたくさん可愛がってもらってるのになぁ。わたしの方が、ミサよりたくさん会長のお相手させて頂いてるのになぁ。ねぇ、どうしてそう思ったの? わたしよりミサの方が会長の好みだって、どうしてそう思っちゃったの? 答えてよ」
女装は指先で自分の髪を弄びながら、至近距離で向田をネチネチと問い詰めていた。向田は誰からも助け船はないと悟ったらしく、自分でなんとかしようと口を開きかけていた。
0
あなたにおすすめの小説
春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※この物語はフィクションです。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。
■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
狂わせたのは君なのに
一寸光陰
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる