圏ガク!!

はなッぱち

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新学期!!

だっことおんぶ

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「もう面倒臭いから、俺が運ぶぞ」

 オレを問答無用で抱えながら、先輩はジッと見つめてくる。オレはあまりの事で、すぐに返事を返せなかった。

 足は膝からすくい上げられ、上体は背中に回る先輩の腕の中にスッポリ収まってしまっている。なんだ、この格好。どうにも居心地が悪い。先輩に抱えられるのが嫌って訳じゃないのだが、頭のどこかが全力で拒否っているらしく、全く落ち着かない。

 どうしてか分からず、オレは必死でその理由を探す為に黙ると、承諾したと取ったのか、先輩はそのまま歩き出す。

 オレを抱えたまま、先輩は爪先で器用に食堂の扉を開け、スルリと中に入り込むと静かに扉を閉めて窓に向かう。

「あ!」

 暗闇に慣れた目が、窓ガラスに映る自分の姿に気付き、オレは思わず普通に声を上げてしまった。

「セイシュン? どうした……っおい、暴れるな」

「クソッ下ろせッ! 下ろせよ、バカ!」

 恥ずかしさから逃れる為に全力で抵抗する。居心地悪いはずだ。こんな女みたいな抱かれ方、断固として拒否だ。手足を全力でバタつかせて、床に飛び降りると先輩がガッとオレの頭を掴んで押さえつけた。

 怒りたいのはこっちの方だと抗議する為、先輩を睨み付けると「静かにしろ」と窘められる。

「あん? 誰だ今日の当番は。鍵が開いてんじゃねぇか」

 見回りの教師が無造作に扉を開いたらしい。食堂内を懐中電灯が照らされ、見つかるのではとヒヤリとしたが「明日どやすか」と何もせずに見回りに戻ったようだった。

 足音が階段の方へ遠のいていくのを聞き届けると、先輩がオレの頭から手をどけてくれた。

「セイシュン、大きな声を出すな。見つかりたいのか?」

 素直に謝ると、フッと先輩が軽く息を吐いた。

「ん、俺はお前を連れて行きたいんだが」

 疲れた様子の先輩は「どうするんだ?」
と声に出さず聞いてくる。

 本当はちゃんとケツの中まで洗って、万全の状態で挑みたかったが、何も出ない事を祈って、このまま行くしかなさそうだった。まあ、一度は洗わずヤっちまった訳だしな。大丈夫だろうと納得して、オレは先輩に頷き返す。

「見回りが戻って来る前に行こう」

 立ち上がって先に行こうとしてオレは振り返り、先輩に右手をかざし「自分で歩けるから」と釘を刺した。

 先輩は不思議そうな顔で「わかった」と言ってくれたが変な気を起こして、また抱えられたら堪らないと、先輩に前を歩いて貰い校舎へと向かった。

 物陰を渡り歩き、慎重に校舎へ向かう中、オレは気付いてしまう。

 先輩の態度が妙に余所余所しい。校舎を出る前、具体的には食堂に入り込むまでと比べて、気のせいでは済まない固さが先輩にはあった。

 風呂に寄りたいとごねたり、先輩の手から暴れて逃げたせいかもしれない……いや、確実にそうだろうな。だが、言わせてもらえるなら、どっちもオレだけが悪いってのは納得出来ない。

 本当はケツを洗ってから先輩と合流する予定だった。予定が狂ったのは、待ち合わせに先輩がフライングしたせいだし、逃げたって言っても、あんな抱き方されたら、オレじゃなくても暴れるのは当然だ。

「セイシュン、行くぞ。次はこの先にある植え込みまで走る」

 一人で言い訳を重ねていると、先輩が振り返り、次の行き先を告げてくる。視線が合うと、早速走り出そうとしたので、オレは慌てて服を掴んで引き止めた。

 先輩の瞬発力を見誤り、数歩引きずられたが、何とか引き戻す事に成功する。

「どうしたんだセイシュン、誰かいたか?」

 自分に見落としがあったのかと、辺りを見回す先輩に構わず、その背中に抱きつく。

「さっきの、アレ。別に先輩が嫌とかそういうんじゃないから、勘違いすんなよ」

 離すまいとしがみつくオレの手に、先輩が躊躇いがちに手を重ねてくる。

「セイシュン、あのな……別に嫌なら嫌だと言っていいんだぞ」

「うん、あの抱き方は嫌だ」

 先輩の言葉を受けて、遠慮なく嫌だと言うと、先輩は「抱き方?」と首を傾げた。

「そう、あの抱き方はマジで止めろ! 次にやったら、先輩だろうと本気で殴るからな」

「なんでだ? 落っことしたりしないぞ」

 顔は見えないが声の調子で分かる。コイツは全く分かってねぇ!

「あれは女がされて喜ぶモンなんだよ! 男があんなふうに抱えられるのは変なんだ!」

 そうだ、思い出したぞ。お姫様抱っことかいうんだアレ。ドレス着た女がされてる所をテレビか何かで見た事がある。それを自分がやっていたかと思うと、見つかったらヤバイ事を忘れて叫び出しそうだ。

「でも、いつもはお前から飛び付いてくるじゃないか」

 不服そうな声を上げる先輩。

「あのコアラみたいな抱き方は、男がされて喜ぶモノなのか?」

 どうなんだろ? 少なくとも女っぽくはないからオレはOKだ。

「んーよくわからんが、わかった」

 絶対に分かってねぇだろ。

「とにかく、掘られる方をやるからって、オレを女扱いしたらマジでキレるから覚えとけよ」

 ビシッと言い渡し、オレは先輩の背中に飛び乗った。これはいいのかと言いたげな気配を感じたので「これはいいんだ」と言い切ってやると、軽く吹き出して先輩は元の柔らかさを取り戻してくれた。

 校舎までの(見回りの目が厳しい)危険な道のりを先輩の背中の上でやり過ごし、オレらは無事に校舎へと到着する。

 あまりに乗り心地がいいので、下りようか迷ってしまったが、久し振りに夜の校舎を歩きたくなったので下ろして貰う。

 夏休みですっかり通い慣れてしまった、三年の為に開放されている扉から校舎に入り、二人並んで先輩の部屋を目指す。

「なあ、今って冷蔵庫に誰かいるの?」

 静かな校舎を歩きながら、ふと気になった事を尋ねてみる。冷蔵庫という言葉では伝わらず、エアコンのある視聴覚室だと訂正すると、先輩は冷蔵庫という言葉にも納得してくれたのか少し笑った。そして、残念な事に「いるよ」と返されてしまった。

「休みの日は真山が使ってるな。遅くまで勉強するから、同室の奴に気を使って学校に来てるみたいだ」

 部屋は随分と離れているが、隣では髭が真面目に受験勉強をしているのか。別に関係ないと言えば関係ないのだが、申し訳なく感じるのは何故だ。

「山本たちと違って、真山は勉強してると思うから、遊びには行けないぞ」

「行かねーよ。初めてケツ掘られるって時にそんな余裕ねぇわ」

 明後日を向いた勘違いを即座に否定してやる。ちょっと気圧されたように「おぉ、そうか」と言う先輩がおかしい。

 まあ、誰かいても大丈夫だよな。扉を閉めていれば、離れた部屋まで音は聞こえないだろうし。まかり間違っても、山センみたいに邪魔しに来る事はないもんな。

 自分がどれくらい声を上げるのか、全く予想出来ないので何とも言えないが、何枚も壁を貫くような奇声は上げないだろう。ケツに指を突っこまれた感覚から察するに、女みたいに嬌声を上げるのは意図しても難しそうだしな。

 先輩の部屋に入る前に、少し廊下で冷蔵庫の様子を窺ってみるが、他に出入りしている奴もいないのか実に静かだったので、オレは安堵して部屋に飛び込んだ。

 念の為に扉に鍵をかけようと、先に部屋に入った先輩に背中を向けると同時にソレは聞こえてきた。

「おかえり、セイシュン」

 声につられて振り返ると、少し照れ臭そうな顔をした先輩が立っている。

 ここに戻らなくなって、たった数日しか空いていない。それなのに酷く懐かしい先輩の部屋だ。

 先輩の言葉に胸が熱くなりながらも、自分が夏休み最後になんと言ってここを出たのか思い出し、どうしてか少し震える声でオレは「ただいま」と言った。

 感動で胸が詰まったが、ここに何をしに来たのかを思い出し、違った意味で顔が熱くなった。待ちに待った状況な訳だが、意識しすぎるせいか、妙な空気が流れる。

「あー……とりあえず、何か飲むか?」

 同じ空気を感じ取ったのか、先輩が冷蔵庫を開けて、夏休みに残ったジュースを差し出してきた。

「じゅ、ジュースはいいや。途中で便所行きたくなったら嫌だし」

 冷たいのを飲んで腹が痛くなったら、目も当てられないしな。あ、それなら、温めておく方がいいか。

「じゃあコーヒー……は利尿作用があるから、白湯で」

 挙手しながら要求すると、先輩の緊張が和らいだのか、気の抜けた顔でポットに湯を沸かしはじめた。

 なんか改めてヤるって緊張するな。自然と始められる空気ってどうやったら作れるんだろ。いや、ゴチャゴチャ考えずに迫ればいいか。

 とりあえず、喫茶コーナーでしゃがみ込む先輩の背中に抱きついてみた。

「ん、どうしたセイシュン? 湯が沸くまで大人しく待っててくれ」

 両手両足でガシッと先輩をホールドしてみたが、遊んでいるふうにしか思われず、軽くあしらわれてしまった。

「じゃあ、オレは布団とか準備しとく」

 けれど、大人しく椅子に座って待つ事は不可能。てか、逆に緊張が高まりそうで嫌だったので、寝床の準備を買って出る。

 夏休み中、オレが使ってた布団もちゃんとそのまま置いてあり、地味に嬉しくてニヤけてしまった。

 今度こそ、先輩と最後までヤる! その為の大事な道具をポケットから取り出そうとして、オレは「ゲッ」と声を上げる。

 ポケットの中にあるはずの水のりがない。それもそのはず、由々式の事があって、すっかり持ってくるのを忘れてしまっていたのだ。

「ごめん、先輩。オレちょっと忘れ物したから取って来る」

 アレがないと前回と同じ状況になっちまう。

「忘れ物って何だ?」

「ローションの代わりにしようと思ってさ、水のりを準備してたんだ。それ忘れてた。だから急いで取って来るから」

 振り返った先輩に早口で説明すると、何故か「それなら必要ないぞ」と途中で遮られてしまった。そして、部屋の隅にゴチャゴチャと置いてある物の中に手を突っこみ、先輩は何かを掴み出した。

「準備は俺もしてあるからな」

 ドンと机の上に置かれたのは、ボトルのラベルに『ローション』と表記してある、代用品ではない紛れもないローションだった。
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