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来たるべき運命への序章
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それから程なくしてあやめの体には命が宿り、数か月後には玉のような三つ子を産み落とした。
忠保の希望通り、男の子が二人と女の子が一人。
赤子を腕に抱くのは光忠以来のことだったから、忠保も久しぶりの家族の賑わいに顔がほころんでしまう。
朗報を聞き、駆け付けた雪明と忠國も光忠も喜んで、在御門家の人間全員が喜びに満たされていた。
しばらくは何事もなく、平穏な日々が過ぎていった。
それから、8年の年月が流れたころ。
忠保は当主の間に3人の子供達を呼び集めた。
「あー、お前たち、ちょっと話があります」
「?」
3人とも不思議そうに顔を見合わせる。
8歳ともなれば子供らしくなり、体や考え方も大分しっかりとし始めた頃である。
「将来は何になりたいのかな?」
一番先に答えたのは女の子。
「わたしは~、おかあさまみたいになりたい」
「うん」
と忠保は顔を微笑ませた。
次に、3つ子の中でも最初に生まれてきた兄の方。
「私は、父上や兄上のような陰陽師に!」
と、はきはきと答えた。
兄の方は、カッコイイものに憧れやすいタイプで、ちょっと小生意気な感じがする、
まあ、悪ガキタイプなのだ。
弟の方は指をくわえながら、
「う~ん、わかんない…」
と、ちょっとつたない感じで答えた。
どちらかと言うと弟の方は、
ぼんやりのんびりタイプ。
ただ、落ち着いた感じはある。
『やはり…な…』
笑顔のままの忠保だったが、内心では少し動揺していた。
「人には向き不向きがある、そして、どんなに頑張っても叶わない運命もある。
無理だと分かった時点で、方向転換すれば、また新たな道が開かれるもの。
自分の道に早く気が付く事が大切です」
「はーい!」
3人ともにこやかに返事した。
『言いたいことは山ほどある…これ以上言えたら、どんなにか…』
無邪気に部屋から出ていく子供達を見送った後、忠保はため息をついた。
それは突然のことだった。
帰宅したばかりの忠保に、三つ子の兄が話しかけてきた。
「父上、どうして兄上は母上と接吻しているの?」
内心で忠保は、
『とうとう見られたか』
と舌打ちした。
恐らく子供にとっては素朴な疑問だったのだろう。
しかし、忠保は、これは隠し通せないなと判断した。
『あ~、どう説明したらいいかな…』
「お母様は式神だったから、陰陽のパワーを与えられるのだよ」
あまりにお粗末な答えであったが、隠し通していてもいずれ分かってしまうだろう。
「ふーん、式神ならいいんだ、だから伯父上も…」
どんなに大人が隠していたとしても、子供はどこで見ているか分からないものだ。
三つ子の兄は、
「じゃあ、私も…」
目を輝かせながら、呟いた。
忠保はぎゅっと目を瞑ると、軽やかに渡殿を歩いて去っていくわが子の足音を聞きながら、
自分の意識が来たるべき運命に向かっていくのを感じていた。
その夜、
自室で1人文机に向かいながら、占いを立てた。
すると、
静かに狐の式神が姿を現した。
雪明の元から来たのである。
『忠保様…』
雪明の声が響く。
忠保も自分の式神を通して語り掛ける。
『やばいな、雪明…どうする?』
『多分、厳戒態勢でしょうね…そろそろ…だとは思っておりました。忠保様?』
忠保は占いの手を止めて、目を瞑ると、深いため息をついた。
『分かっていた事とはいえ、いざとなると躊躇してしまうな。
あの子は、たまに末恐ろしい眼をする時がある…。
無理だと分かっていても、なんとかしたいと思うのは、覚悟が足りないのかな…』
『いいえ、人であれば誰だって大切な方を守りたいと思いますよ…』
今夜は新月、月のない夜。
水面下で運命は動き出し、何かが始まる予感が拭えない夜であった。
忠保の希望通り、男の子が二人と女の子が一人。
赤子を腕に抱くのは光忠以来のことだったから、忠保も久しぶりの家族の賑わいに顔がほころんでしまう。
朗報を聞き、駆け付けた雪明と忠國も光忠も喜んで、在御門家の人間全員が喜びに満たされていた。
しばらくは何事もなく、平穏な日々が過ぎていった。
それから、8年の年月が流れたころ。
忠保は当主の間に3人の子供達を呼び集めた。
「あー、お前たち、ちょっと話があります」
「?」
3人とも不思議そうに顔を見合わせる。
8歳ともなれば子供らしくなり、体や考え方も大分しっかりとし始めた頃である。
「将来は何になりたいのかな?」
一番先に答えたのは女の子。
「わたしは~、おかあさまみたいになりたい」
「うん」
と忠保は顔を微笑ませた。
次に、3つ子の中でも最初に生まれてきた兄の方。
「私は、父上や兄上のような陰陽師に!」
と、はきはきと答えた。
兄の方は、カッコイイものに憧れやすいタイプで、ちょっと小生意気な感じがする、
まあ、悪ガキタイプなのだ。
弟の方は指をくわえながら、
「う~ん、わかんない…」
と、ちょっとつたない感じで答えた。
どちらかと言うと弟の方は、
ぼんやりのんびりタイプ。
ただ、落ち着いた感じはある。
『やはり…な…』
笑顔のままの忠保だったが、内心では少し動揺していた。
「人には向き不向きがある、そして、どんなに頑張っても叶わない運命もある。
無理だと分かった時点で、方向転換すれば、また新たな道が開かれるもの。
自分の道に早く気が付く事が大切です」
「はーい!」
3人ともにこやかに返事した。
『言いたいことは山ほどある…これ以上言えたら、どんなにか…』
無邪気に部屋から出ていく子供達を見送った後、忠保はため息をついた。
それは突然のことだった。
帰宅したばかりの忠保に、三つ子の兄が話しかけてきた。
「父上、どうして兄上は母上と接吻しているの?」
内心で忠保は、
『とうとう見られたか』
と舌打ちした。
恐らく子供にとっては素朴な疑問だったのだろう。
しかし、忠保は、これは隠し通せないなと判断した。
『あ~、どう説明したらいいかな…』
「お母様は式神だったから、陰陽のパワーを与えられるのだよ」
あまりにお粗末な答えであったが、隠し通していてもいずれ分かってしまうだろう。
「ふーん、式神ならいいんだ、だから伯父上も…」
どんなに大人が隠していたとしても、子供はどこで見ているか分からないものだ。
三つ子の兄は、
「じゃあ、私も…」
目を輝かせながら、呟いた。
忠保はぎゅっと目を瞑ると、軽やかに渡殿を歩いて去っていくわが子の足音を聞きながら、
自分の意識が来たるべき運命に向かっていくのを感じていた。
その夜、
自室で1人文机に向かいながら、占いを立てた。
すると、
静かに狐の式神が姿を現した。
雪明の元から来たのである。
『忠保様…』
雪明の声が響く。
忠保も自分の式神を通して語り掛ける。
『やばいな、雪明…どうする?』
『多分、厳戒態勢でしょうね…そろそろ…だとは思っておりました。忠保様?』
忠保は占いの手を止めて、目を瞑ると、深いため息をついた。
『分かっていた事とはいえ、いざとなると躊躇してしまうな。
あの子は、たまに末恐ろしい眼をする時がある…。
無理だと分かっていても、なんとかしたいと思うのは、覚悟が足りないのかな…』
『いいえ、人であれば誰だって大切な方を守りたいと思いますよ…』
今夜は新月、月のない夜。
水面下で運命は動き出し、何かが始まる予感が拭えない夜であった。
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