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# 35 化け物の包囲網
しおりを挟む──ん?
八雲カグヤが、高級車の助手席から軽トラに向かって何か言っているが聞こえない。
「はい?」
ウインドウのノブを手動で下げて、何を言っているのか確認した。
「止まれって、言ってんの!」
場所は先ほど襲撃にあったホームセンターから数キロ離れた隣町。
もう追いかけてきていないのを確認して、交差点の真ん中で車を停めた。ここなら、化け物がどこから現れても逃げ道はいくらでもある。それより、カグヤがなぜわざわざこのタイミングで停車させたのかが気になる。
「なんです?」
「アンタ、その後ろの斎宮ハガネをどう説明する気?」
念のため、お互い車から降りず、窓越しでの会話。
あー、なるほど。
彼女にはまだ斎宮ハガネを見せていなかったことに今さらながらに気づいた。
「実は……」
豆丸達が住んでいる隣の県に遠征した時に銭湯の中にいたハガネ。
モリ達との戦闘して勝った時にUnit化なる選択肢が現れたので、Yesボタンを押したら仲間になったことを簡単に説明した。
「このことをあのガキは知ってんの?」
「ええ、彼がハガネさんの親戚だと知る前に事情を説明しました」
「ふーん、じゃあ、いいわ。でも間違っても斎宮家の敷地で出したりしないでよ?」
カグヤはオカッパ頭の少年が良ければ、他の家の者が口を出す権利はないと話した。だが、もし、斎宮家の本拠地に乗り込んだ時、エン婆と2体のミイラの前で斎宮ハガネをストレージから出していたら、問答無用で始末されていたはずだと忠告された。
──あっ、危なかった。
ゴリ親方が天狗に殴られて吹き飛ばされた直後、雨が名乗り出ていなかったら、ハガネをストレージから出そうとしていた……。
「そろそろ移動した方がいいと思うわ」
めずらしく雨が口をはさんできた。その理由はすぐに判明した。
前方、背後、右左……。
交差点を中心に化け物が現れた。
停車していた間に囲まれた?
熊の化け物、大きな樹、ウーパールーパーみたいなトカゲの化け物、そして数体の人型……。人型は背後の方向にしかいない。
化け物達の集団的行動、そして計画的な包囲戦。これは、豆丸達が意図的に化け物に狙われていることを意味している。
状況の分析と戦うか逃げるかを並行思考で同時に考える。その結果を1秒後に方針として、皆に伝えた。
「前方一点突破で行きます!」
「了解、オジ様」
「本当に大丈夫なんでしょうね?」
「ええっ問題ありません」
雨はすぐに通じたが、カグヤの方は半信半疑。だが、ここで彼女を説得している時間はない。ハンドルを歩茶の髪の毛で握ってもらい、クラッチとアクセルを操作しつつ、運転席の窓から右手を出して、足の速いモリをストレージから数体出した。
ジャンリル、バウンド犬、森羅バン蔵、朽葉ツキ影。
元々、斎宮ハガネとツタ忍は軽トラの荷台に乗っていたので計6体で、軽トラと高級車より先行し、前方から迫る化け物達とかち合った。
カグヤも2体の番の狛犬を出し、雨も右手から高圧縮した水の弾丸を連射し、ルートを確保しようとしている。だが、やはり頭一つ抜けているのは斎宮ハガネ。無数の斬撃で半径2メートル以内の化け物を細切れにしながら、突き進んでいく。
巨大な樹の枝は、森羅バン蔵が枝葉をニョキニョキと生やして受け止め、バウンド犬は建物を利用して凄いスピードで跳ねまわって、化け物達を左右に吹き飛ばし、真ん中に道を作ってくれている。ジャンリルは氷の息吹で左右に散った化け物の前に氷の壁を作ってくれたので、結果として、足止めされずに包囲網を突破することができた。
「ツタツタ!」
「ツキ~~」
1体だけ役に立っていないモリがいた。
朽葉ツキ影。最初に軽トラの影に潜ったのはいいが、地上に出たのが化け物達のど真ん中。袋叩きに遭っていたが、ツタ忍が上から蔦を伸ばして救助してあげていた。これじゃ、どっちが進化系なのかわかったものではない……。
──ん?
雨が手で合図をしている。
高級車側の方の後ろの方が、熊の化け物の爪でやられたらしい。
世界が変わる前なら、道路交通法違反になるだろうが、今はそんなことを言ってられない。荷台に素早く乗ってもらって、高級車を途中で放棄した。
それから約30分後、別の街で雨が、中古車販売店に展示されていたクロスカントリー系のSUV車を拝借した。ガソリンはあまり入っていないので、近くで給油を始めた。
「たぶん、まだ追ってきていると思うわ」
先ほど包囲された時、豆丸もそう思った。
どういう手段を使っているのかわからないが、あの化け物達は豆丸達を追跡してきている……。その気になればモリ達を大量に注ぎ込んで物量で押し切ることも可能だが、犠牲が大きすぎる。それに万が一、例の人型を操っている危険な存在が来たら、豆丸達ですら無事である保障がない。そのため、逃げてしまうのが得策だが追ってきているとなるとここで新たな問題が発生する。
「自宅に戻るのは危険だと思うの」
確かにそうだ。
それは豆丸も危惧していた。
もし、あの化け物達が押し寄せてきたら、逃げ場のない山の中。危険性が高い。
そこで雨の提案は、このまま斎宮ミカドを助けるために瑞果という果物を探しに旧邪馬台国に行こうという話だった。
遠くまで逃げてしまえば、豆丸達を見失う可能性が高い。行き当たりばったりな計画だと思われるが、実は今の状況ではもっとも合理的と思われる選択。
豆丸は了承し、歩茶やカグヤにも同意を得て、カグヤの道案内で「北」に進路を変えた。
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