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# 36 倭の地
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──2日後。
深夜、おそらく1時から2時くらいの時間帯。
東北地方のとある県道にあるトンネル。
地形に沿った道で、数キロ離れたところにバイパスができたため、20年くらい前からこちらの古い道はほとんど交通量がなかったという。
なぜ豆丸がそんなことを知っているかというと、このトンネルは全国でも屈指の心霊スポットで、MeTubeやPikPokといったSNSでよく心霊スポットに突撃している人たちの配信をSNSで見ていた。
豆丸は特に信心深い方ではないが、〝霊〟は確かに存在していると、昔から信じている。昔の話を始めると長くなるが、何度か霊が実際に存在することを身を持って体験している。
だから豆丸は普段、自ら心霊スポットと呼ばれるところに行くのは避けていた。興味はあるけど怖い……だから、画面越しで見るのが精いっぱいだった。人生の中で、もし「運」に総量があるのなら豆丸はきっと他人の半分以下なので、行けばきっと後悔するだろうと思っていた。
そんな心霊スポットNGの豆丸が日本屈指の心霊スポットの舞台の前に立っているかというと……。
「本当にこの中なんですか?」
「何よ、私が嘘を言ってるとでも?」
「いえ、そんなつもりじゃ……」
目の前のトンネルが、例の邪馬台国跡地へ繋がっているという。
これまでの経験から、トンネルの中がどこかにワープするとかそういう類だと、頭では分かっている。だが、身体がトンネルの中に入るのを全力でキャンセルしたがっている。
邪馬台国跡地……倭の地へ行くには幾通りかあるそうだが、今回は車ごと行く方法で通行することになった。
時速37kmでトンネルに侵入。
ちょうど8秒後に左側に一瞬、緑色に光る非常電話と書かれた看板が見える。その直後にハンドルを思い切り右に切る。すると、霧の濃い草原に出た。
「あそこを超えると倭の地よ」
緊張したカグヤの声。
実際、どんな危険が起きるのかわからない。
軽トラとSUVを草原に駐車して、小川に架かる石橋の前で進化済のモリや斎宮ハガネをストレージから出し、豆丸のスキルにおいて最大戦力を目の前に揃えた。
「うわっ、ちょっとこわっ!」
「大丈夫よ。意気地なしね、とっとと行きなさいよ!」
橋のちょうど中央らへん。
先に進む森羅バン蔵の顔が、何もない場所で溶けるように消えた。
恐るおそる人差し指でつついてみると、ある場所から水面が垂直に張っているような感触を得た。その感触に驚いているとカグヤに足蹴にされて、よろけつつ謎の境界へ突撃してしまった……。
はて?
なんで、線路の上にいるんだろう?
「ツタっ!」
「んごぉ⁉」
蔦が首に巻き付き、思い切り後ろに引っ張られた。
豆丸、今一瞬、川岸の向こうに亡くなった父母が見えたが、すぐに意識が戻った。
ごぉぉぉおおっ、と蒸気機関車が通り過ぎていく。ツタ忍が引っ張ってくれなかったら、本当に三途の川を渡るところだった。
豆丸と同じようにカグヤ、雨と歩茶の順で、何もない空間から現れた。
うーん、なんかイメージと全然違う。
気づけば海に浮かぶ巨大な橋の上に立っていた。オレンジ色の照明に照らされているのは、足元の鈍く光る金属板に無数に打ち込まれたリベット。橋の両脇には歯車のような装飾が施され、時折、蒸気がプシューッと音を立てて吹き出していた。
真っ暗な陸地からオレンジ色の光が満ちている大きな島に繋がる連絡橋の上にいる。
久しく見ていなかった人工の光。空は鈍い琥珀色に染まり、雲の代わりに煙と蒸気が渦巻いている。月の光はその合間から漏れ、柔らかく地上に差し込んでいた。
目の前には、島の中心にそびえる巨大な城。形状は日本のお城にありそうな形をしている。だが、城郭には風力発電に使っていそうな大きな羽が回り、壁面には無数のパイプと蒸気管が這い回っている。歯車が組み込まれた門がゆっくりと回転し、内部からは低く唸るような機械音が響いていた。
城の周囲には、五重の塔のような建物が連なり、それぞれが鋼鉄の橋や吊り下げられた鎖で繋がれている。空を見上げれば、帆を張った飛行船がゆっくりと滑空し、船体からは蒸気が白く尾を引いていた。
島の方向から鐘の音が響いてくる。重厚な金属の音色が、空気を震わせるように伝わってきた。時刻を知らせるものなのか豆丸にはよくわからなかった。
モリ達を先行させて警戒に当たる。
連絡橋を渡り終えたところで、人が歩いていたので物陰に隠れ様子を見る。
江戸時代以前の当時の日本人の服装。
たまに道路を車が通るが、白い蒸気を上げて走っていて、頭の中がより「?」マークで満たされていく。
「うぇ、っちょっと!」
「見えていないようね」
何の躊躇もなく雨が出て行って、町人風の男性の顔のそばで手を振って確認した。
びっくりした。でも──
本当だ。豆丸やモリ達も見えていない。
「当たり前じゃない、ここは違う世界なんだから」
今、何と?
違う世界。
カグヤが言うには、豆丸達の世界と似ているが、はるか昔の段階で分岐した異なる世界線の日本だそうだ。
深夜、おそらく1時から2時くらいの時間帯。
東北地方のとある県道にあるトンネル。
地形に沿った道で、数キロ離れたところにバイパスができたため、20年くらい前からこちらの古い道はほとんど交通量がなかったという。
なぜ豆丸がそんなことを知っているかというと、このトンネルは全国でも屈指の心霊スポットで、MeTubeやPikPokといったSNSでよく心霊スポットに突撃している人たちの配信をSNSで見ていた。
豆丸は特に信心深い方ではないが、〝霊〟は確かに存在していると、昔から信じている。昔の話を始めると長くなるが、何度か霊が実際に存在することを身を持って体験している。
だから豆丸は普段、自ら心霊スポットと呼ばれるところに行くのは避けていた。興味はあるけど怖い……だから、画面越しで見るのが精いっぱいだった。人生の中で、もし「運」に総量があるのなら豆丸はきっと他人の半分以下なので、行けばきっと後悔するだろうと思っていた。
そんな心霊スポットNGの豆丸が日本屈指の心霊スポットの舞台の前に立っているかというと……。
「本当にこの中なんですか?」
「何よ、私が嘘を言ってるとでも?」
「いえ、そんなつもりじゃ……」
目の前のトンネルが、例の邪馬台国跡地へ繋がっているという。
これまでの経験から、トンネルの中がどこかにワープするとかそういう類だと、頭では分かっている。だが、身体がトンネルの中に入るのを全力でキャンセルしたがっている。
邪馬台国跡地……倭の地へ行くには幾通りかあるそうだが、今回は車ごと行く方法で通行することになった。
時速37kmでトンネルに侵入。
ちょうど8秒後に左側に一瞬、緑色に光る非常電話と書かれた看板が見える。その直後にハンドルを思い切り右に切る。すると、霧の濃い草原に出た。
「あそこを超えると倭の地よ」
緊張したカグヤの声。
実際、どんな危険が起きるのかわからない。
軽トラとSUVを草原に駐車して、小川に架かる石橋の前で進化済のモリや斎宮ハガネをストレージから出し、豆丸のスキルにおいて最大戦力を目の前に揃えた。
「うわっ、ちょっとこわっ!」
「大丈夫よ。意気地なしね、とっとと行きなさいよ!」
橋のちょうど中央らへん。
先に進む森羅バン蔵の顔が、何もない場所で溶けるように消えた。
恐るおそる人差し指でつついてみると、ある場所から水面が垂直に張っているような感触を得た。その感触に驚いているとカグヤに足蹴にされて、よろけつつ謎の境界へ突撃してしまった……。
はて?
なんで、線路の上にいるんだろう?
「ツタっ!」
「んごぉ⁉」
蔦が首に巻き付き、思い切り後ろに引っ張られた。
豆丸、今一瞬、川岸の向こうに亡くなった父母が見えたが、すぐに意識が戻った。
ごぉぉぉおおっ、と蒸気機関車が通り過ぎていく。ツタ忍が引っ張ってくれなかったら、本当に三途の川を渡るところだった。
豆丸と同じようにカグヤ、雨と歩茶の順で、何もない空間から現れた。
うーん、なんかイメージと全然違う。
気づけば海に浮かぶ巨大な橋の上に立っていた。オレンジ色の照明に照らされているのは、足元の鈍く光る金属板に無数に打ち込まれたリベット。橋の両脇には歯車のような装飾が施され、時折、蒸気がプシューッと音を立てて吹き出していた。
真っ暗な陸地からオレンジ色の光が満ちている大きな島に繋がる連絡橋の上にいる。
久しく見ていなかった人工の光。空は鈍い琥珀色に染まり、雲の代わりに煙と蒸気が渦巻いている。月の光はその合間から漏れ、柔らかく地上に差し込んでいた。
目の前には、島の中心にそびえる巨大な城。形状は日本のお城にありそうな形をしている。だが、城郭には風力発電に使っていそうな大きな羽が回り、壁面には無数のパイプと蒸気管が這い回っている。歯車が組み込まれた門がゆっくりと回転し、内部からは低く唸るような機械音が響いていた。
城の周囲には、五重の塔のような建物が連なり、それぞれが鋼鉄の橋や吊り下げられた鎖で繋がれている。空を見上げれば、帆を張った飛行船がゆっくりと滑空し、船体からは蒸気が白く尾を引いていた。
島の方向から鐘の音が響いてくる。重厚な金属の音色が、空気を震わせるように伝わってきた。時刻を知らせるものなのか豆丸にはよくわからなかった。
モリ達を先行させて警戒に当たる。
連絡橋を渡り終えたところで、人が歩いていたので物陰に隠れ様子を見る。
江戸時代以前の当時の日本人の服装。
たまに道路を車が通るが、白い蒸気を上げて走っていて、頭の中がより「?」マークで満たされていく。
「うぇ、っちょっと!」
「見えていないようね」
何の躊躇もなく雨が出て行って、町人風の男性の顔のそばで手を振って確認した。
びっくりした。でも──
本当だ。豆丸やモリ達も見えていない。
「当たり前じゃない、ここは違う世界なんだから」
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カグヤが言うには、豆丸達の世界と似ているが、はるか昔の段階で分岐した異なる世界線の日本だそうだ。
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