翠緑の勇者は氷の魔女とお近づきになりたい

大鳳ヒナ子

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第一部

第七話 氷の魔女さまが現れた!

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 レックス殿率いる聖騎士団に、別の師団である重騎士ホプリテス弓兵アーチャー魔導士メイジを加えた一行は、王都から離れた森に足を運んでいた。
 この森には定期的に魔物が湧くので、その討伐が今日の任務だ。普段は経験豊富な傭兵団や、自警団などと協力して討伐をしているのだが、今回はそれを断っているので騎士団員たちにも少し緊張した様子が見られる。

 流石に一週間という期間で騎士団を劇的に鍛え上げることはできなかったが、動きや心構えに変化がみられるようになった。レックス殿の指揮と、後衛の援護があれば大きな被害は出ないだろう。
 怪我人が出ても対応できるようにと、治療の杖が使える僧侶プリーストも数人つれてきているので、輸送隊と共にいてもらうことになっている。俺の持ち場もここだ。
 とはいえ、流石に戦況が危うくなった際は前線に出るつもりだ。いくらこの森に出現する魔物が弱いとはいえ、油断は命取りになる。撤退する際は、遠距離から攻撃ができる弓兵や魔導士が足止めのために最後になるので、俺はその援護をするつもりでいる。

「これより魔物の討伐を開始する! 全員気を引き締めことにあたれ!」

 森の入り口に輸送隊と防衛に長ける重騎士隊が護衛として残り、他は幾つかの隊に分かれて森の中に散開した。
 レックス殿も前線へ行くようなので、俺の話し相手になってくれそうな人間は居ない。
 重騎士隊とは、訓練どころか顔を合わせるのも初めてだから、正直話しかけづらい。
 僧侶達もこの国の神殿に仕える者たちなので、異教の加護持ちである俺には非常に気まずいのだ。

 この森に出てくる魔物は獰猛なモーザドゥーグと、樹木に擬態してるトレントくらいだから問題ないだろう。
 モーザドゥーグは動きこそ素早いが、そこまで防御力が高くないので騎士団でも連携すれば楽勝だろうし、トレントは外見通り木なので炎の魔法で簡単に撃退できるから、魔導士か魔導騎士たちを上手いこと援護できれば問題ないだろう。

 しかし暇だ。暇すぎる。でも俺が参加すると騎士ナイトたちが得られる経験値が減ってしまうし、俺にはたいして経験値が入らない。
 本格的にレベル上げをしようと思ったら、闘技場に行くくらいしか現在は手段がないのだが、俺の成長率ではHP以外上がらないなんてこともざらなんだよな。
 周囲を見回し、魔物が近づいてきていないか警戒をしてはいるが、暇すぎると思っていたところで本国のモンタギュー殿から伝令が届いた。

「森の奥に大型の魔物が居る? ……しかもマーリンからの情報だって!?」

 大型の魔物が居るとなれば、急いで散開中の騎士たちに伝えなくてはならない。
 俺は輸送隊を重騎士たちに任せると、森の奥に向かって駆けだした。途中、遭遇した小隊に大型の魔物のことを伝え、奥に行かないよう周囲の部隊に伝えたら、万が一のために輸送体のいる森の入り口まで戻るようにとも言い含めておいた。
 しばらく走りながら騎士たちを撤退させていたところで、ようやくレックス殿の部隊を見つけることができた。なんで騎士団長が一番奥に進軍してるんだよ。

「レックス殿! モンタギュー殿からの伝令です、森の奥に大型の魔物が……あっ」

 声をかけながら近づいていくと段々と視界が開け、レックス殿たちが対峙している魔物が目線に入ってきた。
 その大きさはつい先日、俺とマーリンが退治した悪竜ニドヘグと同じくらいある。赤銅色の鱗に身を包んだ巨大な竜がそこにいた。
 そんな馬鹿な――そう思いたいところだが、ゲームでもまれに野生の竜が登場し敵味方関係なく攻撃してくることがあった。
 この大陸に存在するドラゴンは、竜族ドラゴニュートという人と竜両方の姿を持つ種族が理性を失いただの獣となったものだ。
 しかし呆けている場合ではないと気合を入れなおす。竜族が相手であれば聖剣が力を発揮する可能性がある。
 俺は鉄の剣ではなく聖剣テミスを抜くと、レックス殿を庇うように飛びだした。少し掠る程度にブレスを浴びてしまったが、このくらいなら傷薬でどうにかなる範囲だ。

「エリアス殿か。すまぬ! まさかこの森に竜が住み着いていたとは」
「話はあとです! 兵たちは輸送隊のところまで戻るよう伝えてあります。モンタギュー殿が援軍を送って下さるそうなので、少しずつ後退し他の者たちと合流しましょう!」

 レックス殿が引き連れていたのは十人ほどの騎士と、魔導士と弓兵が二・三人ずつ。全員が大小差はあるが負傷しているようで、まともに動けるのはこの半分ほどだ。
 機動力のある騎士たちに怪我人を運ばせるとして、問題は殿しんがりだ。
 普通の魔物が相手なら魔導士と弓兵に足止めを頼むが、攻撃範囲の広い竜がすぐ近くにいるのでそうはいかない。

「援軍はどれくらいで来ると?」
「魔導兵団がすぐ動けるそうですので、到着を待てば勝機があります」

 さて、どうしたものか。俺が悪竜を退治できたのはマーリンの援護があったからなのと、悪竜に【属性:悪】があったからだ。
 聖剣テミスを装備していれば発動する俺の個人スキル【断罪者の剣】は、悪属性を持つ敵に対して必ずクリティカルを出せるものだ。
 だがこの竜がただの獣であれば、発動しないものをアテにはできない。ただの獣に正義も悪もあったもんじゃないからだ。
 しかし普通の剣では碌にダメージも与えられないだろう。それこそ強力な魔法でも複数撃ち込まないと退治すらできない。

「……エリアス殿の勇者の力は?」
「こいつが悪竜なのか、興奮してるだけの獣なのか判らないことには危険ですね」

 無謀と勇敢は別物だと剣の師である父親から聞かされている。生存率を高めるためには慎重になるべきだとも。
 手持ちの武器でできそうなことといえば眼球を狙って視力を奪うことだが、この竜にそれは逆効果だろう。間違いなく暴れまわって、ブレスをあたりに撒き散らされそうだ。それは危険すぎる。ニドヘグみたいに何か喋ってくれれば判り易いんだけどなぁ。
 となると、負傷した兵を下がらせている間の時間稼ぎは、陽動する形で動き回るのがいいかもしれない。
 小さいのがちょろちょろしていたら気になるだろうし、木が遮蔽物にもなるから尾で払われても回避しやすいだろう。

「ともかく、レックス殿は撤退の準備を。俺が殿を務めます!」
「別に必要ないわよ?」
「えっ?」

 予想外の方向から聞こえてきた声に振り返ったら、そこには見知らぬ美女が立っていた。
 手に持っているのはリワープという事は、彼女だけがここに飛んできたのだろう。

「なぜここが?」
「お師匠様からおおよその位置を教えていただきましたの。さっ、怪我人は下がっていてくださいな」

 そう言って、彼女は魔導書を手に持つと片手を前にかざす。一瞬で魔法陣が描かれると、吹雪と共に氷の刃が無数に出現し竜を貫いていく。
 何この魔法、ブリザードは吹雪しか出さないんじゃなかったっけ? 氷柱が出てくるのって三作目からの新規武器フィンブルじゃね?
 うん? あっ、そうか。もしかして彼女がミシェルか。ロビンに聞いた話によると新しい氷魔法を編み出したって言ってたもんな。原作のミシェルと同じく、金髪で瑠璃色の目をしてるし。
 それにしても、モンタギュー殿が自慢してくるだけあって物凄い美人だ。俺の貧相な語彙力では表現できない美しさ。ああ、初めて生で見た推しが美しい。尊い。

「そろそろいいかしら? 勇者さま、その剣で竜の首を撥ねちゃってくださいな」
「聖剣でいいのか?」
「えぇ。お師匠様がいうには悪竜ニドヘグの兄弟みたいですわ」

 エリアスとしては初めて見る種類の魔法に驚いているうちに、彼女の魔法によって相手に暴れまわる隙を与えずに氷漬けの竜が出来上がった。
 しかしまだ目はギョロリと動きこちらを睨んでくるし、手足を動かそうと力を込めているのか氷の軋む音が聞こえる。
 推しとの初めての共同作業が竜の討伐か。忘れられない思い出ができたなと思いながら、俺は凍り付き動きの鈍った竜の首を聖剣で切り落とした。
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