32 / 140
第一部
第三十二話 戦いを終えて
しおりを挟む
ハイドランジアの攻略が終わり数日、アイリス軍は次の目的地を決めかねていた。
というのも、ローレッタ聖王国は北にシスル王国、南東にマグノリア王国と敵国との隣接が多い。
ここハイドランジア王国と南方のアイリス王国があるアイリス島は、ローレッタ聖王国から見て南西に位置するので後方から攻撃されるとしたらシスル王国軍なのだが、かの国は聖王国攻略後は奇妙な沈黙を保っていた。
「噂によるとシスル王国軍はオニキス将軍が連戦による疲労で体調を崩しているとかで、兵の士気が下がっているらしい」
誰だこんな噂流したの。オニキスならここで謎の騎士アゲートとして元気にやっているぞ。
いや、考えるまでもない。噂を流したのはオニキス本人だろう。そうでもないと本人が好きに動き回れないだろうし。
そろそろ落ち着いてきたところだから、あとでオニキスの本当の目的を聞き出すとしよう。
「シスルのマーティン王は気弱な性格と聞きますし、大陸にその名をはせる騎士が動けない状況では大きな動きは見せないでしょう」
「少なくとも精鋭部隊は暫く見ないで済みそうだね」
バーナードとルイス王子が話しながら眺めているのはローレッタ聖王国周辺の地図だ。
進軍経路は俺たちが通ってきたのとは別になるようで、コナハト要塞を出発する前からアイリス本国では船団の準備を進めていたようで数日中にはコナハト港に船が集まる予定だ。
シスル軍が動きをみせそうにないことから、警戒するべきはマグノリア軍と帝国に絞られる。とはいえシスルをノーマークという訳にもいかないので、それなりに対応を練っているようだ。
今後の方針をあらかた話し合ったところで俺たちは自由時間になったので、俺はアゲートを誘い街に繰り出した。
「ここでなら本当の目的とやらを聞かせてもらえるだろ?」
「あぁ。もちろんそのつもりで来た」
この数日の間に色々な人から話を聞いて見つけたのが、この個室がある酒場だ。
もともとは先々代のハイドランジア王がお忍びで通うのに使っていた場所だとかで、内緒話にはもってこいの場所だそうだ。
「貴殿が私と同じ転生者であるのならば話は早いだろう。私の真の目的は――」
「やっほー! ここにエリアスがいるって聞いたんだけど、お邪魔するよ~!」
やっとオニキスの目的が聞けるっていうのに、どうしてくれんだこの空気。そして店員よ、なぜこいつを許可なく通した。
いつも通り吟遊詩人の格好で姿を現したメテオライトは勢いよく室内に入ってきたはいいが、俺と一緒にいた相手を確認すると素早い身のこなしで俺の背後に隠れた。
「メテオライト様!」
「チガウヨー。僕の名前はテオだよ~。旅の吟遊詩人だよ~」
店員に俺のことだけ確認して入ってきたんだろうな。以前に彼を探していると聞いていたオニキスは嬉しそうにしているが、メテオライトの目は泳ぎに泳いでいる。
頭に巻いていた布で顔を隠しながら更にストールを頭から被り小さくなっていくメテオライトの姿は実に面白かったので、以前の仕返しも込めて草を生やす勢いで大笑いしておこう……と、思ったけど今ここでやるとオニキスが怖いから今度にしよう、そうしよう。
「オニ……アゲート殿。テオのことは後回しにして、先に話を聞かせてくれないか?」
「う、うむ。私の目的だったな……ああ、うん」
うわぁ。あからさまに拒絶されて落ち込んでるよ。頼むからこの程度で落ち込まないでくれ。
そしていい加減、目的を教えて欲しい。これ以上、勿体ぶらないでくれ。
「私の目的は……大陸に散らばる神器を集め勇士と共に帝国と邪竜を滅ぼすことだ」
「……はい?」
「神弓シグルドリーヴァはモンタギュー殿を説得して借り受けることができたのだが、他で躓いてしまったのだ」
う~んと、要するにあれか。オニキスもルイス王子たちと一緒に戦いたいって感じだな。彼の目的は原作のルイス王子率いる解放軍の聖王国奪還後の動きだし。
「もしかして僕を探してたのって神槍ゲイレルルが欲しいから……?」
プルプルと震えながら俺の背後からオニキスを見つめるメテオライトは、いつの間にか魔導書を取り出していた。ブリザードの書ってことは氷漬けにしてその隙に逃げる気なのだろうか。
神器を持ち出す際には各管理者による封印の解除が必要になるのだが、神槍ゲイレルルはシスル王が管理しているものなので持ち出すとしたら彼の許可が必要になる。
「なぜだかよく解らないのですが、聖王国攻略後に陛下から下賜される気配が一向にないのです」
「なんでだろうねー。ただの吟遊詩人の僕にはワカラナイナー」
それにしてもさっきからメテオライトの話し方が面白いことになっている。
態とではないようだけど、いつも飄々とした態度の彼がここまで緊張しているのはなかなかに貴重だと思う。
「エリアス、エリアス。聞こえますか。いま君の耳に直接話しかけているんだけど、ミシェルからの手紙あげるからオニキスがこっちに近寄らないようにして」
「こいつ、精神に直接話しかけて……こないだと! いやそれよりミシェルからの手紙って!?」
「ラブレターだといいね」
そういいながら差し出されたのはミシェルからの手紙だ。きちんと封がされており、宛名には俺の名前が書かれている。
ミシェルの悪筆は以前にも見たことがあるので読めるか心配だが、俺は中身を読むことにした。封筒の中に一枚だけ入っていた便箋を取り出す。
『フェイス様に怪我なんてさせていないでしょうね?』
内容はこれだけだった。脳裏には氷の微笑を浮かべるミシェルの姿が浮かぶ。
しかし解読の必要もない文章で良かったと喜ぶべきか、俺に対する好意のようなものが書かれているのではないかという期待を打ち砕かれたことを嘆くべきか。
「それで返事は?」
「一度危ないところはあったけど、俺たちで死守したから大丈夫だったって伝えてくれ。それといい加減、俺の後ろから出てこい」
というのも、ローレッタ聖王国は北にシスル王国、南東にマグノリア王国と敵国との隣接が多い。
ここハイドランジア王国と南方のアイリス王国があるアイリス島は、ローレッタ聖王国から見て南西に位置するので後方から攻撃されるとしたらシスル王国軍なのだが、かの国は聖王国攻略後は奇妙な沈黙を保っていた。
「噂によるとシスル王国軍はオニキス将軍が連戦による疲労で体調を崩しているとかで、兵の士気が下がっているらしい」
誰だこんな噂流したの。オニキスならここで謎の騎士アゲートとして元気にやっているぞ。
いや、考えるまでもない。噂を流したのはオニキス本人だろう。そうでもないと本人が好きに動き回れないだろうし。
そろそろ落ち着いてきたところだから、あとでオニキスの本当の目的を聞き出すとしよう。
「シスルのマーティン王は気弱な性格と聞きますし、大陸にその名をはせる騎士が動けない状況では大きな動きは見せないでしょう」
「少なくとも精鋭部隊は暫く見ないで済みそうだね」
バーナードとルイス王子が話しながら眺めているのはローレッタ聖王国周辺の地図だ。
進軍経路は俺たちが通ってきたのとは別になるようで、コナハト要塞を出発する前からアイリス本国では船団の準備を進めていたようで数日中にはコナハト港に船が集まる予定だ。
シスル軍が動きをみせそうにないことから、警戒するべきはマグノリア軍と帝国に絞られる。とはいえシスルをノーマークという訳にもいかないので、それなりに対応を練っているようだ。
今後の方針をあらかた話し合ったところで俺たちは自由時間になったので、俺はアゲートを誘い街に繰り出した。
「ここでなら本当の目的とやらを聞かせてもらえるだろ?」
「あぁ。もちろんそのつもりで来た」
この数日の間に色々な人から話を聞いて見つけたのが、この個室がある酒場だ。
もともとは先々代のハイドランジア王がお忍びで通うのに使っていた場所だとかで、内緒話にはもってこいの場所だそうだ。
「貴殿が私と同じ転生者であるのならば話は早いだろう。私の真の目的は――」
「やっほー! ここにエリアスがいるって聞いたんだけど、お邪魔するよ~!」
やっとオニキスの目的が聞けるっていうのに、どうしてくれんだこの空気。そして店員よ、なぜこいつを許可なく通した。
いつも通り吟遊詩人の格好で姿を現したメテオライトは勢いよく室内に入ってきたはいいが、俺と一緒にいた相手を確認すると素早い身のこなしで俺の背後に隠れた。
「メテオライト様!」
「チガウヨー。僕の名前はテオだよ~。旅の吟遊詩人だよ~」
店員に俺のことだけ確認して入ってきたんだろうな。以前に彼を探していると聞いていたオニキスは嬉しそうにしているが、メテオライトの目は泳ぎに泳いでいる。
頭に巻いていた布で顔を隠しながら更にストールを頭から被り小さくなっていくメテオライトの姿は実に面白かったので、以前の仕返しも込めて草を生やす勢いで大笑いしておこう……と、思ったけど今ここでやるとオニキスが怖いから今度にしよう、そうしよう。
「オニ……アゲート殿。テオのことは後回しにして、先に話を聞かせてくれないか?」
「う、うむ。私の目的だったな……ああ、うん」
うわぁ。あからさまに拒絶されて落ち込んでるよ。頼むからこの程度で落ち込まないでくれ。
そしていい加減、目的を教えて欲しい。これ以上、勿体ぶらないでくれ。
「私の目的は……大陸に散らばる神器を集め勇士と共に帝国と邪竜を滅ぼすことだ」
「……はい?」
「神弓シグルドリーヴァはモンタギュー殿を説得して借り受けることができたのだが、他で躓いてしまったのだ」
う~んと、要するにあれか。オニキスもルイス王子たちと一緒に戦いたいって感じだな。彼の目的は原作のルイス王子率いる解放軍の聖王国奪還後の動きだし。
「もしかして僕を探してたのって神槍ゲイレルルが欲しいから……?」
プルプルと震えながら俺の背後からオニキスを見つめるメテオライトは、いつの間にか魔導書を取り出していた。ブリザードの書ってことは氷漬けにしてその隙に逃げる気なのだろうか。
神器を持ち出す際には各管理者による封印の解除が必要になるのだが、神槍ゲイレルルはシスル王が管理しているものなので持ち出すとしたら彼の許可が必要になる。
「なぜだかよく解らないのですが、聖王国攻略後に陛下から下賜される気配が一向にないのです」
「なんでだろうねー。ただの吟遊詩人の僕にはワカラナイナー」
それにしてもさっきからメテオライトの話し方が面白いことになっている。
態とではないようだけど、いつも飄々とした態度の彼がここまで緊張しているのはなかなかに貴重だと思う。
「エリアス、エリアス。聞こえますか。いま君の耳に直接話しかけているんだけど、ミシェルからの手紙あげるからオニキスがこっちに近寄らないようにして」
「こいつ、精神に直接話しかけて……こないだと! いやそれよりミシェルからの手紙って!?」
「ラブレターだといいね」
そういいながら差し出されたのはミシェルからの手紙だ。きちんと封がされており、宛名には俺の名前が書かれている。
ミシェルの悪筆は以前にも見たことがあるので読めるか心配だが、俺は中身を読むことにした。封筒の中に一枚だけ入っていた便箋を取り出す。
『フェイス様に怪我なんてさせていないでしょうね?』
内容はこれだけだった。脳裏には氷の微笑を浮かべるミシェルの姿が浮かぶ。
しかし解読の必要もない文章で良かったと喜ぶべきか、俺に対する好意のようなものが書かれているのではないかという期待を打ち砕かれたことを嘆くべきか。
「それで返事は?」
「一度危ないところはあったけど、俺たちで死守したから大丈夫だったって伝えてくれ。それといい加減、俺の後ろから出てこい」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
道化たちの末路
希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる