翠緑の勇者は氷の魔女とお近づきになりたい

大鳳ヒナ子

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第一部

第三十二話 戦いを終えて

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 ハイドランジアの攻略が終わり数日、アイリス軍は次の目的地を決めかねていた。
 というのも、ローレッタ聖王国は北にシスル王国、南東にマグノリア王国と敵国との隣接が多い。
 ここハイドランジア王国と南方のアイリス王国があるアイリス島は、ローレッタ聖王国から見て南西に位置するので後方から攻撃されるとしたらシスル王国軍なのだが、かの国は聖王国攻略後は奇妙な沈黙を保っていた。

「噂によるとシスル王国軍はオニキス将軍が連戦による疲労で体調を崩しているとかで、兵の士気が下がっているらしい」

 誰だこんな噂流したの。オニキスならここで謎の騎士アゲートとして元気にやっているぞ。
 いや、考えるまでもない。噂を流したのはオニキス本人だろう。そうでもないと本人が好きに動き回れないだろうし。
 そろそろ落ち着いてきたところだから、あとでオニキスの本当の目的を聞き出すとしよう。

「シスルのマーティン王は気弱な性格と聞きますし、大陸にその名をはせる騎士が動けない状況では大きな動きは見せないでしょう」
「少なくとも精鋭部隊は暫く見ないで済みそうだね」

 バーナードとルイス王子が話しながら眺めているのはローレッタ聖王国周辺の地図だ。
 進軍経路は俺たちが通ってきたのとは別になるようで、コナハト要塞を出発する前からアイリス本国では船団の準備を進めていたようで数日中にはコナハト港に船が集まる予定だ。
 シスル軍が動きをみせそうにないことから、警戒するべきはマグノリア軍と帝国に絞られる。とはいえシスルをノーマークという訳にもいかないので、それなりに対応を練っているようだ。

 今後の方針をあらかた話し合ったところで俺たちは自由時間になったので、俺はアゲートを誘い街に繰り出した。

「ここでなら本当の目的とやらを聞かせてもらえるだろ?」
「あぁ。もちろんそのつもりで来た」

 この数日の間に色々な人から話を聞いて見つけたのが、この個室がある酒場だ。
 もともとは先々代のハイドランジア王がお忍びで通うのに使っていた場所だとかで、内緒話にはもってこいの場所だそうだ。

「貴殿が私と同じ転生者であるのならば話は早いだろう。私の真の目的は――」
「やっほー! ここにエリアスがいるって聞いたんだけど、お邪魔するよ~!」

 やっとオニキスの目的が聞けるっていうのに、どうしてくれんだこの空気。そして店員よ、なぜこいつを許可なく通した。
 いつも通り吟遊詩人バードの格好で姿を現したメテオライトは勢いよく室内に入ってきたはいいが、俺と一緒にいた相手を確認すると素早い身のこなしで俺の背後に隠れた。

「メテオライト様!」
「チガウヨー。僕の名前はテオだよ~。旅の吟遊詩人だよ~」

 店員に俺のことだけ確認して入ってきたんだろうな。以前に彼を探していると聞いていたオニキスは嬉しそうにしているが、メテオライトの目は泳ぎに泳いでいる。
 頭に巻いていた布で顔を隠しながら更にストールを頭から被り小さくなっていくメテオライトの姿は実に面白かったので、以前の仕返しも込めて草を生やす勢いで大笑いしておこう……と、思ったけど今ここでやるとオニキスが怖いから今度にしよう、そうしよう。

「オニ……アゲート殿。テオのことは後回しにして、先に話を聞かせてくれないか?」
「う、うむ。私の目的だったな……ああ、うん」

 うわぁ。あからさまに拒絶されて落ち込んでるよ。頼むからこの程度で落ち込まないでくれ。
 そしていい加減、目的を教えて欲しい。これ以上、勿体ぶらないでくれ。

「私の目的は……大陸に散らばる神器を集め勇士と共に帝国と邪竜を滅ぼすことだ」
「……はい?」
「神弓シグルドリーヴァはモンタギュー殿を説得して借り受けることができたのだが、他で躓いてしまったのだ」

 う~んと、要するにあれか。オニキスもルイス王子たちと一緒に戦いたいって感じだな。彼の目的は原作のルイス王子率いる解放軍の聖王国奪還後の動きだし。

「もしかして僕を探してたのって神槍ゲイレルルが欲しいから……?」

 プルプルと震えながら俺の背後からオニキスを見つめるメテオライトは、いつの間にか魔導書を取り出していた。ブリザードの書ってことは氷漬けにしてその隙に逃げる気なのだろうか。
 神器を持ち出す際には各管理者による封印の解除が必要になるのだが、神槍ゲイレルルはシスル王が管理しているものなので持ち出すとしたら彼の許可が必要になる。

「なぜだかよく解らないのですが、聖王国攻略後に陛下から下賜される気配が一向にないのです」
「なんでだろうねー。ただの吟遊詩人の僕にはワカラナイナー」

 それにしてもさっきからメテオライトの話し方が面白いことになっている。
 態とではないようだけど、いつも飄々とした態度の彼がここまで緊張しているのはなかなかに貴重だと思う。

「エリアス、エリアス。聞こえますか。いま君の耳に直接話しかけているんだけど、ミシェルからの手紙あげるからオニキスがこっちに近寄らないようにして」
「こいつ、精神に直接話しかけて……こないだと! いやそれよりミシェルからの手紙って!?」
「ラブレターだといいね」

 そういいながら差し出されたのはミシェルからの手紙だ。きちんと封がされており、宛名には俺の名前が書かれている。
 ミシェルの悪筆は以前にも見たことがあるので読めるか心配だが、俺は中身を読むことにした。封筒の中に一枚だけ入っていた便箋を取り出す。

『フェイス様に怪我なんてさせていないでしょうね?』

 内容はこれだけだった。脳裏には氷の微笑を浮かべるミシェルの姿が浮かぶ。
 しかし解読の必要もない文章で良かったと喜ぶべきか、俺に対する好意のようなものが書かれているのではないかという期待を打ち砕かれたことを嘆くべきか。

「それで返事は?」
「一度危ないところはあったけど、俺たちで死守したから大丈夫だったって伝えてくれ。それといい加減、俺の後ろから出てこい」
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