翠緑の勇者は氷の魔女とお近づきになりたい

大鳳ヒナ子

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第一部

第三十三話 俺は貰っていないんですけど

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 やっと俺の後ろに隠れることをやめたメテオライトを座らせると、注文していた食事と飲み物が運ばれてきたので食べながら話を進めている。

「あー、オニキスも転生者なんだ」
「ミシェル嬢から聞いていなかったのですか?」
「聞いたような気もするけど、あの時は忙しかったから覚えてないや」

 メテオライトとオニキスが転生者だというのは、俺はそれぞれから聞いているので知っている。が、ミシェルがそれを知っているというのは初耳だ。
 裏切り者の処理の時といい、やっぱりメテオライトから情報を貰っていたのだろうか。

「ミシェルは兵種クラスも確認しないまま神様から魔導の才を貰ったって言ってたけど、オニキスは何を貰ったんだい?」
「ステータスの限界突破です。主に物理面の」

 俺にとっては神様って誰だよって感じでもあるのだが、オニキスのステータスが限界突破してるのはこれが原因だったのかと理解すると同時に、予想だにしなかった新たな転生者の情報が手に入ってしまった。

「上限増えてるんだ。漆黒準拠くらい?」
「口惜しいことに漆黒は未プレイなので解りませんが、おおよそ5くらい上限が増えています」
「漆黒より少し控えめくらいだね。ステータス的にも氷花の聖騎士パラディンが一番近いかな? そういえば聞き忘れていたんだけど、エリアスは転生時に何を貰ったんだい?」

 メテオライトのいう漆黒というのはシリーズ十作目である【漆黒のレギンレイヴ】を指しているのだろう。
 俺もオニキス同様に未プレイというか、発売前どころか製作発表の時点に死んでしまったのでほとんど情報を持っていない作品だ。
 氷花というのも四作目にあたる【氷花のレギンレイヴ】のことだろう。確かにあの作品の聖騎士のステータス限界は、先日オニキスに聞いたステータスに近いものがある。なお氷花は初心者お断りの鬼畜難易度で有名だった。攻略本を読もうが乱数が殺しに来る。

「えっ? ……俺は何も貰ってないぞ?」
「嘘でしょ? 異世界転生の定番じゃない」
「貰ってないものは貰ってない」
「僕だって兵種クラスの枠超えて、軍師ストラテジストの兵種スキル『軍師の眼』貰ってるのに……」
「あえて言うなら、幸運7とは思えない強運ぐらいだな!」

 俺の返事にメテオライトが諦めたような優しい眼差しになった。やめろ、同情するな!
 それより、こいつらが言ってる神って本当に誰だよ!? なんで俺には何もくれなかったんだ!

「そういえば……オニキスがミシェルを手込めにした、って噂があるんだけど本当かい?」
「何だって!?」
「なっ!? 誰がそのようなことを!」

 何とも言えない雰囲気が続き、居た堪れなくなったのかメテオライトが話題を変えてきたのだが、なんだそれ。
 事実だとしたらオニキス許すまじなんだけど。と思ったのだが、本人にも心当たりがないようで狼狽えている。

「ここに来る途中でシスルに立ち寄ったんだけど、そこで聞いたよ」
「私の留守はオブシディアン達とミシェル嬢、モンタギュー殿に誤魔化して貰っているのですが、まさか……」
「そういう噂を流しておけばミシェル達が動きやすいからじゃない? ミシェルとはリリエンソール渓谷で求婚し合ったとか聞くし。二人とも今は君の指揮下ってことになってるんでしょ?」

 なんか色々と聞き捨てならない事を聞いた気がする。生き残るためにしたたか過ぎやしないかリリエンソール公爵家。
 いくら『そういう設定』だったと聞いても、恋人(仮)をしたことがある俺としては役に立たないからと切られた気分だ。

「それじゃあ僕はまだ他にやることがあるから帰るね! 聖王国奪還後あたりでまた会おう!」

 こう言い残してメテオライトは逃げるように去っていった。
 爆弾を投下するだけ投下して逃げるとはいい度胸をしていると言いたいところだが、とりあえず念の為、俺の精神衛生のためにオニキスを問いただそう、そうしよう。

「エリアス殿、これは私の予想でしかないのだが聞いて貰えるか?」
「なんだ?」

 ギギギと音が鳴りそうなくらい首を回してオニキスに向き直る。
 そんな捨てられた子犬みたいな顔しても許さないからな。

「ミシェル嬢の事なのだが、前世で知り合いだったかもしれないのだ」
「前世の知り合い?」

 俺の問いかけにオニキスが小さく頷く。

「彼女の私を見る目が……前世での妹によく似ているのだ。その妹はオニキスが推しだと言っていた」
「オニキス推しなんて何十万人も居ただろ」

 前世では、それこそ周りにオニキス推しの女子はごまんといた。人気投票をすれば主人公を差し置いて上位に入り込む男なのだから何十万でも足りないかもしれない。
 それにしても家族にレギンレイヴァーが居たとは羨ましい。彼女の前世がオニキス推しだったとすると、戦死ではなく行方不明ルート派だったんだろうなぁ。

「言動も似ているというか……私はこれまで妹が語るオニキス像を参考にここまで生きてきたのだが、彼の女性の扱いかたなど原作では描写がなかっただろう?」
「本編でヘリオドールからモテエピソードが聞けるくらいだもんな。オニキスと女性の絡みなんて二次創作の夢小説くらいでしか見たことないな」

 俺の前世では原作で幸せになってくれないなら自給自足するのがモットーだったので、氷の貴公子ミシェルとフェイス様の薄い本を数冊作ってたのだが、夢小説もなかなか栄えていた覚えがある。
 もっとも【月虹のレギンレイヴ】発売当時はそんなでもなかったが、リコレクションズで月虹に触れた人たちが増産していた気がする。

「あぁ、その夢小説とやらを妹はよく書いていてな。たまにこっそり読んでいたのだが……」
「それ本人に言うなよ? 絶対に言うなよ!」

 なんでこいつ妹が書いた小説をこっそり読んでるんだよ。夢小説って主に女性向けじゃなかったか? まさかオニキスも前世で女だったとかだろうか?
 しかし身内に妄想の産物を見られるほど恥ずかしいことは無いはずだから口止め必須だ。俺だったら感想なんて直接聞かされようものなら羞恥で死ねる。

「う、うむ。妹ではないかと思いはじめてから少し経ったときに、ふと思い出して内容を実践してみたら妹が書いた夢小説と同じ反応が返ってきたのだ」
「それ間違いなく黒じゃねーか!」
「やはりそう思われるか……私はいったいどうすればいいのだ」

 大真面目な顔で相談してくる内容じゃねーだろとツッコミを入れたいが、もし本当にオニキスとミシェルが前世で身内だったというのなら、外せないことが一つある。
 俺は思いっきり息を吸い込むと、勢いよく正座して両手を床につけ頭を下げ叫んだ。

「俺に言えることはただ一つ! お兄様かお姉さまかは分かりませんが、妹さんを俺に下さい!」

 これ一度やってみたかったんだよな。本当はお父様にお願いするときのやつだけど。

「はあ?」
「スミマセンデシタ」

 俺の言葉を聞いたオニキスが物凄く、鬼とかも逃げだしそうなくらいに怖い顔で俺を見下ろしてきたので、脊髄反射で謝罪の言葉を述べる。やめて。これ以上睨まないで。

「……はぁ。貴殿がミシェル嬢に恋慕しているのは解った。彼女には誓って指一本触れていない」

 俺が委縮してしまったことを察してくれたのか、オニキスの纏う空気が幾分柔らかくなった。
 モンタギュー殿みたいにGOサインはくれないが、先ほどメテオライトが投げ捨てていった誤解を解こうとしているようだ。

「そういえば漆黒未プレイって言ってたけど何処まで情報持ってるんだ?」
「キャラクターが二人発表された以降は、リコレクションズでメテオライト様とエルナが実装されたところまでだ」
「俺と全く同じか……」
「新情報が上がると思われる生放送の前夜に刺されてしまったのだ」
「俺はその三日前に乗っていたバスが崖からダイブしたよ」

 前世における俺の最期の記憶は深夜バスの中だ。リコレクションズにメテオライトとその幼馴染であるエルナが実装されたのはその四日ほど前になる。
 レギンレイヴシリーズ公式の生放送を三日後に控えたその日に、わたしは峠道からバスごと転落したのだ。
 そうか、オニキスに聞いても【漆黒のレギンレイヴ】に関する情報は俺と同じなのか。少し残念だが、どう足掻いても遊べないゲームに思いを馳せるのはやめておくことにしよう。
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