翠緑の勇者は氷の魔女とお近づきになりたい

大鳳ヒナ子

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第一部

第四十四話 再会の夕陽

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 普段は黒いロングカーディガンの上に大判のストールを羽織り、下はハーレムパンツに編み上げのサンダル。頭にはターバンのように布を巻いているといった服装をしているのがメテオライトだ。
 それが今、目の前に居るメテオライトはシスル王国を象徴する黒を基調をした礼服に身を包み、普段は適当に纏められていた薄紫の長髪もリボンで丁寧に纏められている。
 彼だと判別できる材料といえば薄紫の長髪と、少々人を小ばかにしているように形どる琥珀色の目ぐらいである。

「貴方は確かミシェルの友人のテオさんでしたか?」
「いえ。テオという名は世を忍ぶ偽りの名です。私の本当の名はメテオライト。シスル王国の王子です」

 あっ、こいつ原作ではエルナとの会話以外では後日談にしか出てこない情報をあっさり吐き出した!
 まぁこの状況ならそうするだろうけど、この二人はミシェルを通して面識があったのか。

「シスル王国のメテオライト王子といいますと、確か十六年ほど前に……」
「はい。幼いころより父には嫌われておりまして。ですがこの度、シスル王家に復帰いたしましたのでご挨拶にと伺いました」

 メテオライトがシスル王家に復帰し、王位を継ぐのは月虹のレギンレイヴのエンディング後に流れる各キャラクターの後日談での話だ。それをこんなに手前へ持ってくるなんて、随分と攻めたことをするな。
 しかしシスル王国軍を表立って味方につけるには、これくらいの動きは必要になるか。
 どのような手を使って王家に復帰したのかは詳しく聞かなければ分からないが、シスル王国の王子メテオライトとしてここに来たという事は「やっぱり味方はできません」なんて言いに来たわけでもないだろう。

「それは宜しゅうございました。兄にはお会いになりましたか?」
「いえ、まだ。何かと立て込んでいるという事でこちらでお預かりしていたミシェル嬢に頼み、グレアム殿下に時間を作っていただけるようお願いしていただいているところです」
「まあ、そうでしたか。こちらでお待ちいただくわけにも参りませんし、どこかゆっくりできる場所へ案内を出させます」
「いえ。お気遣いなく。その代わりといっては何ですが、エリアス殿と少し話したいことがあるのでお借りしてもよろしいですか?」

 メテオライトに敬称をつけられるとなんか気持ち悪いな。いっそのこと盛大に草を生やしてくれたほうが良い。
 本人から直々の指名ともありフェイス様をメレディスたちに任せ、俺はメテオライトと共に適当に話せる場所へ移動する。もちろんアゲートも一緒だ。

「それでテオ。いや、メテオライト王子って呼んだほうが良いのか? 話ってなんだ? なんですか?」
「いつも通りで良いよ。僕もああいう言葉遣いは久しぶりで、頭が痛くなってきたところだし」

 戦渦に包まれたローレッタの王城はことごとく荒らされ、美しかった庭園も今は伸び切った雑草くらいしか生えていない。
 俺たちは適当な場所に落ち着くと、メテオライトは詰まっていた襟を緩め大きく息を吐いた。

 このタイミングで話したいことといえば宝珠のことだろうか。
 原作ではローレッタ聖王国の至宝【月虹のレギンレイヴ】は王都陥落の際に敵に持ち去られ、魔女キルケの手に渡ってしまっている。解放軍の次の目標は、この宝珠の奪還になるだろう。

「僕はこれからシスル王子として、グレアム王子に挨拶しに行くんだけどさ。これはどうやって渡すべきなのかな?」
「これ?」
「お土産」
「お土産って……中身はなんだか知らないが、普通に渡せばいいんじゃないか?」

 メテオライトがお土産といって上着から出したのは小さな巾着袋。もう一つは布に包まれた大きな物体である。巾着袋はその見た目にみすぼらしさなどはなく、見事な刺繍が施されている。大きいほうは長さや形からして槍くらいの大きさはありそうだ。
 普通に挨拶がてら「つまらないものですが」とか「お近づきの印に」と言いながら渡せばいいのに、いったい何に悩んでいるというのだろうか?

「このお土産、巾着袋の中身なんだけどね…………【月虹のレギンレイヴ】が入ってるんだ。オニキスがちゃっかりシスルに隠していたのを、オブシディアンから渡されたんだ。あと神槍ゲイレルル」
「はぁっ!?」

 メテオライトが持ってきたというお土産が、まさかのこれから取り戻そうと思っていた宝珠なのだから俺は目を見開いて驚いた。
 そういえば原作ではオニキスが聖王の首を取っていたんだよな。この世界では誰が取ったかまでは知らないが、シスル軍のものが討ち取ったとみて間違いないだろう。

「帝国に協力すると見せ掛けておいて、シスル王国は宝珠の保護を行ったってことにしたいみたい」

 ねぇ? と言いながらメテオライトはアゲートのほうに向きなおると、怒りを纏わせた笑みを向ける。
 これには「余計な仕事増やしやがって」といった意味が含まれているのだろう。

「まぁ……これで聖王家に一つ貸しを作れるのなら安いものだけど、エルドレット王を討ちとったのはオニキスで良いんだよね?」
「は、はい」
「これが問題なんだよねぇ。どうやって誤魔化そうか?」

 各国へと送り込んでいたご意見役など聖王国の腐敗を白日の下に晒さなければ、当代の聖王エルドレットを手にかけた理由が弱くなる。しかしそれはシスル王国としては綱渡りにも近い賭けとなるだろう。
 グレアム殿下がどの程度まで聖王国の内情を把握しているかにもよるが、下手を討てば逆賊の頭が首を差し出しに来たも同然な状況となる。

 これは不味いのではないかと思い、俺はアゲートもといオニキスのほうを見る。未だ仮面で隠れてはいるが、いつもの涼しげな様子は伺えず冷や汗が見えた。
 さすがにこれに関しては助け船を出せないなと思っていたところで、草を踏みしめ近づいてくる僅かな足音が聞こえた。

 最後に嗅いだのはいつだったか、花のように甘い香りが風に乗り俺の鼻腔をくすぐる。
 視界の端で夕日に照らされた金糸が美しく輝いたことで、その存在を確認した俺は勢いよく振り返った。夜空を落とし込んだかのように美しい瑠璃色の瞳と目が合う。
 彼女は初めて会った時と同じように杖をその手に持ちこちらへ近づいてくると、口元に指をあて「静かに」といった動作を見せながら俺の脇をすり抜ける。そして静かにメテオライトの背後に近づき杖を軽く振り上げ――

「テオ。オニキス様をあまり苛めないで下さいませ」
「ふふっ、ごめんごめん。オニキスったら真面目だからつい、ね。その辺の対策はしっかりしてあるよ」

 小気味よい音を立てメテオライトの頭を軽く叩くと、ミシェルは眉を寄せながらメテオライトを窘めた。
 まるで悪戯に成功した子供のように笑うメテオライトを見て、緊張が解けたのかオニキスは胸をなでおろしている。

「グレアム王子に関してはミシェルから聞いてリサーチ済みさ。それに聖王国の膿を出し切るには今しか無いしね」
「これに関してはお父様や叔父様たちが全面協力してくれているわ。グレアム殿下には少々酷かもしれませんが、乗り越えていただくしかありませんわね」
「聡明な彼のことだから頭から否定してくることはないだろうけど、しっかりと補佐してくれている人はいるんだろう?」

 もちろん。と返しながらミシェルは謁見の準備が整ったからとメテオライトを案内する。
 今まではアゲートと名乗っていたオニキスも、本来の身分を明かすために同席するつもりだ。
 俺が付いていっても良いものなのかは分からないが、こうして一緒に通路を進んでいるのだから問題はないのだろう。今のうちに聞けることを聞いてしまおう。

「それにしても王家に復帰した上にゲイレルルまで持ち出せたとか、お前シスルでいったい何をして来たんだ?」
「神槍ゲイレルルを父上に突きつけただけだけど?」
「誰が?」
「僕が。戦闘では使えないけど持ち上げるくらいなら出来るからね。まあ……直前までジェイドに槍の扱い方を習うことになったけど」
「追放されていたお前が、どうやって城に入ったんだよ」
「どうやってって……適当に知っているシスル軍の将に部隊に混ぜて貰おうと国境近くに行ったら、ヘリオドールとジェイドに捕まったんだけど。あの二人、僕とは本当に小さい頃しか会ったことないのに、よく判ったなって感心しちゃったよ」

 なんかとんでもない事ことをしてきてる。どこの世界に自分の父親に国宝の槍を突き付ける奴がいるんだ! と、言いたいところだが武器の違いはあれどレギンレイヴシリーズでは割とよくある光景だった。
 シリーズによっては一族間の愛憎劇なんかをメインとしていたりもするから、メテオライトも父王の首を土産に持ってこなかっただけ良いんじゃないだろうか?

「神槍が封じられていたのって雪山の祠だよな? まさか、わざわざそっちまで行ってから帰ったのか?」
「うん。封印の祠はシスル王家の血を引く者なら開けられるからね。いや~、寒くて凍え死ぬかと思ったよ」

 神槍ゲイレルルが封じられている祠というのはゲームでも終盤に立ち寄る外伝マップなのだが、吹雪で視界が悪いところに雪玉が転がってくる場所になる。
 それはさぞかし寒いだろうと思ったが、今はまだシスルの地が雪に包まれるには少し早い時期だからメテオライトの表現は大げさな気もする。

「こっちに来る前もオブシディアンから服装チェックされるしでさぁ。窮屈で仕方がないね」
「貴方が王子と思えない服で来ようとするからでしょう。オブシディアン様は貴方の名に傷をつけないために気を使って下さったのよ」

 さすがにあの服で王子ですって名乗られても誰も信じないだろう。オブシディアンもよくやってくれた。今のメテオライトは見た目だけなら、どこからどう見ても王子様だ。
 言動に関しては何匹猫を被っているのかは知らないが、あまり長時間では無ければボロも出しそうにない。
 それに十年以上は王族として振舞っていなかったそうだから、由緒ある家柄に生まれたオブシディアンから作法に関してみっちり教習を受けてきたのではないだろうか。

「それからついでになるけど、父上には隠居して貰うことになったよ。この辺はグレアム王子たちと一緒に聞いてね」

 ミシェルに指摘され緩めていた襟元を正すと、メテオライトの表情からいつもの飄々としたものは消え、シスル王国の第一王位継承者の顔が現れる。
 メテオライトは目を閉じて一つ呼吸をし、グレアム殿下が執務を行っている部屋の前に立つと、ゆっくりと扉が開かれた。
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