翠緑の勇者は氷の魔女とお近づきになりたい

大鳳ヒナ子

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第一部

第四十七話 君の瞳は……

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「エリアス殿、如何なされた?」

 呆然と立ち尽くしている俺の意識を現実へと引き戻してくれたのはオニキスの声だった。
 余程酷い顔をしていたのだろう、覗き込んでくる表情は心配してくれていることが見て取れた。

「……なぁ、オニキス殿。もし俺が翠緑の勇者じゃなかったら、こんな風に仲良くしてくれたか?」
「当然だ。貴殿が何を思い悩んでいるのかは判らぬが、私は翠緑の勇者と友人になったのではなく、エリアス殿と友人になったのだからな」

 シスル王国では英雄と持て囃される程度に人気のある『翠緑の勇者』の名に興奮したのも事実だと付け足されたが、それでもオニキスは俺自身を見てくれていたそうだ。

「……さっきミシェルにさ、俺が好きなのは氷の貴公子の方なんじゃないかって言われたんだ。俺は前世の記憶を引き摺りすぎているんだろうか?」
「彼女と親しくなろうと思ったきっかけは思い出せるか?」

 切っ掛け――そう、最初はこの世界のミシェルも男だと思って俺は突き進んできた。
 でも記憶が戻ってすぐ、この世界と前世で遊んだゲームの設定がごちゃ混ぜになっていた時に氷の魔女ミシェルの話を聞いて、それで――

「記憶が戻ったばかりの時はミシェルの親友になれるって浮かれてたけど……実際に出会った彼女は女の子で、氷の魔女と恐れられる賢者だった。でもミシェルの実験に付き合っていたときの、あの笑顔は可愛かったなぁ。ドーピングアイテムへの効果付与が予想より上回ってたときとか、思いもしない追加効果が見つかったときとか笑顔がキラキラ輝いていてさ」
「それは氷の貴公子に向けた感情であったのか?」
「いや。この世界の――氷の魔女ミシェルに対する感情だったよ」

 氷の貴公子というフィルターを無くしても、俺は彼女に好意を持っている。
 振り回されたこともあったが、それでも彼女が愛おしい。

「先程より良い表情になったな。それでこれからどうするのだ?」
「今までの俺の態度が彼女を傷付けていたのなら謝罪して、彼女の満足いく罰を受けるよ」
「ふむ。では――」

 先程のミシェルの様子からして、俺の迷いや下心は露呈していたのだろう。
 調子のいい話かもしれないが素直に謝罪したのちに、改めて彼女との交流を深めていこうと思う。

「『君の瞳は星の瞬き。その真っ赤な髪もまるで咲き誇る花々のようだ』並みの台詞を考えてあるんだろうね?」

 いつの間にか俺の背後に立っていたメテオライトが原作に登場したポエムを耳元で発したことにより、驚いた俺は思わず飛びのいた。

「唐突に原作の俺の台詞を吐くのは止めてくれ! 初見で腹筋が割れるんじゃないかってくらい笑ったんだ」

 先程のセリフは原作のエリアスが仲間になる際、恋人であるメレディスに向かって放つセリフだ。もちろん戦場のど真ん中。場合によっては落石やら弓矢やらが飛び交っている場所になる。

「戦場のど真ん中で吐く台詞じゃないもんね。それでエリアスはやっとミシェルに告白する気になったのかい?」
「おまっ、何で知って……はっ! 出会って間もない頃に俺が自分でカミングアウトしてた!?」
「うん。随分前から知ってるよ。一応、君が彼女に好意を持っていると聞いたからには静観したかったんだけど、僕も事情がかわってさ。発破を駆けに来たんだ」
「事情……?」
「父上を隠居させたのはいいんだけどね。王位を継ぐことになったわけだから、一刻も早く民を安心させるためにも早く結婚しろって大臣たちが煩いんだ」
「……まて、まさかお前」

 これはもしかしてオニキスという最大のライバルがいるうえで、ダークホースが登場するとかいうアレか。
 メテオライトの事情は分かるし、聖王国側としても向こう暫くのあいだはシスル王国との関係を強固にしておきたいだろうか。それならば条件のいい令嬢を政略結婚の道具として差し出すなんてことも大いにありうる。

「シスル王国の立場的にもローレッタとの繋がりを濃くしたいから、ミシェルが一番理想的な相手なんだよね」
「リリエンソール公爵家はモンタギュー殿の御兄弟の子息に継がせることも出来ましょうからね」

 この世界では一応、女性でも爵位を継ぐことができる。しかし直系の男子が居ない場合に限るそうだが、リリエンソール家の場合は一族の人数が多く、わざわざミシェルが爵位を継ぐ必要がない。
 原作では後日談として戦後に爵位を継いでいるが、性別が変わった時点でこの世界のミシェルの相続優先順位はさがっているのだ。しかしリリエンソール家は神話の時代から続く大公の子孫だ。政略結婚だとしても多くの有力諸侯や王族たちがその名を欲しがるのは目に見えて明らかとなる。
 メテオライトも今の状況でシスルの王位を継ぐとなると、まず最初にするべきは民を安心させることになるだろう。それには有力者との婚約発表が一番だ。

「だからね、君がフラれるまではこの話を保留にしているんだ」
「俺がフラれるの前提!? お友達から始める気でいるんだけど、もしかして不味いのか!?」

 余裕の表情を見せるメテオライトに腹が立つが、俺とミシェルの関係が定まるまでは待ってくれるようだ。この言葉を信用はしきれないけど待ってくれなきゃ困る。
 しかしこれはどうするべきか。言った通り俺はミシェルとお友達になる所から始めるつもりでいた。
 ライバルから先を譲られた挙句に発破をかけられたからといって、いきなり告白するというのは心の準備もままならない。

「エリアス殿、告白の言葉は私も一緒に考えましょう! こういったことはインパクトも大事でしょうし貴方らしさを全面に押し出すべきかと!」
「まてオニキス殿! もしかしてそれは、さっきメテオライトが言った原作の俺みたいなポエムを指しているのか!?」
「他の女性に対して使用した口説き文句ですとやはり効果は落ちるでしょうし、ここはやはり原作をリスペクトしつつオリジナルで攻めるべきです!」
「やけに気合い入ってるな。でも俺、まずはお友達からコースで行きたいんだけど」

 どうしたものかと思っていたところで、なぜかオニキスがその力強い手で俺の肩を握ると一人盛り上がり始める。
 しかしなぜここで、あのポエムが引き合いに出されるのだろうか。そもそもあのセリフは再会を喜ぶ恋人同士の会話から派生したもので告白とは何ら関係ない気がするのだが……

「言ったでしょう? 彼女とは前世で兄妹だったかもしれないと。あの子の最期を知っている身としては、せめてこの世界では幸せになって欲しいのです」
「ちょっとオニキス。ミシェルがシスル王国に嫁いでくるのは不幸みたいな話になってるけど?」
「不幸とまでは言いませんが、以前ミシェル嬢をシスルにお連れした際には散々、寒い寒いと言われましたので」

 ミシェルが前世でどのような最期を辿ったか、俺には分からない。しかしオニキスの様子からすると良いものではないことは察することができる。
 でもシスルは寒いからって理由はどうなんだ。メテオライトがミシェル専用の暖房器具を拵えたら負けるかもしれないんだぞ。

「しまった。シスルってこっちに比べると平均気温物凄く低いんだった」
「ハーブティーは気に入っていましたよ」

 しかし俺の心配も何のその。メテオライトは長年離れていた故郷の気候が仇となることに気が付き表情をひきつらせた。オニキスからハーブティーの評判に関してフォローが入るも全く耳に入っていない様子だ。
 そういえばオニキスはたびたびフェイス様とお茶をしているところを見るし、ローレッタに輸出してもらえば流行るんじゃないだろうか。

「あっ、うん。それでオニキスとミシェルが前世で兄妹だったかもって話だけど、それなら彼女の嗜好をある程度知っているってこと?」
「まだ本人かは確認が取れていないので断言はできませんが、妹のことでしたら好きな食べ物から服の好み、各シリーズでの推しまでバッチリです」

 メテオライトがさり気なく情報を集めようとしているが、オニキス推しの女の子が他のシリーズで好きだったキャラなんて簡単に予想が付く。
 九割くらいの確率で『終盤の強敵』かつ『仲間になりそうでならない聖騎士』という、月虹でいうところのオニキスポジションのキャラクターだろう。どのシリーズでも例外なく人気投票上位に君臨しているので判り易い。
 しかし好きな食べ物で釣るのはなぁ……公爵家の令嬢ともなると大抵のものは手に入るだろうし、服を贈るなんて交際しているわけでもない相手にすることじゃない。
 いや、まて。俺はまずミシェルと友達になる所からやり直すんだから、趣味の話とかが一番だよな。
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