48 / 140
第一部
第四十八話 再びの握手
しおりを挟む
神器回収の準備を整えた後、ルイス王子たちをワープでアイリス王国まで送りとどけ、俺たちもリリエンソール公爵領にある封印の地へと移動してきた。
出発前にオニキスにあれこれと言われたが『恋人』という最終目標は一度置いておくと伝え、『友達』を目指し進むことを宣言してきたところだ。
ミシェルに同行してきたのは俺とメテオライトの二人だが、暫くは静観すると言っていたメテオライトは特に何もしてくることもなく、彼女ともいつも通り話をしているようだ。
リリエンソール渓谷近くの遺跡――詳しい場所は機密に係わるという事で不明だが、ワープで連れてこられたこの場所こそ、ゲームでも外伝として登場した神弓シグルドリーヴァが封じられていた場所だ。
この地を治めるリリエンソール公爵であるモンタギュー殿の話によれば、神話の時代より名前だけが伝わっている【ブリュンヒルド】という神器が隠されるように封じられているそうだ。
半倒壊した石造りの建造物は苔が生え、迷路のように入り組んだ通路には所々に風化してしまっているのか、顔も判別できない人型の石像が置かれている。
この遺跡はかつて、この地に人が移り住むよりも昔に何者かが住んでいた形跡のある地で、所々に釜土や長い年月を経て割れてしまった食器など一定水準の文明を持つ生物が複数で生活していた痕跡が見受けられる。
遺跡の中央には神殿だったと思しき尖塔跡があり、現在では塔の上部は風化が進んでしまい大きな穴が開いてしまっている。
この遺跡はゲームでは踏むまでは分からないが陥没する床が複数個所あるので、落ちたりしないよう慎重に進んでいく事となる。
この地に出現する魔物はガーゴイルがメインなのだが、石柱の上に設置されているはずのそれらの大半は地面へと落ちていることから、オニキスたちが神弓を回収しに来た時に退治されたものなのだろう。
遺跡に足を踏み入れて以降、俺たちは片手で足りる程しか戦闘をしていない。
半分ほど進んだところで休憩を取ることになり、俺は一部が崩れてしまっている噴水の淵へと腰掛けた。
携帯食を齧りつつ水分を補給していると、ミシェルが俺の隣に座った。メテオライトは態となのか気をきかせてくれたのか少し離れた場所で明後日の方向を向いている。
「あのさ、このあいだ言われたことなんだけど……俺が悪かった。君の中に『氷の貴公子』ばっかり重ねて『氷の魔女』を見ていなかったんだ。そんな俺の態度が君を傷付けたのなら殴るなり蹴るなり、氷漬けにして崖から突き落とすなりしてくれていい。謝罪させてほしい」
俺は立ち上がり彼女へと頭を下げる。ブリザードでもフィンブルでも受ける覚悟はできている。
しかし思っていたような衝撃はなく、くすくすと笑う声が聞こえた。
恐る恐る顔を上げるとミシェルは口元に手を当てて笑っている。もしかして俺、何か変なことしちゃった?
「ふふっ、ごめんなさいね。まさかそこまで思い詰めさせてしまっていたなんて思ってもみませんでしたの。あの時は私も言い過ぎましたもの、こちらからも謝罪いたします」
俺は嫌われてなかった……のか?
ミシェルも立ち上がり頭を下げてくる。俺は慌てて顔を上げさせるとお互いに笑みが漏れた。
「あの、さ……色々と考えてみたんだけど、友達からってのはダメかな?」
「友達……まぁ、それくらいなら宜しくてよ。私もエリアスのことを勝手に男避けなんかに使いましたし」
「う、うん。やっぱり色んな事を話してお互いのことをよく知らないとだし、改めてよろしくお願いします」
俺は手を差し出してミシェルに握手を求めた。初めて会ったときとは逆になるが、俺が望んで彼女と本当に親しくなりたいからだ。
彼女の華奢な手を握りしめ、改めて俺たちは『友達』となった。
「あの時とは逆ね。私ね、あの時は『エリアスとは適当に仲良くしておけばいいや』って思っておりましたの。原作と違って私は女ですし、貴方は男ですから」
「俺もあの時は君の中に『氷の貴公子』を見ていた。おかしいよな。この世界のミシェルは女の子なのに」
「ええ、本当に。なんで何時までたってもメレディスとイチャ付かないのよコイツとか思っていたわ」
「お互いに原作の俺たちを見ていたんだね」
「そうね」
日が沈む前に遺跡から出たいので休憩を終えた俺たちは歩きながら話を続けた。
幾つか質問を繰り返した結果、共通の話題がレギンレイヴシリーズしかなかったのには互いに変な笑みが出た。
「ミシェルはオニキスが好きなんだよね?」
「ええ、そう……だったのですけど」
「だった?」
「私の前世では兄が二人おりましたの。その下の方の兄を思い出す言動が幾つかあって、私の好きだったオニキス様は原作のオニキス様だったのだと思い知らされましたの」
「お兄さん……」
そういえばオニキスの前世はミシェルの前世と兄妹疑惑があったな。
三人兄妹だったとは知らなかったが、彼女がこう言うって事は何か決定的な部分があったのだろう。
「オニキス様に連れられてシスル王国に向かった際にね、余りに寒い寒いと言う私を気遣って上着を貸して下さったのだけど……」
「けど?」
「私が前世で女子校生と呼ばれていた頃に薄着で出かけたときと同じ事を言われたわ」
「その年頃の時は俺の前世も無駄に足とか出してたわ。ズボン履けば? とか言われたのか?」
「そう。あと腹巻きとか毛糸のパンツとか」
「それは千年の恋も醒めるな」
「えぇ、本当に。オニキス様のお顔を見ているのに兄の顔が浮かぶもの」
先日もオニキスからシスル王国に居た際にミシェルが寒いと連呼していた件について聞いてはいたが、たしかに彼女の服装は冬になると雪に包まれるシスル王国では冬前だったとしても冷えるだろう。
肌の露出は少ないとはいえアコーディオンプリーツの白いロングスカートの素材は薄手だし、トップスもビスチェにボレロといった軽装だ。マントもあまり厚手ではなく、緩やかに作られたドレープが美しいのであまり実用的には見えない。
おそらくミシェルは裾がふわっと広がるシルエットの衣服が好みなのだろう。俺も魔導士といえば風になびくマントやローブが浮かぶ。
「お兄さんとは仲が良かったのか?」
「レギンレイヴシリーズを知った切っ掛けが兄だったわ」
出発前にオニキスにあれこれと言われたが『恋人』という最終目標は一度置いておくと伝え、『友達』を目指し進むことを宣言してきたところだ。
ミシェルに同行してきたのは俺とメテオライトの二人だが、暫くは静観すると言っていたメテオライトは特に何もしてくることもなく、彼女ともいつも通り話をしているようだ。
リリエンソール渓谷近くの遺跡――詳しい場所は機密に係わるという事で不明だが、ワープで連れてこられたこの場所こそ、ゲームでも外伝として登場した神弓シグルドリーヴァが封じられていた場所だ。
この地を治めるリリエンソール公爵であるモンタギュー殿の話によれば、神話の時代より名前だけが伝わっている【ブリュンヒルド】という神器が隠されるように封じられているそうだ。
半倒壊した石造りの建造物は苔が生え、迷路のように入り組んだ通路には所々に風化してしまっているのか、顔も判別できない人型の石像が置かれている。
この遺跡はかつて、この地に人が移り住むよりも昔に何者かが住んでいた形跡のある地で、所々に釜土や長い年月を経て割れてしまった食器など一定水準の文明を持つ生物が複数で生活していた痕跡が見受けられる。
遺跡の中央には神殿だったと思しき尖塔跡があり、現在では塔の上部は風化が進んでしまい大きな穴が開いてしまっている。
この遺跡はゲームでは踏むまでは分からないが陥没する床が複数個所あるので、落ちたりしないよう慎重に進んでいく事となる。
この地に出現する魔物はガーゴイルがメインなのだが、石柱の上に設置されているはずのそれらの大半は地面へと落ちていることから、オニキスたちが神弓を回収しに来た時に退治されたものなのだろう。
遺跡に足を踏み入れて以降、俺たちは片手で足りる程しか戦闘をしていない。
半分ほど進んだところで休憩を取ることになり、俺は一部が崩れてしまっている噴水の淵へと腰掛けた。
携帯食を齧りつつ水分を補給していると、ミシェルが俺の隣に座った。メテオライトは態となのか気をきかせてくれたのか少し離れた場所で明後日の方向を向いている。
「あのさ、このあいだ言われたことなんだけど……俺が悪かった。君の中に『氷の貴公子』ばっかり重ねて『氷の魔女』を見ていなかったんだ。そんな俺の態度が君を傷付けたのなら殴るなり蹴るなり、氷漬けにして崖から突き落とすなりしてくれていい。謝罪させてほしい」
俺は立ち上がり彼女へと頭を下げる。ブリザードでもフィンブルでも受ける覚悟はできている。
しかし思っていたような衝撃はなく、くすくすと笑う声が聞こえた。
恐る恐る顔を上げるとミシェルは口元に手を当てて笑っている。もしかして俺、何か変なことしちゃった?
「ふふっ、ごめんなさいね。まさかそこまで思い詰めさせてしまっていたなんて思ってもみませんでしたの。あの時は私も言い過ぎましたもの、こちらからも謝罪いたします」
俺は嫌われてなかった……のか?
ミシェルも立ち上がり頭を下げてくる。俺は慌てて顔を上げさせるとお互いに笑みが漏れた。
「あの、さ……色々と考えてみたんだけど、友達からってのはダメかな?」
「友達……まぁ、それくらいなら宜しくてよ。私もエリアスのことを勝手に男避けなんかに使いましたし」
「う、うん。やっぱり色んな事を話してお互いのことをよく知らないとだし、改めてよろしくお願いします」
俺は手を差し出してミシェルに握手を求めた。初めて会ったときとは逆になるが、俺が望んで彼女と本当に親しくなりたいからだ。
彼女の華奢な手を握りしめ、改めて俺たちは『友達』となった。
「あの時とは逆ね。私ね、あの時は『エリアスとは適当に仲良くしておけばいいや』って思っておりましたの。原作と違って私は女ですし、貴方は男ですから」
「俺もあの時は君の中に『氷の貴公子』を見ていた。おかしいよな。この世界のミシェルは女の子なのに」
「ええ、本当に。なんで何時までたってもメレディスとイチャ付かないのよコイツとか思っていたわ」
「お互いに原作の俺たちを見ていたんだね」
「そうね」
日が沈む前に遺跡から出たいので休憩を終えた俺たちは歩きながら話を続けた。
幾つか質問を繰り返した結果、共通の話題がレギンレイヴシリーズしかなかったのには互いに変な笑みが出た。
「ミシェルはオニキスが好きなんだよね?」
「ええ、そう……だったのですけど」
「だった?」
「私の前世では兄が二人おりましたの。その下の方の兄を思い出す言動が幾つかあって、私の好きだったオニキス様は原作のオニキス様だったのだと思い知らされましたの」
「お兄さん……」
そういえばオニキスの前世はミシェルの前世と兄妹疑惑があったな。
三人兄妹だったとは知らなかったが、彼女がこう言うって事は何か決定的な部分があったのだろう。
「オニキス様に連れられてシスル王国に向かった際にね、余りに寒い寒いと言う私を気遣って上着を貸して下さったのだけど……」
「けど?」
「私が前世で女子校生と呼ばれていた頃に薄着で出かけたときと同じ事を言われたわ」
「その年頃の時は俺の前世も無駄に足とか出してたわ。ズボン履けば? とか言われたのか?」
「そう。あと腹巻きとか毛糸のパンツとか」
「それは千年の恋も醒めるな」
「えぇ、本当に。オニキス様のお顔を見ているのに兄の顔が浮かぶもの」
先日もオニキスからシスル王国に居た際にミシェルが寒いと連呼していた件について聞いてはいたが、たしかに彼女の服装は冬になると雪に包まれるシスル王国では冬前だったとしても冷えるだろう。
肌の露出は少ないとはいえアコーディオンプリーツの白いロングスカートの素材は薄手だし、トップスもビスチェにボレロといった軽装だ。マントもあまり厚手ではなく、緩やかに作られたドレープが美しいのであまり実用的には見えない。
おそらくミシェルは裾がふわっと広がるシルエットの衣服が好みなのだろう。俺も魔導士といえば風になびくマントやローブが浮かぶ。
「お兄さんとは仲が良かったのか?」
「レギンレイヴシリーズを知った切っ掛けが兄だったわ」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
道化たちの末路
希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる