翠緑の勇者は氷の魔女とお近づきになりたい

大鳳ヒナ子

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第一部

第五十九話 好機

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 マグノリア王国との決戦は国王であるウォルターの戦死という形で幕を閉じた。
 禍根は残ったものの王妹であるイレーヌと降伏してきた老将軍たちの説得により、マグノリア王国は再び聖王国へと恭順することとなる。

 そしてマグノリア王国との決着がついたところで、帝国との国境で敵軍を押さえてくれているシスル王国軍を指揮するオブシディアン将軍より伝令があった。
 戦線を押し返すことに成功。帝国本土へ攻め入るのであれば今が好機と。

「メテオライト様~。ちゃんとお使いできたので褒めてくださ~い」

 初めて会った時のメテオライトを彷彿とさせる間延びした話し方で近づいて来たのは、エルナという女性だ。
 彼女はメテオライトの幼馴染の踊り子ダンサーで、原作ゲームだとメテオライトを仲間にしたとき限定で兵種が司祭ビショップへと変化するキャラクターだ。
 彼女は神に捧げる神聖な踊りの舞い手なのだが、原作で登場するときは旅芸人の一座とはぐれたなどと話していたので他にもいろいろと踊れるのだろう。ゲーム中では小気味よいステップを踏んでいた気がする。

 そのエルナは久しぶりに会うことができたであろうメテオライトに近づくと、「褒めて褒めて」と言いながら軽やかな足取りで彼の周囲を飛び回り始めた。司祭服でこんなに素早く反復横跳びする人は初めて見る。

「司祭服で跳ね回らないの。まったくもう」
「は~い。ところでメテオライト様、オニキス将軍はどこですか? オブシディアン様からお手紙をお預かりしているんですけど」
「オニキスなら向こうでフェイス王女と一緒にいるよ。それよりエルナ。マラカイト将軍はどうしてる?」
「あの将軍でしたら大人しくしてますよ~。メテオライト様のお母様のご実家が、オニキス将軍の派閥に付いたから余計でしょうね~」

 シスル王国軍の派閥争いの顛末はさておき、最近オニキスに関して気になっていることがある。いや、最近ではないかもしれないけど見なかったことにしていた事案が一つある。
 報告の義務を怠ったとかそういった理由で彼女に怒られるのは嫌だが、合流してしばらくたった今、ミシェルも気が付いていておかしくない事案がある。

「なあ、テオ。話の流れをぶった切るようで悪いんだけど、オニキス殿とフェイス様のことどう見てる?」
「良い感じ?」
「……やっぱりそう思うか」
「君としてはミシェルをめぐる争いのライバルが減るんだから良いんじゃない? 僕としても、あの二人がくっついてくれればシスル王国の立場的にも助かるし」
「ミシェルの片思いも微妙なものになっているらしいから、そこは置いておいてだ。俺はあの二人が仲睦まじげにお茶を楽しんでいるシーンに何度か遭遇している。オニキス殿が仮面の不審者だった時期からだ」
「ああ。もしかしてミシェルに話してないの?」

 最近は慎重になりすぎているのかもしれないが、一度大きな失敗をしている身としてはミシェルの怒りに触れるようなことはしたくない。事と次第によっては『フェイス様に虫をつけた』と叱られるかもしれないのだが、肝心の相談相手メテオライトは立場の変化もあってか二人の関係に好意的だ。

「ほうほう。勇者さまは氷の魔女さんに片思いしてるんですね! 私でよければ求愛のダンスを教えますよ!」

 求愛のダンスと言われると、どうしても鳥を連想してしまう。キレキレに動くやつもいれば翼を広げたり閉じたりするだけのやつも居たと思う。
 ちなみに俺のダンス経験は、昔住んでいた町の豊穣祭で簡単なフォークダンスを踊った程度。キャンプファイヤーを中心に、みんなで楽しく踊る感じの子供でもすぐに覚えられる振り付けのだ。

「求愛ダンスはまた今度、駄目だった時にでも教えてもらうことにするよ」
「そうですか、頑張ってくださいね~」

 そういうとオニキスへの用事を済ませるためにエルナは走り去っていった。

「ねえエリアス。僕と取引しない?」
「取引?」
「僕がミシェルに求婚すると困るでしょ? 手を引く代わりに手伝ってほしいことがあるんだけど」

 確かに一国の王子で近々王位を継ぐ予定のメテオライトが彼女を求めれば、聖王国も公爵家も簡単には断ることができないだろうし、竜殺しの功績があるとはいえ一介の騎士でしかない俺ではまるで歯が立たなくなる。
 今ここでこの提案をして来たという事は、交換条件は容易に想像がつく――

「まさかあの二人の仲に関してミシェルを説得しろとか、そういう感じ?」
「いや~、さすがエリアス。話が早くて助かるよ。僕とミシェルの関係とかいろいろ考慮すると、君という友人たちの恋を手助けしたとかそういう話題のほうが良いかもしれなくてね。なんてったってシスル王国で大人気の翠緑の勇者だから、そんな友人を持つ王子とか大人気間違いなし! ってなったら良いかなって」
「ミシェルの地位よりも、俺の知名度で自分の人気を取りたいと」
「うん」

 ローレッタ聖王国とは感性が少々異なるシスル王国では大陸にその名をはせる氷の魔女よりも、信仰する女神の加護を持つ他国ではほぼ無名の勇者のほうが人気がある。これは前にもオニキスが話していた国民性というべきか、英雄譚や冒険の物語が好まれるというのもあるのだろう。
 ミシェルがあの二人の関係をどう思っているか分からない以上はどう転ぶか見当もつかないが、都合よく二人ともミシェルが好意的な人物なので悪い方向には進まないはずだ。フェイス様ガチ勢筆頭ともいえるミシェルであれば主君の幸せを優先してくれるに違いない、きっとそう。

「……出来る限り頑張る」
「うん。頑張ってね」

 俺にはメテオライトのこの微笑みが天使のようにも、悪魔のようにも見えた。

 ミシェルが言っていたメテオライトの隠し事。これは彼の本質的な部分にあるんじゃないかと思っている。
 彼自身が自発的に行動したのは父王を隠居させた際だけで、それ以外は依頼を受けて動いてることが少し気になっていた。
 シスル王国に関する事柄以外では、あくまで傍観者であり、語り部の立場に居たいような雰囲気を感じるのだ。

「まあ本音を言えば、厚遇するからシスル王国に仕官してほしいんだけどね」
「派閥争いが激しい騎士団とか怖いから遠慮しておく」
「それは残念」

 メテオライトに仕えるのが嫌という訳ではない。ただ単に信用の問題だ。
 傭兵時代から口を酸っぱくされて言われたのが、雇い主を裏切らないこと。騎士となった今では主君を簡単に変えないことといっていいだろう。
 一度裏切ったものというのはその評判が付いて回り、結果的には誰からも信用されなくなる。
 何か問題が起こった場合は、傭兵時代であれば契約の解除ないしは破棄を申し出ればよかったし、騎士団の場合は直属の上司にまず相談しろというのが決まりだ。
 なんだかんだ規律や規則というものは守ってしまう質なので、今の俺には主君を変える予定がないことをはっきりと伝えたのだが、当の本人は口にしたほど残念がっていない。

「まあそれでも、困ったことが起きた時は匿うくらいはしてあげるから」

 まるでこの先、俺がローレッタ聖王国に居られなくなるかのような口ぶりだが、原作であるシミュレーションRPG【月虹のレギンレイヴ】での俺の後日談は要約すれば『愛する女性と結婚し幸せな家庭を築いた』といった感じだ。原作での話なので相手はメレディスなのだが、ここがミシェルになってくれれば嬉しい。

 何か追われる要素があるのかと首を捻るも、これと言って特に何も浮かばないまま、次の目的地であるシスル王国へと向かうこととなった。
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