翠緑の勇者は氷の魔女とお近づきになりたい

大鳳ヒナ子

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第一部おまけ

メレディス01.赤き令嬢、貧乏貴族に惹かれる

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※本編55話メレディス視点の補足になります。

 王都防衛の折に敵に敗れ処刑された父の遺体は、王都にほど近いロザリー領の一族が眠る墓地へと埋葬されていた。
 本来であればもっと辱められていたであろう父レックスの遺体は首と胴体こそ離れていたが、武器の試し切りに使われることもなければ不必要に傷つけられることなく無事に王都を脱出できた母が引き取ることが出来たそうだ。

「お帰り、メリー。無事で何よりだ」
「お兄さま……」
「どうしたどうした? そんなにしおらしくして……いつもの気の強いお前は何処に行ったんだ?」

 城内で兄のサミュエルに声を掛けられた。今まではロザリー公爵領の領主代行に立っていたが、グレアム殿下の側近候補に名を連ねていただけあって王都に召喚されていたようだ。

「そうだ。前に父上が話していたエリアス殿も一緒に戻ってきているのだろう? 父上ほどでは無いが、俺が代わりに手合わせを願いたいのだが」
「しなくていいです……」
「うん? なんでだ? 父上が認めた男であれば――」
「他にも用があるので失礼します」

 私は子供のころから騎士になることに憧れていた。そしてその夢が叶って間もなく、彼が現れたのだ。少し不思議な色合いの翠色の瞳は、今までに私が見た事の無い意志を宿していた。
 当時まだ聖騎士団の力を過信していた私は、彼に失礼な態度をとった。気が強くて男勝りな、可愛げのない女だと思われたことだろう。

 でもなぜか私に優しくしてくれる彼が気になって、慣れない手料理などを振る舞って気を引いてみようとした。でも、やっぱり駄目だった。そして彼の思い人が彼女なのは、その後すぐに分かった。

 ミシェルとは子供のころから何度も一緒に遊んでいた。私に聖騎士パラディンではなく、魔導騎士マギナイトを目指すよう助言をくれたのも彼女だ。ミシェルは化粧の仕方や、ドレスの着こなしなどの相談にも乗ってくれる私にとって姉のような存在でもある。

 しかし今は彼らのことを考えている場合ではない。私には直接話をしなければならない相手がいる。
 城内を歩き周り目的の人物――オニキス将軍を探す。暫く歩き回ったところで、食堂の手前にその人物を発見した。

「オニキス将軍、少々よろしいでしょうか?」

 少し人が多いけど、ちょっとした挨拶をするだけだ。以前の私であれば彼の素性を知った今、切りかかっていても可笑しくは無かっただろう。

「両親の件で貴方にお話したいことがあります」

 私の様子を察してか、ミシェルがエリアスを連れて去っていく。あの様子だと、いつもの【フェイス様の聡明さと可憐さを語らう会】が開催されているのだろう。あれは始まると結構長いので、エリアスには少々同情する。

 少し寂しくなった庭園までオニキス将軍を連れ出した。用件は父が必要以上に辱められずに済んだ礼と、王都に来ていた母の脱出の手引きに対する礼だ。父は立場上仕方がなかったが、母のように剛毅な女性を大人しくさせるのは大変だっただろう。

 その他にも様々なことを話していると、近くの植え込みが僅かに揺れる。先ほどからなにやら視線を感じていたが、盗み聞きとは随分と行儀の悪いことをしている。叱責するべき行為なのでそちらへ声を掛けようとしたところで、派手なクシャミが辺りに響き渡る。
 そのすぐあと、植え込みからロビンが出てきた。なんでこんなことをしているのかは知らないけれど、オニキス将軍に別れを告げるとロビンの首根っこを掴み騎士団の詰め所へと向かう。

「だってオニキス将軍って強いし、背も高くて格好いいし……メレディスが――」
「私が何よ」

 なぜ盗み聞きなどしていたのか問い詰める。しかしロビンの態度はいまいち要領を得ない。ずっと私の手を握ったままもじもじとして、子供のころ初めて会った時を思い出す。

 当時、剣を習い始めたばかりの私は手合わせの相手が欲しがり、お父様に我儘を言って相手を集めて貰った。そのうちの一人がロビンだった。今思えば他の男の子たちは接待じみた手合わせだったが、どう見てもロビンだけは手加減なしで私より弱かったのだ。

「メレディスが取られちゃうんじゃないかって」
「はあ?」
「俺じゃあ頼りないかもしれないけど、騎士団長やサミュエル殿に認めてもらえるよう頑張るから」

 両手で強く手を握られる。剣を振るう男の人の大きな手だ。眉尻を下げ今にも泣きだしそうなロビンは、まるで捨てられた子犬のようでもある。

「だから俺を選んで。お願い!」

 ロビンは私よりも年上なのに臆病で頼りない。でも人懐こく、素朴で優しい。私は女だからといって護ってもらうというより、騎士として隣に立ちたい。子供のころから付き合いのあるロビンは私のお転婆にも理解がある。

「まったく、もう……お兄様に勝てるの?」
「一生懸命がんばる」

 考えてみればロビンは昔から私について歩いて来てくれることが多かった。聖王国でも女性が騎士団に入るというのは珍しい。貴族の娘であればなおさらだ。その点においては、私もミシェルも変わり者なのかもしれない。
 大切な幼馴染であり、主君でもあるフェイス様を護るためと騎士を目指し始めた時は反対の声のほうが多かった。何をわざわざ傷を負いに行くのかと。良家の娘であれば貴婦人として恥ずかしくない教養と立ち振る舞いを身に着け、そうそうに何処かへ嫁ぐべきだと散々言われたくらいだ。

 そもそも私には憧れている女性の武人がいる。母のビクトリアだ。もともとは普通の貴婦人だった母は、お父様に一目惚れをしたのを切っ掛けに武の道を志した。武家の妻であれば武芸を身に着けていて当然だと思ったからだそうだ。しかし貴族の女性とは思えないほど、傷や痣が絶えない娘など嫁のもらい手が無い。だけどこれは他に嫁ぐつもりは一切ないという意思表示でもあったそうだ。
 母はお父様に手合わせを申し込み、挙句の果てには「私がレックス様をお守りしますので、どうか妻にしてください。宝石やドレスなどは必要ありません。私にはこの槍があれば十分です」とプロポーズしたという伝説がある。

「やっぱり私がロビンを護ればいいのかしら?」
「ビクトリア様の真似はしなくていいよ! 俺がメレディスを護るから、一人で危ないことはしないで!」

 私の小さな呟きを聞き漏らすことなく必死の形相で止めてくる。しかし全くダメとは言わず、一緒になら危ないことをしていいだなんて本当に彼は私に理解がある。
 女を捨てるつもりはないし、かといって言われた通り大人しく過ごすのは性に合わない。そう考えればロビンは私にとって最高の相棒パートナーだろう。

「私がロビンを護って、ロビンが私を護れば全て解決ね」
「う、うん。メレディスに頼りにしてもらえるよう頑張る」

 まだお互いの家の了承を得ていないので婚約など出来るかすら判らない。でも下手な政略結婚よりは、気兼ねなく接することができる相手のほうが何倍も良い。

 そうだ。ロビンとのこと、エリアスにも伝えないと。私の今までの態度は彼を困惑させてしまっただろうから。それに彼がミシェルのことが好きなのであれば、伝えておきたいこともある。ミシェルは冷たい見た目に反して、気さくで優しい子だという事を。
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