翠緑の勇者は氷の魔女とお近づきになりたい

大鳳ヒナ子

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第二部

第01話 消えた盟友

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 なるほど……給料三ヶ月分とはよく言ったものだ。目玉が飛び出そうな金額を見て素直にそう思った。
 リンデン帝国での邪竜ロキとの決戦以降、俺は平和になったのを機に礼儀作法やらなにやらと貴族特有の文化などを学ぶこととなった。しかし指輪一つ、花一つでこんなにも頭を使わなければならないとは恐れ入る。
 なかには直接会話をせず手紙もなく、花を送り合うだけで会話をする者たちまで存在するらしい。無数に存在する花言葉だけで会話するまでなると、俺から見ればもはや別次元だ。

 今日は悩みに悩みぬいて選んだ宝石を使用して製作を依頼していた婚約指輪を店まで引き取りに来たところだ。屋敷を持っている貴族であれば自宅へ届けさせるのであろうが、あいにく俺は相変わらず騎士団の宿舎に住んでいる。

 前金である程度の金額を渡してあるので、代金の支払いは問題ない。だがそれでも今までの人生で一番高額な買い物だ。
 しかしこれも一つの愛のカタチである。思いの丈が詰まったこの指輪で次の休みがかち合った時、俺は愛しのミシェルにプロポーズするのだ。

 出来上がった指輪を包んでもらうと、俺は宿舎に戻るべく来た道を歩く。しかし城内に戻り通路を歩いていると、途中で背後から呼び止められた。その声には聞き覚えがあるが、ローレッタ聖王国の王都アヴァロンで聞くには珍しい人物のものである。

「エリアス殿! うちのメテオライト様とエルナ来てないっすか!?」
「ヘリオドール殿? いや、二人とも来てないが……何かあったのか?」
「うちの氷室の氷でかき氷ってやつを作る約束してたのに全くどこにも見当たらないんすよ!」

 あのメテオライト様が甘い物から逃げるはずないのに――と付け足しながらヘリオドールは一息にいう。なかなかしょうもない理由で捜索しているようだが、戴冠を控えた一国の王子が消息不明となると心配である。

「ジェイドんとこのリンゴと、オブシディアンさまのとこのパティシエが競演して美味しいソースも作ってるのに!」

 リンゴシロップでかき氷か……果肉入り百パーセントのジュースをかけて食べるのに似てるんだろうか。それともコンポートか。ちょっと気になるぞ。
 ヘリオドールはその辺の壺の中などを覗き込んだりしてメテオライトを捜索している。だが流石にそこには居ないだろうというツッコミはするべきなのだろうか。

「ここでもないとすると、やはり誘拐か……」
「メテオライト様もエルナも二人ともちびっこいですし、箱とか袋に詰められてたら絶対わかんないですって」

 ヘリオドールと一緒にマーリンも来ているということは、彼にワープで連れてきてもらったのだろう。シスル城からローレッタ聖王国の王都アヴァロンまでは最短距離をどんなに馬で飛ばしても、ひと月近くは掛かるはずだ。

「オブシディアン様はショックで寝込んじゃうし、ラナンキュラス侯は頭抱えてるしで大変なんすよ」

 その後も城内の知り合いに聞き込みがてら話を聞いていくうちに、各国から複数の人物の失踪が報告されていることが判明した。
 シスル王国の二人の他にも、アイリス王国のルイス王子とその婚約者のブリジット。マグノリア王国のジゼル王女や、ベルトラム傭兵隊のヘレーネ。なんやかんやあってハイドランジア王国に腰を据えていたというゲールノートまで行方知れずになっている。

 大陸中でこのようなことが起こるのは異常事態である。共に戦った仲間たちを心配したグレアム陛下の指示のもと、手分けして行方不明者の手がかりを追うこととなった。
 まずは俺たち無事だった者が各国へと散り、それぞれ状況を確認することとなる。メテオライトとエルナの捜索が、俺とミシェルをはじめとした聖王国勢の仕事だ。

「オブシディアンさまの証言によると居なくなる直前は執務の休憩中で、ハーブティーと一緒にお気に入りのケーキを食べていたそうです。これは俺の私見なんすけど、メテオライト様は昔から上に載っている大きめのイチゴは最後に食べる派だったんで、残ったままどこかに行くとは考えられないっす。なんせシスルでは新鮮な果物は貴重ですからね」

 シスル城につくと早速、メテオライトが最後に目撃された場所に案内され子細を聞く。状況としては執務が片付き、お茶をしながら一息ついていた時のようだ。
 ヘリオドールの話によると、この部屋に入れるのは一部の騎士や文官たちだけ。これはメテオライトの帰還後に、騎士団の指揮系統を一任されたオブシディアンが警備内容も見直したからだそうだ。なので不審者の侵入は有り得ないらしい。
 しかしメテオライトは楽しみを最後に取っておく派か。横取りしてくる奴が居ないから出来る行動だな。

「そうなると誘拐されたということですの? でもエルナさんも同じ時期に居なくなっておりますのよね?」
「最初はあの二人の悪戯かと思ったんですけど、流石に丸一日以上も見当たらないとなると違うだろうなあ~って」

 シスル城では次期国王であるメテオライトと神殿を預かる司祭長が揃って行方不明というのもあり、二人の不在を民たちに悟られないよう情報統制が行われているみたいだ。幸いなことに、シスル城は役割が砦に近いので近くに城下町がない。情報の流出はまずありえないだろう。
 しかし街で聞き込みをするにしても、メテオライトは国民にほとんど顔を知られていない。なので混乱を避けるためにも個人名は出さず、背格好や服装などで説明しなくてはならない。

 フェイス様と共に里帰りもかねて探索に参加しているオニキスも、心当たりを探してきたみたいだが全て外れに終わったようだ。
 城の中はもちろん、あの二人が移動できる範囲は全て探した。しかし悪戯だと決め打つにしろ、杖の熟練度が高いエルナが居ればワープの杖でどこへでも行けるので、あまり範囲は絞れていない。

 その後も数日かけて手分けして探してみるが、これっぽっちも見つかる気配がない。それどころかオブシディアンに聞いた最後の目撃証言以降は、まったくと言って情報が出てこないのだ。
 流石に時間が掛かりすぎたのか、一部の口さがないものたちが妄言を吐いていたのを聞いたりもした。内容はメテオライトの後見人の一人であるオブシディアンへの悪口だ。婿入りに乗じてミスルトー家を乗っ取った男なので、少なからず悪評があるらしい。
 なので何らかの野心を抱えたオブシディアンが、その立場を利用して次期国王を自分に都合のいいように教育しようと攫ったのではないか。そんな噂が流れ始めてしまったのだ。
 しかし当の本人はショックを受けて寝込んでいるし、ミスルトー家の管理する建物や土地は一通り捜索が済んでいる。そこからはメテオライトは勿論、エルナも見つかっていない。

 そんなこんなで、なんの進展もないまま俺はメテオライトの部屋に戻ってきた。何か見落としている手掛かりはないか、改めて室内を見回す。すると執務机の上に一冊のノートが放置されていたことに気付く。
 表紙には前世の文字で【月虹のレギンレイヴ】と書かれている。俺が覚えている範囲の情報を書き出していたように、メテオライトも俺と同じように前世の記憶の中から覚えている部分を情報整理もかねて書き出していたのだろう。
 なんとなしにそのノートを手に取りページを捲ろうとしたところで、俺の上着のポケットから小箱が転げ落ちた。大切な指輪が入った箱なので、急ぎ拾おうと身を屈め手を伸ばすも空を切る。
 そして指輪の入った箱は、どこからともなく伸びてきた眩いばかりの光の腕に掴まれ何処かへと消えた。時間をおかずに俺も同じような腕に身体を鷲掴まれると、何処に続くともしれない渦の中へと引きずり込まれる。

 まるでボールの中に入れられ、激しく転がされているかのような感覚に襲われる。いつ終わるのか、何が起こっているのかすらも解らない。込み上げる吐き気を耐えつつ、俺は流れに身を委ねることしか出来なかった。
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