83 / 140
第二部
第02話 異境の大図書館
しおりを挟む
上下左右すら分からないほど、現在の自分が置かれている状況が判らない。しかし僅かな浮遊感に包まれると、気がついた時には見知らぬ場所に立っていた。だが微かに既視感のある景色が広がっている。
「俺は女神アストレアの加護を持つ翠緑の勇者エリアスだ。この聖剣テミスにかけて君の力になろう」
何故だか解らないが、俺の口は勝手に自己紹介の言葉を吐き出した。だがこのセリフには覚えがある。レギンレイヴシリーズのソーシャルゲームである【レギンレイヴ・リコレクションズ】でエリアスが初めて召喚されたときに喋るセリフだ。
「はじめまして、私は軍師のタマキと申します! ここはセフィロトという場所にある図書館で、エリアスさんが居たところから見ると異大陸ということになりますね」
「異大陸……」
いま俺が立っている場所の両脇に聳え立つ柱のデザインには見覚えがあるし、背後の石板も含めてガチャ画面として散々見たものだ。それにタマキと名乗った女の子が身に着けているローブは、アバターの初期衣装である。なので彼女の言っていることと、この状況は大体わかる。
レギンレイヴ・リコレクションズは、大図書館の司書たちが管理する年代記の異変の解決が目標だ。年代記にはそれぞれ【月虹】とか【旋風】などレギンレイヴシリーズのタイトルが記されており、セフィロトの大図書館ではこの年代記の管理を行っている。
「エリアスさんと同じ大陸から来た方も沢山いますよ! みんなに紹介したいので、付いてきてください」
「ああ、わかった」
なるほど。最近仲間たちが失踪していたのは、この大陸に召喚されていたからか。これは、ここでの事件を解決しないことには帰ることが出来ないのでは無いだろうか?
舞台となるセフィロトの大図書館は、俺たちが住むローレッタ大陸よりはるか北西に存在するらしい大陸だ。考察班の予想では神竜族や氷竜族が移住した大陸ではないかと、まことしやかに囁かれている地である。そうなると物凄く遠いので自力では帰還不可能だ。
しかしソーシャルゲームというシステム上、家庭用ゲーム機のようにエンディングが存在しないのが難だ。だが前世でプレイしていた時期は第一部の終章が配信され始めた時期だから、そこまで辿り着けばもしかしたら帰れるかもしれない。
愛しのミシェルには暫く会うことは出来ないだろうが、召喚されてしまったからには仕方が無いことだと割り切る。
リコレクションズの導入は、年代記が突如として現れた謎の敵性生物によって内容を改変されてしまうところから始まる。オープニングムービーではこの地の戦士たちが魔物と戦っているところからになるが、その真っただ中にプレイヤーは原因不明の力によって召喚され戦いへと巻き込まれていくことになる。
仲間たちとともに歪められた年代記を修正し、各マップのクリア報酬で戦力を整え、敵の拠点である塔を攻略するのがゲーム部分となる。
「皆さ~ん! 新しい仲間を紹介したいので集まってくださ~い」
ゲーム画面でもエントランスとなる広間には、そこまで人数は多くないがそうそうたるメンバーが一堂に会していた。レギンレイヴシリーズのキャラクター達がシリーズを越えて集まっているので、服飾文化の違いもあってかなり華やかである。
「おー、エリアスじゃねぇか!」
少し見慣れないが傭兵の上級職である剣豪の装備に身を包んだベルトラムが、声を上げながら近づいてきて俺の背をバシバシと遠慮なく叩く。その声に釣られたのか、俺の周りには見知った顔達が集まってきた。
しかし口々にかけてくる言葉はどこか違和感があり、俺にはその正体が掴みかねずに居たその時だった。人混みをかき分けて現れた『彼』は親しげに俺と肩を組むと、からかうような悪戯っぽい笑みを向けてくる。
「やっとお前も来たか。ほら、メレディスが待っているぞ?」
「えっ……?」
「まったく……さんざん待たせやがって。三日で見飽きたはずの、何時までも新婚気分なお前たちが見られなくて困っていたところだったんだぞ」
ゲーム画面で散々眺めていた相手だというのに俺にはこの男が一瞬、誰なのか解らなかった。目を奪われるほどに美しい金糸に、見つめられていると甘く蕩けるような気分になる瑠璃の瞳をもつ美貌の狙撃手――氷の貴公子ミシェルが俺の目の前に立っていた。
「えっと……」
しかしこれは知らない人って体で話を進めないと不味いだろう。こっちのミシェルは女の子だ。それに俺はメレディスと結婚していない。助けて親切な人!
「もしかして彼は、最近発見されたもう一つの月虹の世界から来たエリアスなのかな?」
どうしたものかと視線を彷徨わせていると、俺より少し年下くらいの青年――ドルフと目が合う。彼は俺の戸惑いを察してくれたようで助け船を出してくれた。大陸名ではなく【月虹の世界】と呼んだのはシリーズによっては同じ大陸で別の時代を描く物語だったりするので、出展作品を分ける意味を込めての呼び分けのようなものだ。
ドルフはリコレクションズの主人公的なポジションのキャラクターだ。代々多くの司書を輩出している名門、ケテル家の侯弟でもある剣士である。セフィロトに所属している司書は年代記へのアクセス権限を持つ人材で、プレイヤーとリコレクションズのオリジナルキャラクターたち四人がこれに該当する。
基本的にはセフィロトを治める十の侯爵家にしか、年代記へのアクセス権限を有する者は産まれないらしい。しかし異世界から迷い込んできたという設定であるプレイヤーは、アクセス権限だけでなく召喚能力も含めて異例の存在だそうだ。
「もう一つって、どういうことなんだ?」
「口で説明するより実際に見て貰ったほうが早いかな。テオとメテオライトはどこだい? 二人ともこっちへ来て欲しい」
しかし二人とはどういうことだろうか。出展作品が同じ同名のキャラクターは、重ねることで限界突破が出来る。ガチャでダブりが出て手持ちに複数表示されていても、システム上では同一キャラクターは同時に出撃できないため、重複して存在しないはずなのだ。
メテオライトの場合は原作である出典元――月虹のレギンレイヴで仲間になったときのユニット名が『テオ』なので、何らかの理由で片方は『メテオライト』というユニット名で実装されているのだろう。
「なぁに? 呼んだ?」
「えっ……もしかしてこっちのエリアスだったの? 気が付かなくてごめんよ~」
最初に来た一人は吟遊詩人の格好をしているゲームでも見慣れたメテオライトだ。後から来たもう一人のメテオライトは最近では、すっかり見慣れた黒い法衣を身に纏っている。こちらは傍らに一緒に行方をくらましたとされていたエルナも一緒だ。
「行方不明になったって聞いたから、何処へ行ったのかと皆で探してたんだぞ」
「だろうね。僕も突然呼び出されてびっくりしたし。あ~、帰ったら恐ろしい量の仕事が僕を待ち構えているんだろーなー」
「執務はラナンキュラス候が代理でしてくれていた。それとお前が居なくなったショックでオブシディアン殿が寝込んでる。帰ったらちゃんと説明するんだぞ」
「そっかそっか、クォーツ伯父上にはしっかりお礼しないと。エリアスが探してくれていたってことは、もしかしてグレアム陛下にも……」
「捜索の指揮を執っているのがグレアム陛下だ。……でも俺も探される側に仲間入りか」
二人して項垂れる。グレアム陛下は邪竜ロキとの決戦後、しばらくのあいだは喪に服す意味も込めて戴冠せず王子として過ごしていた。しかし妹であるフェイス王女の婚姻を先にするのは如何なものかと、モンタギュー殿やその他の側近たちに言われ、少し前に聖王の座を正式に継いだばかりだ。
本来であれば復興途中である国内の整備や慰問、アイリス王国に借りていた負債の返済などに忙しいはずなのだが余計な心労を追加してしまった。
「そっちの僕、どうやって叔父上を手懐けたんだい!?」
「え~? これと言って何かした覚えはないかな。ああでも城を追い出されたときに、叔父上の邸近くを通った僕が挨拶もしないで国外に出たから、いじけてたって聞いたよ?」
「はあっ!? 僕は門前払いされたのに!」
しかし流石は同一人物だ。きっと服が同じだったら見分けがつかないだろう。王子のほうが若干色艶が良い気もするが、吟遊詩人のほうは砂漠をうろついていたころなのか健康的に日焼けしている気がする。
しかしやはりメテオライトとオブシディアンは原作だと不仲で合っていたか。ヘリオドールたち幼馴染組は説得するとき最初から友好的だったが、オブシディアンだけはなにか過去に一悶着有ったんだろうなと思えるやり取りがあった。
「ふむ。そのエリアスは俺たちの世界のエリアスではなさそうだな」
「そうそう。このエリアスはメレディスを口説けなかったエリアスなんだ」
「なんだ、フラれたのか」
「フラれてない! 口説いていないだけだ!」
好き放題言われているが、原作でも俺と氷の貴公子はこんなやり取りばかりしている。メテオライトは便乗しているだけだ。
「他にもっといい女でも居たのか?」
「前にも話したとおり、こっちの世界のミシェルが女の子だからさ~。物凄い美人なのは察しくらいつくでしょ?」
「それはもっと難しいんじゃないか?」
俺は安くないぞ? と付け足しながら品良く笑う。たしかにミシェルは気難しい。なにせ態度を叱責されたこともある。最近では作法や各種勉強、ダンスのレッスンなどに付き合って貰うこともあるので、結構厳しくされている気もする。
「それが結構仲良いんだよね。まあ、力関係では彼女が勝ってるけど婚約者候補の中では最有力らしいし」
「惚れた弱みという奴だ……って、何を言わせるんだ!」
「お前が勝手に話したんだろう」
メテオライトにうまい事乗せられて思わず惚気る。それを聞いた氷の貴公子には良い玩具発見って顔をされた。これは暫くからかって遊ばれる予感がする。挙句メテオライトには「きみって結構ぽろっと零すよね」といわれるが、これに関しては前科があるので否定できない。
「なに、素直なのがエリアスの良いところだろう」
「はいはい。ミシェルもメテオライトもおふざけはその辺にして。私はアナベル、この組織で実働部隊の隊長をしているものよ。早速だけど装備とスキルの確認をさせて貰うわね」
アナベル隊長は戦闘時に役立つスキルのほかにも、武器やアイテムの鑑定、軍師と同じように他人のステータス覗きができるという設定持ちだ。皆の上司という立場なので、おそらくはチュートリアル用に付与されたのだろう。なお公式絵師によるとイメージカラーは服の色と同じ黄色だそうだ。
「装備は聖剣テミス。スキルは後の先、必殺封じ、断罪者の剣、翠緑の抱擁の四つだな」
「驚いた。書物では聖剣テミスは近接戦闘しか出来ないものだと伝わっていたけど、間接攻撃も出来るのね」
「えっ、それは俺も初耳なんだが?」
「遠距離攻撃に対して反撃可能って書いてあるわよ?」
「聖剣で水晶の剣みたいなことができるのか」
しかし聖剣で魔法攻撃の場合、魔法属性はいったい何になるのだろう?
神聖魔法は違うだろうから、後で案内して貰えるであろう訓練場で色々試して調べるしかない。
「私のアイテム鑑定はこんな感じね。力どころか魔力まで高いみたいだし、やっぱり伝承は当てにならないわね」
どうやらこの大陸に伝わる俺の伝承は、カビでは無く草が生えているらしい。その証拠にこちらの世界のメテオライトが腹を抱えて笑っている。そりゃあ原作通りの俺と比べられたら差が出るのは当たり前だ。何せこちらは氷の魔女さま特製の改造ドーピングアイテムで魔改造されているのだから。
「そちらの世界の俺が女ということだし、改めて自己紹介が必要そうだな。俺はミシェル。つい先日、リリエンソール公爵になったばかりだ。もとの場所では女王陛下より聖王国の弓兵隊を預かっている。兵種は狙撃手で、この世界では神弓シグルドリーヴァを占有させて貰っている」
「神弓はリリエンソール公爵家で管理してきたんだから当然でしょ。気にする必要ないんじゃない?」
「俺のステータスでそれを言えると思うか?」
メテオライトのいうことは正論でもあるが、ゲーム的には余り宜しくない感じだ。しかし前世では手に入るドーピングアイテムを全てミシェルに貢いで神弓を装備させてたプレイヤーもいる。前世のことだ。
なおリコレでは装備している武器の付け替えは出撃前限定で出来るのだが、シリーズを超えるという仕様上か神器だけは持ち主が固有になっている。なので高レアリティの神器持ちが自然と優遇される傾向にある。俺と氷の貴公子は神器持ちだがレアリティは☆4なので、性能はお察しだ。
「エリアスさんの育成がてら、午後からは訓練マップの周回をします! メンバーは――」
本来リコレクションズではレベル1からのはずなのに、俺のレベルはこちらに飛ばされてくる直前と同じ14だ。レベルアップ回数は残り六回。カンストは見えないが、平和になったローレッタ大陸よりはレベルも上がりやすいだろう。
昼食を取った後は予想通り訓練マップを鬼のように周回させられ、その残りのレベルアップも全て使い終わった。勇者レベル20になった俺のステータスは当たり前だがカンストしたものは無い。力に到っては上限30なのに妖怪イチタリナイが仕事して29。幸運など相変わらず7のままだ。
そんなこんなで俺の異大陸生活が幕を開けることとなったのだった。
「俺は女神アストレアの加護を持つ翠緑の勇者エリアスだ。この聖剣テミスにかけて君の力になろう」
何故だか解らないが、俺の口は勝手に自己紹介の言葉を吐き出した。だがこのセリフには覚えがある。レギンレイヴシリーズのソーシャルゲームである【レギンレイヴ・リコレクションズ】でエリアスが初めて召喚されたときに喋るセリフだ。
「はじめまして、私は軍師のタマキと申します! ここはセフィロトという場所にある図書館で、エリアスさんが居たところから見ると異大陸ということになりますね」
「異大陸……」
いま俺が立っている場所の両脇に聳え立つ柱のデザインには見覚えがあるし、背後の石板も含めてガチャ画面として散々見たものだ。それにタマキと名乗った女の子が身に着けているローブは、アバターの初期衣装である。なので彼女の言っていることと、この状況は大体わかる。
レギンレイヴ・リコレクションズは、大図書館の司書たちが管理する年代記の異変の解決が目標だ。年代記にはそれぞれ【月虹】とか【旋風】などレギンレイヴシリーズのタイトルが記されており、セフィロトの大図書館ではこの年代記の管理を行っている。
「エリアスさんと同じ大陸から来た方も沢山いますよ! みんなに紹介したいので、付いてきてください」
「ああ、わかった」
なるほど。最近仲間たちが失踪していたのは、この大陸に召喚されていたからか。これは、ここでの事件を解決しないことには帰ることが出来ないのでは無いだろうか?
舞台となるセフィロトの大図書館は、俺たちが住むローレッタ大陸よりはるか北西に存在するらしい大陸だ。考察班の予想では神竜族や氷竜族が移住した大陸ではないかと、まことしやかに囁かれている地である。そうなると物凄く遠いので自力では帰還不可能だ。
しかしソーシャルゲームというシステム上、家庭用ゲーム機のようにエンディングが存在しないのが難だ。だが前世でプレイしていた時期は第一部の終章が配信され始めた時期だから、そこまで辿り着けばもしかしたら帰れるかもしれない。
愛しのミシェルには暫く会うことは出来ないだろうが、召喚されてしまったからには仕方が無いことだと割り切る。
リコレクションズの導入は、年代記が突如として現れた謎の敵性生物によって内容を改変されてしまうところから始まる。オープニングムービーではこの地の戦士たちが魔物と戦っているところからになるが、その真っただ中にプレイヤーは原因不明の力によって召喚され戦いへと巻き込まれていくことになる。
仲間たちとともに歪められた年代記を修正し、各マップのクリア報酬で戦力を整え、敵の拠点である塔を攻略するのがゲーム部分となる。
「皆さ~ん! 新しい仲間を紹介したいので集まってくださ~い」
ゲーム画面でもエントランスとなる広間には、そこまで人数は多くないがそうそうたるメンバーが一堂に会していた。レギンレイヴシリーズのキャラクター達がシリーズを越えて集まっているので、服飾文化の違いもあってかなり華やかである。
「おー、エリアスじゃねぇか!」
少し見慣れないが傭兵の上級職である剣豪の装備に身を包んだベルトラムが、声を上げながら近づいてきて俺の背をバシバシと遠慮なく叩く。その声に釣られたのか、俺の周りには見知った顔達が集まってきた。
しかし口々にかけてくる言葉はどこか違和感があり、俺にはその正体が掴みかねずに居たその時だった。人混みをかき分けて現れた『彼』は親しげに俺と肩を組むと、からかうような悪戯っぽい笑みを向けてくる。
「やっとお前も来たか。ほら、メレディスが待っているぞ?」
「えっ……?」
「まったく……さんざん待たせやがって。三日で見飽きたはずの、何時までも新婚気分なお前たちが見られなくて困っていたところだったんだぞ」
ゲーム画面で散々眺めていた相手だというのに俺にはこの男が一瞬、誰なのか解らなかった。目を奪われるほどに美しい金糸に、見つめられていると甘く蕩けるような気分になる瑠璃の瞳をもつ美貌の狙撃手――氷の貴公子ミシェルが俺の目の前に立っていた。
「えっと……」
しかしこれは知らない人って体で話を進めないと不味いだろう。こっちのミシェルは女の子だ。それに俺はメレディスと結婚していない。助けて親切な人!
「もしかして彼は、最近発見されたもう一つの月虹の世界から来たエリアスなのかな?」
どうしたものかと視線を彷徨わせていると、俺より少し年下くらいの青年――ドルフと目が合う。彼は俺の戸惑いを察してくれたようで助け船を出してくれた。大陸名ではなく【月虹の世界】と呼んだのはシリーズによっては同じ大陸で別の時代を描く物語だったりするので、出展作品を分ける意味を込めての呼び分けのようなものだ。
ドルフはリコレクションズの主人公的なポジションのキャラクターだ。代々多くの司書を輩出している名門、ケテル家の侯弟でもある剣士である。セフィロトに所属している司書は年代記へのアクセス権限を持つ人材で、プレイヤーとリコレクションズのオリジナルキャラクターたち四人がこれに該当する。
基本的にはセフィロトを治める十の侯爵家にしか、年代記へのアクセス権限を有する者は産まれないらしい。しかし異世界から迷い込んできたという設定であるプレイヤーは、アクセス権限だけでなく召喚能力も含めて異例の存在だそうだ。
「もう一つって、どういうことなんだ?」
「口で説明するより実際に見て貰ったほうが早いかな。テオとメテオライトはどこだい? 二人ともこっちへ来て欲しい」
しかし二人とはどういうことだろうか。出展作品が同じ同名のキャラクターは、重ねることで限界突破が出来る。ガチャでダブりが出て手持ちに複数表示されていても、システム上では同一キャラクターは同時に出撃できないため、重複して存在しないはずなのだ。
メテオライトの場合は原作である出典元――月虹のレギンレイヴで仲間になったときのユニット名が『テオ』なので、何らかの理由で片方は『メテオライト』というユニット名で実装されているのだろう。
「なぁに? 呼んだ?」
「えっ……もしかしてこっちのエリアスだったの? 気が付かなくてごめんよ~」
最初に来た一人は吟遊詩人の格好をしているゲームでも見慣れたメテオライトだ。後から来たもう一人のメテオライトは最近では、すっかり見慣れた黒い法衣を身に纏っている。こちらは傍らに一緒に行方をくらましたとされていたエルナも一緒だ。
「行方不明になったって聞いたから、何処へ行ったのかと皆で探してたんだぞ」
「だろうね。僕も突然呼び出されてびっくりしたし。あ~、帰ったら恐ろしい量の仕事が僕を待ち構えているんだろーなー」
「執務はラナンキュラス候が代理でしてくれていた。それとお前が居なくなったショックでオブシディアン殿が寝込んでる。帰ったらちゃんと説明するんだぞ」
「そっかそっか、クォーツ伯父上にはしっかりお礼しないと。エリアスが探してくれていたってことは、もしかしてグレアム陛下にも……」
「捜索の指揮を執っているのがグレアム陛下だ。……でも俺も探される側に仲間入りか」
二人して項垂れる。グレアム陛下は邪竜ロキとの決戦後、しばらくのあいだは喪に服す意味も込めて戴冠せず王子として過ごしていた。しかし妹であるフェイス王女の婚姻を先にするのは如何なものかと、モンタギュー殿やその他の側近たちに言われ、少し前に聖王の座を正式に継いだばかりだ。
本来であれば復興途中である国内の整備や慰問、アイリス王国に借りていた負債の返済などに忙しいはずなのだが余計な心労を追加してしまった。
「そっちの僕、どうやって叔父上を手懐けたんだい!?」
「え~? これと言って何かした覚えはないかな。ああでも城を追い出されたときに、叔父上の邸近くを通った僕が挨拶もしないで国外に出たから、いじけてたって聞いたよ?」
「はあっ!? 僕は門前払いされたのに!」
しかし流石は同一人物だ。きっと服が同じだったら見分けがつかないだろう。王子のほうが若干色艶が良い気もするが、吟遊詩人のほうは砂漠をうろついていたころなのか健康的に日焼けしている気がする。
しかしやはりメテオライトとオブシディアンは原作だと不仲で合っていたか。ヘリオドールたち幼馴染組は説得するとき最初から友好的だったが、オブシディアンだけはなにか過去に一悶着有ったんだろうなと思えるやり取りがあった。
「ふむ。そのエリアスは俺たちの世界のエリアスではなさそうだな」
「そうそう。このエリアスはメレディスを口説けなかったエリアスなんだ」
「なんだ、フラれたのか」
「フラれてない! 口説いていないだけだ!」
好き放題言われているが、原作でも俺と氷の貴公子はこんなやり取りばかりしている。メテオライトは便乗しているだけだ。
「他にもっといい女でも居たのか?」
「前にも話したとおり、こっちの世界のミシェルが女の子だからさ~。物凄い美人なのは察しくらいつくでしょ?」
「それはもっと難しいんじゃないか?」
俺は安くないぞ? と付け足しながら品良く笑う。たしかにミシェルは気難しい。なにせ態度を叱責されたこともある。最近では作法や各種勉強、ダンスのレッスンなどに付き合って貰うこともあるので、結構厳しくされている気もする。
「それが結構仲良いんだよね。まあ、力関係では彼女が勝ってるけど婚約者候補の中では最有力らしいし」
「惚れた弱みという奴だ……って、何を言わせるんだ!」
「お前が勝手に話したんだろう」
メテオライトにうまい事乗せられて思わず惚気る。それを聞いた氷の貴公子には良い玩具発見って顔をされた。これは暫くからかって遊ばれる予感がする。挙句メテオライトには「きみって結構ぽろっと零すよね」といわれるが、これに関しては前科があるので否定できない。
「なに、素直なのがエリアスの良いところだろう」
「はいはい。ミシェルもメテオライトもおふざけはその辺にして。私はアナベル、この組織で実働部隊の隊長をしているものよ。早速だけど装備とスキルの確認をさせて貰うわね」
アナベル隊長は戦闘時に役立つスキルのほかにも、武器やアイテムの鑑定、軍師と同じように他人のステータス覗きができるという設定持ちだ。皆の上司という立場なので、おそらくはチュートリアル用に付与されたのだろう。なお公式絵師によるとイメージカラーは服の色と同じ黄色だそうだ。
「装備は聖剣テミス。スキルは後の先、必殺封じ、断罪者の剣、翠緑の抱擁の四つだな」
「驚いた。書物では聖剣テミスは近接戦闘しか出来ないものだと伝わっていたけど、間接攻撃も出来るのね」
「えっ、それは俺も初耳なんだが?」
「遠距離攻撃に対して反撃可能って書いてあるわよ?」
「聖剣で水晶の剣みたいなことができるのか」
しかし聖剣で魔法攻撃の場合、魔法属性はいったい何になるのだろう?
神聖魔法は違うだろうから、後で案内して貰えるであろう訓練場で色々試して調べるしかない。
「私のアイテム鑑定はこんな感じね。力どころか魔力まで高いみたいだし、やっぱり伝承は当てにならないわね」
どうやらこの大陸に伝わる俺の伝承は、カビでは無く草が生えているらしい。その証拠にこちらの世界のメテオライトが腹を抱えて笑っている。そりゃあ原作通りの俺と比べられたら差が出るのは当たり前だ。何せこちらは氷の魔女さま特製の改造ドーピングアイテムで魔改造されているのだから。
「そちらの世界の俺が女ということだし、改めて自己紹介が必要そうだな。俺はミシェル。つい先日、リリエンソール公爵になったばかりだ。もとの場所では女王陛下より聖王国の弓兵隊を預かっている。兵種は狙撃手で、この世界では神弓シグルドリーヴァを占有させて貰っている」
「神弓はリリエンソール公爵家で管理してきたんだから当然でしょ。気にする必要ないんじゃない?」
「俺のステータスでそれを言えると思うか?」
メテオライトのいうことは正論でもあるが、ゲーム的には余り宜しくない感じだ。しかし前世では手に入るドーピングアイテムを全てミシェルに貢いで神弓を装備させてたプレイヤーもいる。前世のことだ。
なおリコレでは装備している武器の付け替えは出撃前限定で出来るのだが、シリーズを超えるという仕様上か神器だけは持ち主が固有になっている。なので高レアリティの神器持ちが自然と優遇される傾向にある。俺と氷の貴公子は神器持ちだがレアリティは☆4なので、性能はお察しだ。
「エリアスさんの育成がてら、午後からは訓練マップの周回をします! メンバーは――」
本来リコレクションズではレベル1からのはずなのに、俺のレベルはこちらに飛ばされてくる直前と同じ14だ。レベルアップ回数は残り六回。カンストは見えないが、平和になったローレッタ大陸よりはレベルも上がりやすいだろう。
昼食を取った後は予想通り訓練マップを鬼のように周回させられ、その残りのレベルアップも全て使い終わった。勇者レベル20になった俺のステータスは当たり前だがカンストしたものは無い。力に到っては上限30なのに妖怪イチタリナイが仕事して29。幸運など相変わらず7のままだ。
そんなこんなで俺の異大陸生活が幕を開けることとなったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
道化たちの末路
希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる