翠緑の勇者は氷の魔女とお近づきになりたい

大鳳ヒナ子

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第三部

第04話 行方不明の聖女

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 ローレッタ大陸の西南に位置するアイリス島には、つい最近まで二つの国が存在していた。神話の時代の終わりとともにベオウルフによって建国されたアイリス王国と、比較的最近になってアイリス王国から土地の一部を委譲されて建国されたハイドランジア王国の二国である。

 帝国との戦いのなかで国王が死亡し唯一生き残った王族に連なる娘であるアガーテが継承権を完全に放棄したことにより、ハイドランジア王国だった地は再びアイリス王国の一部となった。
 一つだった国が二つに割れ、それが再び一つに戻る。それだけでも大変な状態だったというのに、今度は別の問題が起きていた。

「アガーテと連絡が取れなくなったと思ったら、次は暴動……一体何が起こっているんだ」

 要塞で兵たちの指揮を執るルイスの表情は暗い。本当につい先日まで共に戦い、共に復興作業をして来た仲間たち。誠実さを欠いたことも無ければ、身分問わずに世話になった相手に礼をする。それはルイスが子供のころから当然のようにしてきたことだ。

「密偵によると民を扇動しているものがいるようですな。アガーテ様の失踪も、もしかすればその者たちが……」

 ルイス王子の目付け役でもあるバーナード将軍が言葉を濁す。

「滅多なことをいうものじゃないよ。でもこんなことが起きてしまった以上、被害を広めないようにするのが僕たちの役目だ。なるべく死者を出さないよう鎮圧してくれ」
「御意のままに。それとスラムでアマンダ殿の姿を見掛けたとの噂もありますので、引き続きそちらの捜索も行わせましょう」



 旧ハイドランジア王国の王都――その広場ではある集会が行われていた。扇動者の声に合わせて集会に参加している老若男女からシュプレヒコールが起こる。その手には武器を持っているものまで居るほどだ。

「いまこのハイドランジアの民が苦しい思いをしているのは、先の戦いでこの地を犯したアイリス王国のせいなのです! 先代、先々代とこの国の王は悲劇に見舞われてしまいました! 私たちの生活はどんどん苦しくなるばかりです! 私たちに救いの手を差し伸べてくれていたはずの聖女アガーテは今や民の前に姿を見せず、アイリス王国で悠々自適の贅沢三昧に暮らしているのです! 民たちよ、このような横暴を赦してはいけない!」

 魔導士風の装束に身を包んだ女はハイドランジアの民を扇動していた。この国の民たちが聖女と崇めていた女性を悪に仕立て上げ、その怒りの矛先をアイリス王国へと向けさせているのだ。

(自分たちでアガーテ様を隠しておいてよく言う)

 フードで頭部を隠しながらアマンダは建物の陰に身を潜めた。これでも現在は追われている身だ。主君であるアガーテに助けられる形で一人だけ逃げおおせてしまったのだ。
 本来ならすぐにでも反乱軍の拠点へと攫われた主君の奪還に向かいたいところであった。しかし大した兵力もない今の状況がそれをさせてくれることは無かった。

(あの手癖の悪い子供にお使いを頼んだはいいけど、本当に大丈夫かしら? ルイス王子まで無事に届けばいいのだけど……)

 アマンダは一人の子供にルイス王子宛ての手紙を預けていた。その子供はスラム街ではちょっとした有名人で、たまにアガーテの姿見たさに神殿に忍び込んだりしてくる子供で、それなりに面識もある。

 再び物陰から集会の中心地を覗き見る。先ほどの扇動者である女魔導士は、引き続き刺激の強い言葉で民たちに洗脳まがいの知識を植え付けていた。怒りのボルテージがどんどん上がっているのが目に見える。

(あの女……先日の式典でアントン王子の近くに居た魔導士に似てる。許さない、絶対に――)

「私の手で必ず息の根を止めてやる」

 小さく呟くとアマンダは路地裏を通り抜け暫く進んだ先で通りに出る。そして一人静かに立っているフード姿の男に近付く。唯一とも言っても良い味方である男はアマンダが背後に来たことに気が付いたようだが、二人は視線を交えることなく話を始める。

「そっちの首尾はどうだ」
「ダメだ。奴らが隠しているのは間違いなさそうだが、監禁場所がわからん」

 フード姿の男――ゲールノートがこの街に居ついたのは先の戦争が終わってからだ。大陸でも東のほうの血が色濃く出ている容姿は目立つところがあるのだが、この街には大陸各地から猛者たちが集まる闘技場があるのでその外見が浮くことは無かった。
 基本的には闘技場の覇者として王座を護っているのだが、アマンダがいつも通りアガーテの護衛をしているところにフラフラと現れては奉仕活動の手伝いなどをして帰っていく。それがここ一年程のゲールノートの様子である。
 だがその闘技場は現在、休業状態だ。扇動者たちが街を牛耳り、わざと娯楽施設の類を閉鎖させているのだ。

「わかった。こちらはもう少し目立つように行動して注意を引こう。貴方は引き続き捜索を頼む」
「それは構わんが、女の身であまり無理をするな」

 剣の達人であるゲールノートはアマンダの憔悴などすぐに見抜いていた。聞いてもらえるなどとは思ってはいないようだが、注意をしながら後ろ手にアマンダに巾着袋を渡す。袋の中には傷薬や携帯食料が入っている。

「アガーテ様をお守りすることこそ私の存在理由だ。たとえこの命が燃え尽きようとも、私はこの使命を全うしなくてはならない」
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