翠緑の勇者は氷の魔女とお近づきになりたい

大鳳ヒナ子

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第三部

第22話 望郷

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 翌朝、親父は一緒に来た使者たちとともにリリエンソール公爵領へと帰っていった。それを見送ると俺とミシェルは城内を歩く。

「…………」
「ミシェル?」

 少し浮かない表情のまま、ミシェルは黙り込んでいた。理由は先ほどの使者たちから聞かされた聖王国の現状だ。

「サフィルス様のお話によると、お父様はグレアム様が復帰しない限り聖王国の貴族としてあり続けるつもりはないといいます。ではフェイス様は? アントン様とその取り巻きが仕切っている状況で、フェイス様の立場はどうなりますの?」

 モンタギュー殿が公爵家が聖王国から独立する理由として挙げたのが、アントン殿下には王としての素養が欠けているため、代理にせよ勤まらずに周囲の人間の傀儡となり国がさらに荒れる懸念があるからだ。
 そこでフェイス様を聖王代理に立てたかったようだが、俺が罪を被せられたことと、女性の聖王は前例が無いとかで難しいらしい。
 独立騒ぎの原因は他にもあるらしいが、それでもモンタギュー殿を怒らせるような何かをしたのだろう。

「メレディスやロビン、近衛のみんなが付いているにしても心配だな」
「オニキス様は臥せっているグレアム様のそばに護衛として控えているのでしょう? でしたら私はフェイス様の元に帰るべきなのでは? そう思ってしまうのです」

 そもそもミシェルを巻き込んでしまったのは俺だ。自虐的になるとまた叱られてしまうので言葉には出さないが、これに関しては全て俺の責任だろう。
 守るべき主君を置いて他国でのうのうと生きるつもりはない。聖王国の内乱が激しくなったというのであれば、フェイス様の身にも危険が及ぶ可能性だってある。

「俺も付いていく。元はと言えば、俺が原因でこんなことになったんだ」

 聖王国へ戻ることを伝えるために、俺たちはメテオライトに面会を申し込む。すると使用人を通して昼食に誘われた。時間になり呼びに来た使用人に案内されるがままに部屋に入る。
 席に着き暫くは当たり障りのない会話をしながら食事をし、頃合いを見計らって帰還したい旨を伝える。返事は思ったよりも軽いものだった。

「ああ、やっぱり?」

 そう言うと思った――とでも言いたげにメテオライトは従者に何かを言いつけると何処かへと走らせる。何かと聞けば旅の準備だと返してきた。次いで書類を準備してもらうとメテオライトは何かを書き出している。箇条書きされているそれは何かの目録のようだ。

「本音を言えば僕も着いて行きたいところだけど、こっちにもまだやるべき儀式が残っているからね。合流できるのはもう少し先かな」

 書き終わった目録が差し出される。目を通してみるとワープの杖や万能薬といったアイテム類の他に、食料などの物資が記載された一覧だ。輸送隊で見掛ける在庫表にも近い。

「これは?」
「さすがに手ぶらで返すわけにもいかないからね。僕からのプレゼントさ。聖王国のほうにもそろそろ落ち着いて貰わないと、こっちとしても困るから貸し借りとかは気にしないでくれ」

 正直言って、この申し出は有難かった。防具はベルトラムや親父経由で帰ってきたし、ロビンたちが傷薬も新品に代えておいてくれてるといっても、ここから聖王国へ帰るには不安が残る装備だ。特に食料は戦火が広がりつつある現在、皆が貯めこむから流通が減るし金額が上がるために調達が難しくなる。

「漆黒の神器はあと二つ生まれるはずだから、魔剣が出来たら届けるよ」
「魔剣?」
「ほら。邪悪の樹で見てない? 菫青の勇者が持っていた剣の片割れ。槍のほうが良いならそっちに調整するけど……」

 どっちにしても遠距離攻撃には対応できるよ――そう付け足しながらメテオライトは性格の悪そうな笑みを浮かべた。まだ俺を自国にひき込みたいとか思っているのだろうか。槍というのは、あの黒騎士が持っていた不気味な雰囲気の槍のことだろう。

「剣で頼む。剣が良い」
「テオ。そういうのは性格が悪いです」

 具体的なソースは無いが、それは破滅と絶望にまっしぐらな予感がした。こういうのは即座に断るに限る。ミシェルに叱られ、言い出した本人も冗談だと謝罪すると食後のお茶に口を付けた。

 メテオライトが手配してくれていた物資が集まり、準備が整ったのはそれから三日後のことだ。それをゼノンに積み込む。さすがに二人分の荷物となると逃げてきた時よりも多いので、俺もミシェルも騎乗するというのは難しいだろう。荷馬の真似事も難なくこなすゼノンの頭部を撫でた。

「お前も親父にひっついて一緒に帰ってもよかったのに、律儀な奴だな」

 俺の言葉に答えるようにゼノンがブルルと喉を鳴らす。俺が生まれるよりも前から生きているコイツからすれば、まだまだ子供に見えるのだろうか。一緒に居てやるよと言っているかのようだ。

「まずは国境近くの街を目指しますわよ」
「ああ。そこで情報収集してから国境を超える」

 手綱を引きゼノンを牽引する形で移動を開始する。戦時中の緊張状態の下にある場所ではワープの杖を気軽に使えないのが難点だが、抜け道となる場所は教えて貰っている。あとは到着した時の状況次第だ。



「実を言うとね、僕自身、エリアスが無事だったのを確認してホッとしてるんだ」

 シスル城から去っていったエリアスたちを見送った後、メテオライトは背後に控えていたオブシディアンに話しかける。

「何でかって? それはね、アイオライト卿の登場イコール僕の死が待っているからかな」

 かつて酒の席でオニキスから聞いた前世の話。きっとまたそれに関係する知識なのだろうと耳を傾けていたオブシディアンだが、ありえたかもしれない未来に言葉を失う。やっと帰ってきてくれたこの子がまたしても奪われるような状況など想像したくもなかった。

「叔父上には話していなかったけど僕たちね、砂漠の向こうで、それこそ死ぬかもしれないような大冒険をしてきたんだ。そしてそれを乗り越えてやっと一つの死亡フラグが消えて、絶望も孤独も越えられそう……かな。どうだろう、まだ判んないや」

 それでもどこか寂しそうに笑うメテオライトに掛けられる言葉をオブシディアンは見つけられない。だから代わりに静かに頭を撫でた。子供のころのように甘えてくれればとも思うが、立場や年齢的にも難しいのだろう。
 しかしこの日は珍しく、子供のころのようにメテオライトはオブシディアンに甘えた。余程疲れていたのだろう。その表情は柔らかくなっている。

「さて、と……モンタギュー殿がくれた情報的にも、僕もそう遠くないうちに聖王国へ顔を出さないとだからね。残りの儀式も二・三日中に開始かな。遅刻だけは避けたいしね」
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