悪役令嬢はどこにいった?

みみみ

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悪役令嬢はどこいった?

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 祝日の街の人混みを、カフェでアイスコーヒーを飲みつつ、モヤモヤとした気持ちで眺めていた。腹が立つのを抑えながらねっ
 それというのも幼馴染の真斗に電話で呼び出され、(かれこれ…えーと、38分経過)待たされていたから。それと、今朝起きたら、本当に普通に思いだしてしまったある事のせいねっ
「わるい、待たせたな」
 黒髪、黒目の、恐ろしく端正な顔をした幼馴染が前の椅子に腰を落とす。

「金髪、碧眼どこいったよ?」
 
通常で無表情な彼の瞳が僅かに見開かれる。

「何だ、やっと思いだしたのか。お前のプラチナブロンド、紫眼もな。まぁこの世界のこの国に転生して色が違うだけ、ってだけでも奇跡だからな、お互い」
 
 言いながら真斗はテーブルに何かを置く。ゲーム?

「何よ、それ」
「見てみろよ。」
 
 僅かに口の端をあげ、私に手渡してくる。受け取り、パッケージを見て私は驚愕した。

「エッ、これアニメだけど…見覚えのある顔にしか見えないんだけど!」
「俺ら、ここから転生したんだよ。」
「はぁ?私貴方に浮気されたあげく、覚えのない罪状を突きつけられて、転移の魔法陣で国外追放って…あら?」
「浮気はしてないよ。国外だろ?ここ」
 
 無表情で告げる真斗に、またまた驚愕だわ…。いや、世界追放になっちゃってるよね?しかも転生だよね?私産まれた時からやり直したよね?物心ついた頃からの記憶、朧げながらあるからね。真斗いつでも私の隣にいたわよね?前世の記憶と混ざりあってて絶賛混乱中よ?世界観違いすぎて大混乱よ?ツッコミどころ満載だけれども…とりあえず…

「いや、浮気したよね?婚約破棄したよね?」

「簡単に説明するが、このゲームは乙女ゲーム。あの女は、いま俺達がいるこの世界から転移して来たヒロイン。俺攻略対象、お前、瑠璃は悪役令嬢。厄介な事に、あの女が転移して来てから時が経つにつれ、ストーリーの強制力が働いたのか、徐々に行動の自由が効かなくなった。ただ夜中、おそらくあの女が深く眠りについていた数時間だけは自由に動けた。婚約破棄はあの女をはめる為に必要な過程だったに過ぎないが、腕に絡みつくあの女を振り払えなかったのは気持ち悪い事この上なかった。」
 
 真斗は苦々し気に顔を歪めた。無表情どこに行った?あー、どうでもよかった。私は引き続き絶賛混乱中ね。はめるって何⁈ちなみに、現在18歳の私には遠すぎて、公爵令嬢だった記憶の淑女は行方不明中です。
 そんな私を放置してホットコーヒーを店員さんに注文する真斗。

「…で、何がどうなって、国外追放になった私と、あ・な・た・がここに転生してるの?」
 
 混乱しすぎて挙動不審な私に、ニヤリと真斗は言う。

「俺がお前を離す訳ないだろ。夜中の多少行動に自由がある時に、同じく攻略対象で、自分の行動に違和感を感じていた筆頭魔術師長のアルに、俺とお前の魂を結びつける禁呪を施させた。更にお互いに何か起こった時に世界を飛ぶ陣もな。どこまで世界の強制力が働いているかわからなかったが、あの女は元の世界では何も出来ない普通の女だったと言っていたからだな」

「……。」
 
 きっとあれね…。殿下に呼び出されて、殿下の私室でお茶を頂いていたはずが、何故か意識を失っていて、目が覚めたら殿下が心配して、筆頭魔術師長を治療魔法を施させるために呼んでいた。自分の失態に気を取られていて思いもしなかったけど、殿下、お茶に盛ったわね?禁呪って、酷くありません?

「殿下、許可とりましょうね?」

「うーん、無理?俺の感じている脅威の説明がつかなかったからな。この世界に来て初めて、乙女ゲームと言う物、そこから派生した小説を読んでおおよその事がわかったぐらいだ。まさか転生して赤子になるとはと絶望したが、すぐにお前が側にいる事がわかったから、その後は全く違う世界観だ、保護者ありきでお前を眺めながら過ごせる事がありがたかったね」
「無表情で脅威とか乙女ゲームとか言われましても…ってか、読んだんだ⁈私を眺めてたって…」
「5歳で婚約が決まってからずっと、俺の隣にはお前がいた。お前は政略結婚と思っていたかもしれないが、俺がお前を選んだ。」
「えっスルー?…はい?殿下が選んだ?え?どう言う」
「まぁ、その話しは今はいい。俺達がいた世界がどうなったかは分からないが、公爵令嬢だけでなく、王太子も消え、更に俺の残したトラップも発動しただろうから、クソ女の目指した逆ハーエンドとはお別れ。…首も胴体とお別れしてるだろうけど」
「おい、こらっ!私の疑問をスルーして、どんどん情報をぶち込むんじゃありません!頭追いつかないわっ!そして怖いわっ!」

 口の端上げて、コーヒーを飲むと私の眼を見つめる。悪い顔になっているわよ殿下、いや、真斗だな。もうどっちでもいいわね。
その瞳は、殿下と出会った頃を思い出させた。幼いながら既に王太子としての風格、見せる姿を心得ていたあなたは、常に優し気に微笑み、でもまるで全てを見透かしている様な瞳で私の眼をみた。私は戸惑ってしまったし、何だか悲しかったのを覚えてる。そこに殿下が何を見たのかは分からない。ただ、そっと、私の手を握り王妃の庭園を案内してくれた。

「瑠璃、行くぞ」

 コーヒーを飲み干し立ち上がると、まるで何も無かったかの様に、いつも通りの無表情で私に手を差し出す。

「まだ全然わかんない事ばっかりなんだけど…」
「焦らなくても俺達にはいくらでも時間があるさ。」
「それは…そうだけど…」
「ほら、早く行かないと、お前の行きたがってた柴犬のイベント今日までだぞ」
「マジか⁈ってか何で私が行きたがってたって知ってんのよ!」

言いながら慌ててお会計に行ったら既に真斗が済ませていた。いつの間に⁈

「自分で言ってただろうが。俺がお前の言動で忘れる事は何もないわ」
「怖っ!それ重過ぎだからっ」
「今更だろうが。」
「真斗!」
「何だよ」

「ありがとう!大好きだよ!」
「フッ、知ってるよ」





 










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