激重最強の精霊聖騎士は悪役令息Switchくんを逃さない

鈴屋

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声がない日

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無理して声を出していたからか、声が出なくなった。
口を開いても、パクパクと魚のようになるだけでヒューヒュー空気が抜けた音がする。
喉になにかが詰まっているような違和感がある。

家の専属の医者に見てもらっても、安静にする事しか治す方法はなかった。

家庭教師に怒られながら、普通の授業を受けた。
俺はDomとして遅れているから、幼少期に叩き込まないといけないみたいだ。
体調管理を疎かにした俺のせいだと言われて、その通りだと反省した。

自分の体調は誰も気にしてはくれない、俺が自分で何でも出来ないといけないと言われている。

焦った結果、声が出なくなったんだ…俺の弱さが招いた結果だ。

いつ治るのかな、ずっとこのままじゃないよな。
この世界に喉に効く薬はないのか?Domとして喉は大切なのに。

首を指先で触れても、腫れてもいなくて少しだけ痛いだけだ。

庭で遊ぶ気にもなれなくて、勉強が終わり本を読んで大人しく過ごしていた。
たまに首に触れて、気持ちがだんだん沈む。

もし声が一生出なかったら、俺はどうなるんだろう。
今以上にいらない存在だって思われるだけなのかな。

それとも俺が想像出来ないほどに酷い目に遭うのかな。

部屋の窓を覗き込むと、街の様子が見えてくる。
今日はなにかのお祭りなのか、賑やかな声が聞こえてくる。
音楽に合わせて、踊り子達がダンスしている。

俺も部屋から音楽に合わせて身体を揺らす。

前世の頃に見たお祭りとは違うけど、これはこれで楽しそうだ。
離れていても、お祭りに参加している気分になる。

部屋のドアが軽くノックされて返事をすると開いた。

俺の部屋に訪れるのは家庭教師かレインだけだ。
部屋に入ってきたのはレインで、喉にいい薬を運んでくれた。

お礼が言えなくて、深々とお辞儀して感謝を伝えた。

「ちゃんと大人しくしていましたか?」

「……」

返事が出来ないから頭を何度も振って頷いた。
何もする事がないからボーッとしていただけだ。

粉薬を水に溶かして、少し苦い薬を飲んだ。
直接よくなる薬ではないが、飲まないよりはマシな程度だった。

前世で言うところののど飴のようなものか。

また外から音楽が聞こえて視線を横に向けた。
レインは傍にいて、何も話さず俺を見ていた。

薬を飲み終わり、お礼の言葉が口に出来ないから頭を下げた。
用事が終わったからかコップが乗ったトレイを持ってドアに向かった。

会話も出来ない俺と居ても仕方ないと思われたのかもしれない。
俺はまともに話してくれるのがレインだけだからもっと居てほしいけど、レインは別の仕事もあるから引き止めるのは悪い。

来てくれるだけで嬉しいから、それで満足しないとな。

ドアの前で足を止めて、どうしたのかと首を傾げた。

俺の方を振り返り、一言だけ「街に出かけますか?」と聞いてきた。
まさかの言葉に慌ててレインの方に駆け寄る。

目を輝かせて首がもげてしまいそうなほど頷いた。

本当に外に出れる?庭じゃなくて、ちゃんとした街に…

レインは先に食器を片付けに行き、俺は外に出かける準備をする事になった。
準備といっても、寝間着から普通の服に着替えるだけだ。

どうしよう、髪とか変じゃないかなと手で直してみた。
子供の俺を気にする人はいないが、外出デビューはちゃんとしたい。

服はあまりないから、ラフなシャツとズボンに着替える。

そわそわして、部屋をウロウロしていたらレインが部屋にやってきた。

「少しの間なら外出許可をいただいたので、気分転換くらいにはなると思います」

俺が喋れなくて落ち込んでいたから、気を遣ってくれたんだ。
「ありがとう」と伝えるにはジェスチャーでは限界がある。

筆談するしかないと、ノートを破ってペンを走らせた。
俺が書いているのを後ろから見られているから、紙を渡す前に内容がバレている。

レインは表情を変えずに「お気になさらずに」と言った。

迷子にならないように手を握られて屋敷を出た。
まさか家族より先にレインと手を握るとは思わなかった。
いつもクールだけど、手は温かくて安心する。

屋敷を離れていたのは赤ん坊の頃で、それは出産したからだ。
自分の目で見て歩くのは初めてで鼓動が速くなる。

ゆっくりと息を吸って吐いてを繰り返して堪能する。

「今日はこの国の誕生祭なんです、だから赤い薔薇が美しい」

レインの言葉を聞いて、上を見ると真っ赤な薔薇の花びらが舞っている。
腕を伸ばすと、花びらを一枚手に取る事が出来た。
普通の薔薇かと思って太陽にかざしてみたら、虹色にキラキラと透けている。

部屋の中からだと遠かったけど、近くで見ると迫力が違う。

俺はベンチで座って、レインが喉に優しい飲み物を買ってくると離れた。
通り過ぎていく人達を眺めながら、レインの帰りを待つ。

さすがにかき氷とかたこ焼きとかないよな。
それに今は喉がダメだから好きなものを食べられない。

だんだん騒がしくなり、人が多くなってきた。
俺の前に大勢の人が立って、人の壁で何も見えなくなる。
首を動かしても何も見えない、ちょっと前に出て人の隙間を探す。

人と人の間に小さな隙間が見えて、眺めた。

「あれが噂のフローランド家のルイ様?」

「まだ幼いのにDomとして優秀だと聞くわ」

話し声があちこちから聞こえるが、俺は人だかりの中心を見るので必死だった。
大勢の大人に囲まれた小さなその姿に目を見開いた。
大人よりも堂々としていて、赤い髪が揺れている。

あの子が本物のDomと呼ばれる人なのかもしれない。

父は強い人だと思うが、父とはまた別の強さを感じた。
上手く言えないが、父よりもこの人のようになりたいな。

もうすぐ行ってしまうな、と名残惜しく目で追いかける。
その時、ほんの一瞬だけこちらを見た気がした。

前に出ているわけではなく、後ろから眺めていたから俺を見たわけではない。
そんな事は分かっている、分かっているけど…

彼らがいなくなり、人混みもいなくなり目の前がよく見えるようになった。

ベンチ…そうだ、ベンチに戻らないといけない。

フラフラと歩いている間も、心臓の音がうるさい。
目が合ったように見えただけで、どうしてこんなに動揺するんだ?

DomとDomは惹かれ合わない筈だ、絶対に…

確かに俺は他のDomのように魔力が使えない。
だとしても、Domの先生とCommandの授業をして何度もCommandを言われても反応はなかった。
Playは成立していなかったからSubではないはずだ。

じゃあこれはなんだ?…なにが起こっているんだ?

ボーッとしていたら、何処からか悲鳴が聞こえた。
この前家の中で聞いた悲鳴と重ねてびっくりした。
周りを見渡すと、お婆さんが倒れていて慌てて駆け寄る。

駆け寄ったのは俺だけでお婆さんを支える。
子供の力なんて助けにはならないとは思うが、俺に出来る手助けをしたい。

「あぁ…ももちゃんが…」

お婆さんが見ている方向を見ると、首輪を付けた犬が走り去っているのが見えた。
犬に引っ張られて転んで逃げたって事だろう。

お婆さんの代わりに犬を捕まえようと走り出した。

犬の尻尾を追いかけるが、全く差が縮まらない。
腕を伸ばすが捕まらない。
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