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序章

体質2

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 「またやっちゃった」

 わざわざ声に出してみる。
 何しろ私は、上京してから幾度となく同じパターンで男にフラれているのだ。
 その数、今回を入れて五回。
 ほぼ年一回のペースである。

 「絵美。あんた、モテることは確かなのよ」

 親友の麻由子は常々そう言う。
 絵美、というのは私のことだ。
 二十九歳で、訳あって無職である。

 そして麻由子は、いつも「でもねぇ」と付け加える。
 拾ってくる男が微妙に残念なのだと。

 「あんた、それなりにイイ女なのにね」

 麻由子曰く、私という女は──。
 特別美人ではないが愛嬌はある。
 常識は一応あり、それなりに情もある。
 自分勝手な行動もしない。
 ズボラで料理の腕がイマイチ、植物をすぐ枯らす等の残念な面もあるが、これくらいは許される範囲内。

 だそうだ。

 別に腹は立たない。
 言いたいことを言うのはお互い様だ。
 麻由子とは上京して以来の付き合いだが、さっぱりした性格なので付き合いやすい。
 麻由子は首をひねる。あんたなら、幸せな結婚も夢ではないのにと。

 そう言われましても。
 こちらには、のっぴきならない事情があるのだ。


 あるカップルが、めでたく結婚したとしよう。
 幸せいっぱいの彼らが次に思い描くこと。
 それは多くの場合──。

 ベビーの誕生、である。

 「結婚したら早く赤ちゃんが欲しいなあ」

 「絵美は、男の子と女の子どっちがいい?」

 付き合ってきた男たちは皆、こんなことを言った。
 愛する男性にこんなことを言われたら、大抵の女子は胸をときめかすことだろう。

 ──ああ。私のこと、そんなに真剣に考えてくれているのね。
 ──なんて幸せなの! 私も、あなたの赤ちゃんが欲しいわ。

 などと、キラキラした目で答えるのだろう。
 しかし!
 私が、その辺の女のようにホイホイ喜ぶと思ったら大間違いだ。

 私の場合。
 そんなことを言われたら、胸が悪くなり全身に虫唾が走る。



 つまり。
 私は、それくらい赤ちゃんが怖いのだ……!

 弱々しい。
 とにかく、何もかもが心許こころもとない。
 壊しそう。潰しそう。
 これが本当に同じ人間だろうか。
 そう思うと、じわじわと恐怖が沸いてくるのだ。
 言葉も通じない。すぐに泣く。
 何故、そんな存在をわざわざ傍に置かなけれなならないのか。

 ところが、だ。

 私が付き合ってきた男たちは揃いも揃って赤ちゃん大好きで、将来はたくさんの子供に囲まれて暮らす夢を持っていた。
 そんな夢をほのぼのとした笑顔で語られたら発狂してしまう。

 「やめて! 子供なんて冗談じゃないわよ!」

 「要らない! 私は絶対にイヤだから!」

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