【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

文字の大きさ
11 / 130
第一章 九月の嵐

契約2

しおりを挟む
 それ以前に、赤ちゃんが喋ること自体おかしい。
 ムキになって、つい相手をしてしまったけれど。

 「ねえ。あんた、ホントに大丈夫?」

 ルナは仰向あおむけのまま短い腕を持ち上げ、自分の頭をちょいちょいと触った。
 柔らかそうな細い髪が生えている。

 「大丈夫じゃない」

 必死で訴えようとするも、私が発した声はかすれていた。
 あり得ない。
 もしかして、この生物は赤ちゃんじゃなくて宇宙人なのか。
 または──。

 ドッキリとかか?

 ルナは、精巧にできた人形なんだ。
 誰かが遠隔で喋っているに違いない。
 反射的に部屋の四隅へ目を走らせた。
 カメラを仕込むとしたら何処だろう。
 いやだ、恥ずかしい、こんな汚い部屋。

 「何をキョロキョロしてるの?」

 そう言って、ルナはもぞもぞと身体をよじる。
 この一連の流れで、私はルナが人形ではあり得ないことを確信した。
 ドッキリではない。私、一般人。
 じゃあ、やっぱりルナは……。

 「さっきも言ったけど、お試し期間は三ヶ月。
 あたしを満足させるお世話ができたら合格よ」

 ルナは短い足を振り上げる。

 「ま、このままだと不合格だね」

 ルナは、今度は小さな指で鼻を堀り始めた。

 「不合格だと、あたし帰っちゃうから」

 とっとと、お帰りください!
 どこへ帰るか知らないけれど。

 「ねえ。今の話って、この紙と関係あるの?」



 【この子を預かってください。
 三ヶ月後、あなたに審判が下されます。】

 例の紙片を掲げてみせると、ルナの黒目がちな瞳が揺れる。

 「う、うん……」

 ルナは急にそわそわと頭を動かすと、くしゅっとくしゃみをした。
 本当に分かってるのか。

 「差出人も住所も書いてないけど、どこに連絡すりゃいいのよ」

 「えっ?」

 例の紙片をもう一度眺めてみる。裏返しても連絡先は記されていない。
 私は務めて冷静に宣言した。

 「あのね。私はベビー・アレルギーなの」

 「何なのよぅ。アレルギーって」

 ルナが不服そうに口をすぼめる。

 「赤ちゃんが超苦手ってことよ」

 「げ。あんた、変わってんね」

 ルナは、べぇっと舌を出した。
 分かり易く説明してやったのに、何という不遜な態度だろう。

 「そういうワケだから。
 お試しも何もしませんので、お帰りください!」

 ビシィッ! と、指先を玄関に向ける。

 「あたし、歩けないんだけど」

 ルナは、ぴこぴこと交互に両足を動かし、至極当然のことを言った。
 ため息が出る。

 「送ってあげるから。家、どの辺なの?」

 厄介なことだが、ルナを家へ帰すのに協力してくれる人物に当てがないわけでもない。
 ルナは、再び短い腕を上げて頭を抱えた。

 「分かんなーい」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。 世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。 しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。 入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。 彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。 香織は、八重の親友。 そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。 その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。 ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。 偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。 「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。 やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。 その中で、恋もまた静かに進んでいく。 「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。 それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。 一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。 現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。 本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...