【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

文字の大きさ
22 / 130
第二章 十月の修羅場

誘拐事件1

しおりを挟む
 「これは……?」

 「煮干しです」

 「そんなことは分かってます。何故こんな物を私に」

 「宮原さん。あなたはどうも気が短いようだ。
 ルナさんにも悪影響です。カルシウムを摂られた方が良い」

 「……」

 私の後ろで、麻由子が肩を揺らして忍び笑っている。
 宮原というのは私の姓である。
 大人が三人とベビー。これだけ集まると、十畳のワンルームは窮屈だ。

 十月に入った。
 ルナを預かって約一週間になる。

 佐山はその日以来、毎日ここへ来て私に育児のアドバイスをしてくる。
 頼んでもいないのに。

 自ら育児本を買い込み、睡眠習慣がどうとかミルクの量がどうとか、日に一度はここへ来て何かを言って行く。
 これ全て、ピーコのためである。

 ピーコは、佐山の大事な大事なお友達。
 ルナの泣き声(と私の声)は繊細なピーコのストレスになるとかで、佐山は私の育児環境を整えようと必死である。

 ご苦労なことだ。

 憂鬱な気分の私をよそに、ルナは栄養補給の真っ最中。
 麻由子が世話をしてくれている。
 ルナは麻由子には好意的だ。
 そして、どういうわけか佐山のことも気に入っている。そのため今日はご機嫌だ。

 正直、麻由子がいてくれると助かる。
 ルナは、空腹その他の不快感が生じると普通の赤ちゃんとに戻ってしまう。
 こうなるともう手が付けられず、こちらで予想しながら不快感を取り除いてやるしかない。

 育児とはそんなものと言ってしまえばそれまでだが、アレルギー持ちの私にとっては最も過酷な時間なのだ。
 麻由子がいる間は、少しは休むことができる。
 
 色々あったが、育児に必要な物だけは揃いつつある。
 麻由子が子供たちのお下がりをくれたり、二十七日にはショッピングセンターへ買い出しにも行った。疲れたけど。
 物が揃ったのは良いが、未だ整頓されないまま部屋は荒れている。

 

 三日前、初めて佐山と対面した麻由子が驚きとともに私に耳打ちするには、

 「なんか良い感じじゃない?」

 とのことである。
 どこがどう良い感じなのか理解に苦しむ。
 そんな私にルナは言った。

 「内から滲み出る人柄ってもんを、絵美は分からないの? お子様ね」

 オムツを替えさせられながらこんなことを言われる理由も、佐山から何が滲み出ているのかも全く分からない。

 ところで、ルナは私のことを名前で呼ぶ。
 目上の者を呼び捨てにしないでほしい。ママって呼ばれるのも困るけど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい

葉方萌生
ライト文芸
淡路島で暮らす28歳の城島朝香は、友人からの情報で元恋人で俳優の天ヶ瀬翔が島に戻ってきたことを知る。 絶妙にすれ違いながら、再び近づいていく二人だったが、翔はとある秘密を抱えていた。 過去の後悔を拭いたい。 誰しもが抱える悩みにそっと寄り添える恋愛ファンタジーです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
 ☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...