【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

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第二章 十月の修羅場

女子会1

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 「宮原さん。
 聞いているのですか?」

 「はぁ」

 ぼんやりと、目の前にいる長身の男を見上げる。

 「また夜更かしをしたでしょう」

 「さあ」

 「あなたが寝坊をすると、ルナさんの生活リズムが狂うと言ったじゃないですか」

 「そうでしたっけ」

 「まったく、あなたという人は!」

 ボサボサと顔を覆う前髪の間から覗く目が存外優しげであるということを、私はつい最近知った。
 佐山は、薄っすらと髭が生える顎に手を当てて言う。

 「で。あの煮干しは使っているのですか?
 使ってませんね?」

 「まだ何も言ってないですけど」

 もうすぐ十月が終わる。
 天候はぐずつき気味だ。

 佐山は、相変わらずルナの育児に口を出してくる。
 チクチクと、それはもう姑のように(あくまでイメージだけど、あくまで)。
 
 「あなたが短気を起こして、隣でキーキー騒がれるとたまらないんですよ。
 ピーコのことも考えてください」

 「何でルナには文句を言わないんです?
 不公平だわ」

 「あなたという人は。
 本当に仕様がない人ですね」

 佐山は脱力したように肩を落とすと、私の背後にチラリと目をやった。

 「では、ほどほどに」

 「あふっ」

 ルナが「バイバイ」と言っている。
 無論、私以外の人間に聞こえる筈もないが。
 佐山はルナの声にわずかに頬を緩め、ようやく去っていく。

 外は雨だ。

 「まーっ! 大事にされちゃって」

 「羨ましい!」

 「私たち、お邪魔だったかしらぁ」

 「ねー」

 口々に好きなことを言っているのは冴子さんと麻由子だ。
 ここは私の部屋である。
 佐山が私の背後に見ていたのは、この二人とルナだったのだ。

 ルナは、麻由子の膝の上で目をぱちくりさせている。
 以前に比べ、随分と首が安定してきた。

 ここ最近、冴子さんもちょくちょく私の部屋に遊びに来る。
 ここへ来てちょっとだけルナにちょっかいを出し、後はのんびりインスタントコーヒーを飲んでいく。
 騒音でご迷惑をおかけしているので、コーヒーくらい安いものだ。

 冴子さんは当初のイメージとは違い、実にさっぱりした人だった。
 深く話してみなければ分からないものである。
 
 今日は、佐山が長々と説教をたれている間に約束通り麻由子が現れ、次に気まぐれで冴子さんがやって来た。

 私が二人を引き合わせたのは、つい先日のこと。
 二人は互いのコミュニケーション能力をフルに発揮し、秒で意気投合した。

 そして二人には、今どうしても外せない、熱いネタがある。

 佐山である。
 ついでに私である。



 冴子さんに見られていたのだ。

 十月の修羅場を。
 昌也と私と、途中で乱入した佐山をバッチリと。

 ああ、思い出したくないのに!

 夜が仕事の冴子さんは、昼間は当然在宅している。
 あの茶番の一部始終を見られたと知った時には、自分が積み木になってガラガラと崩れてゆくような心持ちであった。

 そして、佐山の大活躍(?)は当たり前の流れで麻由子にまで広がったのだった。

 二人がやけに佐山に対して熱いのは、これが原因である。

 「あーあ。私も見たかったなぁ」

 「あんたも来れば良かったのにぃ。
 佐山クン、超カッコ良かったんだよ!」

 どこで見ていたのか、冴子さんが語る内容は概ね事実と合致している。
 盛り上がる二人。
 この話題は今日で四度目だ。

 私だって、佐山はしっかりした大人の男だと思う。
 あんな風に生きられたら、と思うけど──。




 「へえ。じゃあ昌也さん、ニュータウンにいるの?」

 話は昌也の件にまで及んだ。
 ローテーブルの上には、麻由子と冴子さんがそれぞれ持ち寄った物が広げてある。

 ルナは、光沢を放つチョコレートの包みに触れた。
 カサっと音がすると、「あ!」と声を上げて身体を仰け反らせる。
 もう一度触れるとまた音がする。
 真剣な面持ちでそれらの行動を繰り返すルナに注意を払いつつ、話は続く。
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