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第二章 十月の修羅場
女子会2
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「顔と稼ぎは良かったもんね、昌也さん」
麻由子はルナを見守りながら、つまんだサラミを口の中へ放り込む。
「あら、ステキ」
冗談なのか本気なのか、冴子さんは楽しげに個包装のチョコレート菓子の袋を破いた。
確かに、昌也が勤めるのは一流と呼ばれる商社である。
高層階とかの値の張る部屋じゃなきゃ住めるかもしれない。
私は話には加わらず、チョコレートを二個まとめて頰張った。
「サイテーよ、あんな男!」
ユイカさんに出会った経緯と、お腹に昌也の子がいたこと。
これらは既に二人の知るところとなっている。
そのため、麻由子は昌也に対して辛辣である。
それでも一応友人の元彼だという思いもあるらしく、後からゴメンと付け加えた。
「いいよ、ホントに最低だもん。
ユイカさんには申し訳ないけど」
ユイカさんのことを思い出したら暗い気持ちになった。
あれから公園には行っていない。
合わす顔がない。
私は、彼女が当然望むべき入籍を阻んだ存在なのだ。
無論、入籍は昌也の決断力に関わることである。
しかし、別れを迎える間際の私の態度は、昌也に二の足を踏ませた遠因じゃないとも言えない。
あの日の公園の、あの雰囲気。
ユイカさんだって勘付いただろう。
こんなことが無かったら、普通に友達になれたのかな。
幸か不幸か、このところ雨模様が続いている。
この秋は関東に台風が直撃することがほとんどなく、その代わりのように最近ずっと天候が安定しない。
今もしとしとと雨音が聞こえている。
昼間だというのに外は暗く、部屋の中まで何だか薄ら寒い。
ちょうどいい言い訳ができた。
出産予定日までもう一ヶ月を切っている。
天気がすっきりする頃には、ベビーは生まれているだろうか。
ユイカさんも忙しくなるだろう。
そうしたら、私のこと忘れてくれるかな?
その方がいい。
「私も、あの元彼は見かけたことある。
確かにいい男だわ」
ビーフジャーキーの包みをいじって物思いに耽っていると、冴子さんが言った。
「絵美は見た目から入るから」
「分かるわ」
麻由子の言葉に、冴子さんが大きく頷く。
え? そんなに分かりやすい?
「二人ともルナみたいなこと言うのね」
なんか納得いかない。
その後、しばし沈黙が訪れた。
目の前で、二人が訝しげに眉をひそめている。
揃えたように同じ表情だ。
「ふぉふ──」
ようやく自分が失態を犯したことに気がついた。
ルナの言葉は私にしか分からない。
ベビーが喋ることなど有り得ないのだ。
気をつけないと、最近感覚が麻痺してきている。
「ベビーにまで言われそうっていう……つまり、反省してるってこと」
我ながら妙な弁明だと思ったが、二人はあっさりと理解を示してくれた。
ルナ語が通じるのが私だけというのは本当に不便だ。
秘密を抱える生活は神経を使う。
「あぅあぅ、あぎゃっ」
ルナが短い腕を振り上げ、「あたしが同じことを指摘したらぶん殴られそうになった」と言い募る。
やはり、ルナ語が分かるのは私だけでいい。
「冗談はさておき、先輩から言わせてもらえばね。
あの手の顔は軽薄なのが多いのよ」
冴子さんは外国人のように大袈裟に手を上げると、フルフルと首を振る。
麻由子が感心したように大きく頷いた。
ルナも神妙な顔でこくりと重そうな頭を揺らす。
確かに説得力がある。さすが客商売だ。
「ま、これから父親になるなら嫌でも分かっていくんじゃない?
自分がいかに小さい男だったのか」
そういうもんだろうか。
父親とか聞くとまだ胸がチクッとする。
入籍、もうできたのかな……。
「その点、佐山さんはしっかりしてるわよね」
麻由子が目を光らせる。
ルナは顔をくしゃくしゃにしているが、どうやら笑っているらしい。
結局、女子の話題は佐山に行き着くのであった。
麻由子はルナを見守りながら、つまんだサラミを口の中へ放り込む。
「あら、ステキ」
冗談なのか本気なのか、冴子さんは楽しげに個包装のチョコレート菓子の袋を破いた。
確かに、昌也が勤めるのは一流と呼ばれる商社である。
高層階とかの値の張る部屋じゃなきゃ住めるかもしれない。
私は話には加わらず、チョコレートを二個まとめて頰張った。
「サイテーよ、あんな男!」
ユイカさんに出会った経緯と、お腹に昌也の子がいたこと。
これらは既に二人の知るところとなっている。
そのため、麻由子は昌也に対して辛辣である。
それでも一応友人の元彼だという思いもあるらしく、後からゴメンと付け加えた。
「いいよ、ホントに最低だもん。
ユイカさんには申し訳ないけど」
ユイカさんのことを思い出したら暗い気持ちになった。
あれから公園には行っていない。
合わす顔がない。
私は、彼女が当然望むべき入籍を阻んだ存在なのだ。
無論、入籍は昌也の決断力に関わることである。
しかし、別れを迎える間際の私の態度は、昌也に二の足を踏ませた遠因じゃないとも言えない。
あの日の公園の、あの雰囲気。
ユイカさんだって勘付いただろう。
こんなことが無かったら、普通に友達になれたのかな。
幸か不幸か、このところ雨模様が続いている。
この秋は関東に台風が直撃することがほとんどなく、その代わりのように最近ずっと天候が安定しない。
今もしとしとと雨音が聞こえている。
昼間だというのに外は暗く、部屋の中まで何だか薄ら寒い。
ちょうどいい言い訳ができた。
出産予定日までもう一ヶ月を切っている。
天気がすっきりする頃には、ベビーは生まれているだろうか。
ユイカさんも忙しくなるだろう。
そうしたら、私のこと忘れてくれるかな?
その方がいい。
「私も、あの元彼は見かけたことある。
確かにいい男だわ」
ビーフジャーキーの包みをいじって物思いに耽っていると、冴子さんが言った。
「絵美は見た目から入るから」
「分かるわ」
麻由子の言葉に、冴子さんが大きく頷く。
え? そんなに分かりやすい?
「二人ともルナみたいなこと言うのね」
なんか納得いかない。
その後、しばし沈黙が訪れた。
目の前で、二人が訝しげに眉をひそめている。
揃えたように同じ表情だ。
「ふぉふ──」
ようやく自分が失態を犯したことに気がついた。
ルナの言葉は私にしか分からない。
ベビーが喋ることなど有り得ないのだ。
気をつけないと、最近感覚が麻痺してきている。
「ベビーにまで言われそうっていう……つまり、反省してるってこと」
我ながら妙な弁明だと思ったが、二人はあっさりと理解を示してくれた。
ルナ語が通じるのが私だけというのは本当に不便だ。
秘密を抱える生活は神経を使う。
「あぅあぅ、あぎゃっ」
ルナが短い腕を振り上げ、「あたしが同じことを指摘したらぶん殴られそうになった」と言い募る。
やはり、ルナ語が分かるのは私だけでいい。
「冗談はさておき、先輩から言わせてもらえばね。
あの手の顔は軽薄なのが多いのよ」
冴子さんは外国人のように大袈裟に手を上げると、フルフルと首を振る。
麻由子が感心したように大きく頷いた。
ルナも神妙な顔でこくりと重そうな頭を揺らす。
確かに説得力がある。さすが客商売だ。
「ま、これから父親になるなら嫌でも分かっていくんじゃない?
自分がいかに小さい男だったのか」
そういうもんだろうか。
父親とか聞くとまだ胸がチクッとする。
入籍、もうできたのかな……。
「その点、佐山さんはしっかりしてるわよね」
麻由子が目を光らせる。
ルナは顔をくしゃくしゃにしているが、どうやら笑っているらしい。
結局、女子の話題は佐山に行き着くのであった。
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