【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

文字の大きさ
47 / 130
第二章 十月の修羅場

女子会3

しおりを挟む
 ──放っておけないのです。


 不覚にもちょっと、ときめいてしまった。
 “放っておけない”というのは、けっこうドキッとくる言葉だ。

 しかし──。
 相手が佐山となると、事情はちょっと変わってくる。

 恐らく、彼の辞書に婉曲という言葉は無い。
 余計なことを考えず、そこにある事実だけに目を向ける。
 いささか情緒に欠けるのが佐山なのである。

 つまり。
 あの言葉は、今後の甘やかな展開を確約するものではない。

 二十九にして、いかにも頼りなさそうな女がベビーを預かること。
 ピーコにストレスを与えること。
 文字通り、そういったネガティブな感情から出た言葉なのだろう。

 別に落胆していない。
 佐山なんて男を、わざわざ分析するまでもないのだ。



 「噂を否定するのも面倒でしょ?
 本当にくっついちゃえば?」

 上の空でいたら、冴子さんが話しかけてきた。
 ウキウキした様子で頬杖をついている。

 「あの噂、まだ生きてるんですか?」

 げんなりして冴子さんに問い返す。

 私と佐山が仲で、子供までいるという噂。
 子供とは勿論ルナのことだ。
 勝手な思い込みで噂を流しているのは大家・挟間道代である。

 「昨日、店に来たの。
 例のあれ、見てたらしいわ」

 冴子さんは、あっけらかんと言う。
 待って。例のあれって!?

 「ちょ!
 あの茶番を見てたってことですか!?」

 思わず冴子さんの肩をつかんで揺する。

 「茶番なんて言わなくてもぉ。
 見てたらしいよ」

 冴子さんは、ガクガク揺れつつもケロリと言った。

 またあの女だよ。
 何でいつもタイミング良く(悪く)……暇か!!

 ローテーブルの上の食べ物を揺り落とす勢いで拳が震えた。
 
 冴子さんによれば、道代はたまに来店するそうだ。
 大体、ご近所さんやアパートの住人を連れているという。

 このアパートは二階建てで合計十室。
 若い独身者が大半だが、道代と同年代とみられる女性も入居している。
 同年代の気安さで親しくしているらしい。
 冴子さんがこのアパートの事情に詳しいのは、こういった人々を接客しているからであった。

 ともかく、昨晩も道代は冴子さんの店に現れた。
 道代は、唾を飛ばしながら次のように語ったという。


 ***

 『ちょっと聞いて!
 この前、すごいもん見たの!
 修羅場よ、修羅場!
 102号室の宮原さん!

 ガラの悪い男がすごい剣幕で乗り込んで来てさ。
 そこへ103号室の佐山さんも出て来て。
 そうそう、噂になってる!
 物好きよねぇ、隣人に手を出すなんて』


 あなたが流した噂です。


 『凄かったんだからぁ、怒号が飛んじゃって。
 人目もはばからずにによくやるわ、最近の若い子は。
 まあそんなに若くないけど』


 余計な一言を、いつも絶対忘れないですね。


 『可哀想に、あの赤ちゃん。
 どっちの子か分かったもんじゃないわ』


 どっちの子でもありませんよ。
 あなたが作った話なの。


 『それが、二人とも全然違うタイプ。
 佐山さんは知ってるでしょ?
 もう一人は、まぁ顔は良いけど軽薄そうな感じよ』


 パッと見で昌也の本質を見抜けるところは年の功ですかね。


 『要するにね。あの、誰でもいいの。
 あんな顔して、男にだらしないのよ』


 ババア、私に恨みでもあんのか。
 

 ***

 こんな感じで、突っ込みどころ満載な話だったらしい。
 一応お客なので、冴子さんは口を出せなかったようだが……。

 同じアパートの女性も同席していたのがマズかった。
 あのオバサンも道代とそう変わらないから、もう誰彼かまわず話を吹聴しているだろう。



 「結局、私が不貞を働いたことになってるんですね……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。 世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。 しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。 入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。 彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。 香織は、八重の親友。 そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。 その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。 ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。 偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。 「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。 やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。 その中で、恋もまた静かに進んでいく。 「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。 それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。 一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。 現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。 本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...