【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

第二章 十月の修羅場

女子会4

　チョコレートやビーフジャーキーの包みが散乱するテーブルに突っ伏した。
　不本意。すっごい不本意。

　「あのババア、ほんと暇ね」

　冴子さんが背中を撫でてくれる。
　
　「でも酷いよ。
　そのオバサン、大家なんでしょ？」

　麻由子の声に応じて顔を上げ、私は力なく頷いた。

　確かに目に余る行為だ。
　入居時から、ロクな人間じゃないだろうなとは思っていたが。
　
　「ムカつくわ、人の親友を尻軽女みたいに。
　間違いは正すべきよ」

　麻由子が拳を握る。

　ありがとう、友よ。
　気持ちだけ頂いておく。

　「もういいよ。
　こういうのって、必死で否定すればするほど真実みたいになっちゃうし」

　重い息を何度吐いても、胸の中は一向にスッキリしない。
　しかし、麻由子と冴子さんは顔を見合わせてニヤリとする。

　「そういうことじゃないのよぉ。
　間違いを正すっていうのは、つまり」

　麻由子は立てた指をチッチと動かしながら私の顔を覗き込んだ。



　「しちゃえばいいのよ。結婚」



　「ちょっ、なに言ってるの！？」

　間違いを正すことイコール結婚て。
　どういう発想！？

　「ぅえーい」

　調子の良い声は、冴子さんではなくルナの赤ちゃん言葉である。

　「おおお落ち着きなさい、ルナ。麻由子も」

　間違いを正すって、訴えるとかそういうことじゃないの？
　予想外の方向へ進む話に、首から上がカッと熱を帯びる。

　「あんた以外みんな落ち着いてるよぉ。
　ねえ、ルナちゃん？」

　麻由子がルナを抱え上げる。
　麻由子に覗き込まれると、ルナは頷くように頭を揺らして目をぱちくりさせた。

　「いいわねぇ、若いって。
　絵美ちゃん顔真っ赤よ」

　冴子さんも首を傾げて私の視界に入ってくる。

　「び、びっくりして酸欠状態なんです！
　大体、こういうのは双方の合意がっ」

　「佐山クンは鈍い。
　けど絵美ちゃんが押せば落ちるわ！」

　私にも選ぶ権利はあると思うが！？

　肝心の私の意思が抜けているのに、ピストルで狙うように指を突き出してくる冴子さんの表情は得意気である。

　「さらに子供ができれば、誰にも文句は言えないってワケですね！」

　麻由子が声を弾ませた。
　ルナの腕を軽く動かしてバンザイのポーズをさせる。

　「そういうこと！」

　冴子さんと麻由子がケラケラ笑い出す。



　二人とも私で遊びすぎだ！