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第三章 十一月の受難
窮地3
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***
佐山は、まずは部屋に入っているようにと言った。
それから、木田の首根っこを掴んだまま二階へ向かったようだ。
「ごめん、ルナ!」
自分の部屋に入ってから私がしたことは、執拗なまでの戸締まり確認とシャワーと着替えだった。
着ていた服はゴミ箱に押し込む。
「ルナ、お待たせ」
最初にあの作業をしておかないとどうもスッキリせず、ルナのことが後回しになってしまった。
ミルクを作るのは慣れたが、分かっていて長時間泣かせていたと思うと焦りが募る。
「こふっ」
ルナが満足気にゲップして、ようやく人心地がついた。
「絵美ぃっ!
あのヘンタイは!?」
しばらく抱っこしていると、普通のベビーから喋れるベビーに戻ったらしい。
ルナが大きく腕を振り回す。
思い出したのね。
確かにあれは変態だった。
「落ち着いて、ルナ」
短い腕を避けながら事情を話す。
ルナの身体からほぅと力が抜けた。
直接何かされなくても怖かったのだろう。
ルナも所詮はベビー。
大人の私がもっと注意すべきだった。
「あたし、ずっとヤバいって合図してたのにぃ。
大体、絵美はねぇ」
あれは合図だったのか。
言われてみれば、ルナが通りすがりの人間の前で無愛想なのは珍しい。
腹が減ってるんだと思っていた。
「面目ない」
売られた喧嘩は買いがちな私だが、今回ばかりは頭が上がらない。
するべきことも済んで落ち着くと、必然的にあの出来事が思い返された。
腕に寒気が走り、ルナを抱く手に力がこもる。
大丈夫。玄関の鍵は閉めた。
思い直してテレビをつける。きっと、
部屋が静か過ぎるのがいけなかったんだ。でも。
出入り口は、玄関だけとは限らない。
部屋に一つしかない窓を凝視する。
大丈夫、鍵はかかっている。
買い物に出る前、戸締まりしたじゃない。
じゃあ、上は?
弾かれたように白い天井を見上げる。
真上は冴子さんの部屋だ。
でも、やることが無くなったら急に怖くなった。
ドアの向こうに立っているかもしれない。
私がシャワーを浴びたのを知っているかもしれない。
闇に紛れて、窓の向こうに潜んでいるかもしれない。
外から、上から、服を押し込んだゴミ箱から。
至る所からあの不快な男の気配が漂ってくる。
「絵美ぃ?」
気づけば、ルナを抱きしめていた。
きっと考え過ぎだ。
ルナの感触は、私の恐怖を少し和らげた。
そのうち忘れる。不安だけど。
あの男は、佐山が捕まえてくれた。
そうだ。あれから、佐山はどうしただろう。
まさか、用は済んだとばかりに帰ってしまったのだろうか。
隣室へ続く壁を眺める。
それとも。二階で何かあった……?
「ごめん──」
うわごとのように呟いた。
「ごめん、ルナ。
絶対戻るから待ってて!」
ルナを残して、私は一度は固く閉ざした鍵を開けた。
佐山は、まずは部屋に入っているようにと言った。
それから、木田の首根っこを掴んだまま二階へ向かったようだ。
「ごめん、ルナ!」
自分の部屋に入ってから私がしたことは、執拗なまでの戸締まり確認とシャワーと着替えだった。
着ていた服はゴミ箱に押し込む。
「ルナ、お待たせ」
最初にあの作業をしておかないとどうもスッキリせず、ルナのことが後回しになってしまった。
ミルクを作るのは慣れたが、分かっていて長時間泣かせていたと思うと焦りが募る。
「こふっ」
ルナが満足気にゲップして、ようやく人心地がついた。
「絵美ぃっ!
あのヘンタイは!?」
しばらく抱っこしていると、普通のベビーから喋れるベビーに戻ったらしい。
ルナが大きく腕を振り回す。
思い出したのね。
確かにあれは変態だった。
「落ち着いて、ルナ」
短い腕を避けながら事情を話す。
ルナの身体からほぅと力が抜けた。
直接何かされなくても怖かったのだろう。
ルナも所詮はベビー。
大人の私がもっと注意すべきだった。
「あたし、ずっとヤバいって合図してたのにぃ。
大体、絵美はねぇ」
あれは合図だったのか。
言われてみれば、ルナが通りすがりの人間の前で無愛想なのは珍しい。
腹が減ってるんだと思っていた。
「面目ない」
売られた喧嘩は買いがちな私だが、今回ばかりは頭が上がらない。
するべきことも済んで落ち着くと、必然的にあの出来事が思い返された。
腕に寒気が走り、ルナを抱く手に力がこもる。
大丈夫。玄関の鍵は閉めた。
思い直してテレビをつける。きっと、
部屋が静か過ぎるのがいけなかったんだ。でも。
出入り口は、玄関だけとは限らない。
部屋に一つしかない窓を凝視する。
大丈夫、鍵はかかっている。
買い物に出る前、戸締まりしたじゃない。
じゃあ、上は?
弾かれたように白い天井を見上げる。
真上は冴子さんの部屋だ。
でも、やることが無くなったら急に怖くなった。
ドアの向こうに立っているかもしれない。
私がシャワーを浴びたのを知っているかもしれない。
闇に紛れて、窓の向こうに潜んでいるかもしれない。
外から、上から、服を押し込んだゴミ箱から。
至る所からあの不快な男の気配が漂ってくる。
「絵美ぃ?」
気づけば、ルナを抱きしめていた。
きっと考え過ぎだ。
ルナの感触は、私の恐怖を少し和らげた。
そのうち忘れる。不安だけど。
あの男は、佐山が捕まえてくれた。
そうだ。あれから、佐山はどうしただろう。
まさか、用は済んだとばかりに帰ってしまったのだろうか。
隣室へ続く壁を眺める。
それとも。二階で何かあった……?
「ごめん──」
うわごとのように呟いた。
「ごめん、ルナ。
絶対戻るから待ってて!」
ルナを残して、私は一度は固く閉ざした鍵を開けた。
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