【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

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第四章 続・十一月の受難

娑婆の空気1

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 部屋に戻ると麻由子が待っていた。

 麻由子は午前中にここを訪れ、私たちを迎えに出ようとしていた佐山と行き合ったそうだ。
 そこで昨夜からの出来事を知り、仰天したという。

 「少し休みなさい。
 寝てないでしょう?」

 麻由子は、心なしか安堵したような表情のルナを抱いて先に奥へ入っていく。
 そういえば戸締りもしていなかった。
 急に連れて行かれたし。

 そして。

 「少し一緒にいてもいい?
 なんか、一人になりたくないんだよね」

 何故か冴子さんも一緒である。
 私は、是非にとお願いした。

 まだ心が強張っている。
 取り調べは終わった。
 でも心がついていかない。
 今は仲間がいてくれるから、辛うじて立っていられるのだ。



 「僕はこれで」

 皆が落ち着くのを待っていたように、佐山が切り出した。
 仕事に向かわなければいけないのだろう。
 休みは半日だと言っていた。

 「佐山さん、本当にありがとうございました。
 あの……これを」

 佐山にコートを返す。
 佐山は軽く頷くと、無造作にそれを羽織った。

 「ゆっくり休んでください。では」

 背中を向けて佐山が出て行く。

 コートを脱いだら心細くなった。
 自分の身体が、急にもろくなったみたい。
 仕事前の慌ただしさと人目が気になって、私は佐山にかける言葉を飲み込んだ。


 また、来てくれますよね?


 部屋の中を見渡すと、帰ってこられたという実感が少しずつ湧いてきた。

 サルが落ちている。
 警察へ連行される直前に落とした、その場所に。
 すっかり見慣れた呑気な笑顔で、それでも手足を不自然な方向へ投げ出して。

 昨夜の出来事が夢ではないと伝えてくる。
 軽く眩暈めまいがした。

 「本当にお疲れさま。急
 だからこんな物しか用意できなかったけど」

 麻由子がコンビニの弁当を用意しておいてくれた。
 甲斐甲斐しくお茶も淹れてくれる。

 ありふれたコンビニ弁当。
 パサパサのお米が、こんなに美味しいなんて。

 思わず冴子さんと顔を見合わせて息をつく。

 食事をしたら熱いシャワーでも浴びたいけど、まずは睡眠だ。
 ベッドの下にマットでも敷けば、二人分のスペースは確保できるだろう。

 ルナは施設の方でミルクを飲んだと聞いたけど、またお腹が空くかも。
 それは麻由子に甘えることにしよう。

 段々と思考が日常に戻って行く。

 「ねえ、絵美」

 てきぱきとルナに服を着せながら、麻由子が声をかけてきた。

 「佐山さん、血相変えてたよ。
 寝てないんじゃないかな」

 「……」

 一生懸命、証言してくれてたんだろうな。
 私のため……ってことじゃなく、彼はそういう人だと思う。
 自分のことを「強力な証人だ」とも言っていたし。

 これから仕事なのに寝てないなんて。申し訳ない。
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