【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

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第四章 続・十一月の受難

娑婆の空気2

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 「絵美のこと、すごーく心配だったみたいね」

 麻由子の意味ありげな視線を感じる。
 冴子さんは箸を止めてニヤニヤし出した。

 「あきゃっ」

 ルナは、サルとの再会を喜んでいる。

 「それと絵美。
 あんた、珍しく料理した?」

 「ごめん、麻由子。洗ってくれたの?」

 そんなことはいいのよと、麻由子はルナを抱き上げ膝に乗せた。

 「食器が仲良く二つずつ。
 誰と食べたのよ」

 「そ、それは」

 ルナが、サルの尻尾をかじりながら「パパだよぅ!」と答えた。
 大きな声に焦る。
 二人にルナ語は通じないはずだが、なんか焦る。

 「聞くまでもないかしらねぇ」

 冴子さんと麻由子はニヤニヤしながら顔を見合わせた。
 バレてる。

 「なに作ったの?
 美味しいって言ってくれた?」

 冴子さんが身を乗り出してきた。

 美味いとは言われていないことに思い当たり、今さらながら軽くダメージを受ける。 
 後を引くと言い、完食してくれた記憶はあるが。

 「ちょっと、ビーフシチューをね」

 「へぇ」と破顔する冴子さんの横で、麻由子が首をひねる。

 「シチュー?
 真っ赤だったわよ?」

 「何よ、激辛系?」


 私に料理のことを聞かないで──!!


 料理。それは、私が人生で何度挫折したか分からない超苦手分野なのだ。
 そんなんで、私の応答はしどろもどろになる。

 「そのぉ、酸味があったような無かったような……」

 二人は沈黙し、ゆっくりと顔を見合わせた。
 そして、それぞれに「絵美」、「絵美ちゃん」と深刻な顔で呼びかけてくる。

 こちらが料理を振る舞うという形で行われた男性との会食。
 それの過程と結果について、本気で心配しているようだった。



 「きゃははっ」

 話の内容を知ってか知らずか、ルナが愉しげに笑った。


 ***


 「冴子さん、起きてる?」

 「寝なくていいの?」

 ベッドの下から声をかけると、すぐに冴子さんの声が返ってきた。

 この部屋はワンルームだが、ベッドやクローゼットを目隠しできるように薄いパーテーションが付いている。
 今は閉めてあり、この空間は薄暗い。

 向こう側で麻由子が立ち歩く気配がしている。

 「疲れ過ぎて逆に寝れない」

 「私も」

 「冴子さん。本当にありがとう。
 ごめんなさい」

 私のことが無かったら、冴子さんは騒ぎを起こしたりしなかっただろう。
 相手はアパートの大家だ。
 根に持たれて、出て行けなどと言われないとも限らない。

 「どうして謝るのよ」

 冴子さんはクスッと笑った。

 「私は、自分がしたいことをしただけ」

 胸を熱くさせるものがあった。
 なんてカッコ良いんだろう。

 今度もし何かで冴子さんがピンチに陥るようなことがあったら、私も絶対に彼女を助けよう。
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