【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

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幕間

或る女の犯行計画3

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 女は素早く、そして力強くベビーカーを掴んだ。

 気づかれた時の言い訳は一応考えてある。
 ごめんなさい、この下にある商品を見たくて。

 母親は気づかなかった。

 ベビーカーは、ツルツルに磨かれたフロアを音もなく滑らかに進んだ。
 赤ちゃんは大人しいままだ。

 無我夢中で進んだら偶然エレベーターに行き当たり、タイミングを計ったように扉が開いた。
 乗ったのは女だけだった。

 行き当たりばったりで降りたのは食料品のフロアだ。
 ここまで来てしまったら、用意していた言い訳はもう通じない。

 気がはやる。
 女はとにかく出口へ向かった。

 突然の喧騒と人波に押し流される。
 菓子のタイムセールだ。
 その混乱に乗じて、女はついに目立つことなく外へ出た。

 外へ出て初めて、ベビーカーに乗っているのが可愛い女の子だと知った。

 女は歩き続けた。遠い。
 でも、絶対に成し遂げる。
 あと少しで、望んでいた幸せが確実に手に入るのだ。
 赤ちゃんは、ベビーカーの振動に揺られて初めは眠っていたが、あと少しのところでむずかって泣き出した。

 あと少し。あと少し──。




 それは想像していたよりも、ずっと温かかった。
 女は、腕の中で懸命にミルクを飲む赤ちゃんへ愛おしげな眼差しを向ける。

 あの時、一歩を踏み出して本当に良かった。
 たくさんの偶然が味方してくれた。
 
 偶然?
 違う。

 女は思った。運命だと。
 神様が贈り物をくれたのだと。

 もう、生きることを辞めようなんて思ったりしない。

 何があっても守ってあげる。
 そうして。
 たくさんたくさん、幸せにしてあげる──。



 その後の生活は容易いものだった。
 この街は、女が以前住んでいた街によく似ている。
 人が、街全体が女を包み隠してくれた。
 もう、隣町の遠いショッピングセンターへ行くこともない。

 ベビーカーを押して歩けば、どこから見ても普通の母娘おやこだ。
 そんなありふれた光景を、誰も気に留めることはなかった。


 ***


 十一月初旬、早朝。

 ある病院が、極秘裏に警察関係者を招き入れた。
 他の入院患者に気づかれないよう、病棟からいちばん離れたカウセリングルームが用意される。

 部屋には既に、幾人かの待ち人があった。

 行方不明になっている岩崎梨奈ちゃんの家族だ。
 心労が重なり、母親がこの病院に入院している。

 警察関係者が、とある赤ちゃんと家族を引き合わせた。
 梨奈ちゃんにそっくりだ。


 しかし。


 色めき立つ岩崎家の面々の中で、母親だけが表情を変えなかった。
 母親はやつれた身体をシャンと伸ばし、真っ直ぐ赤ちゃんを見つめて言った。


 「違う。梨奈じゃない」


 と──。
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