【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

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第四章 続・十一月の受難

男の本音2

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 「喜んでんだ、友達できたって。
 こっちに知り合い、いないからって」

 確かにユイカさんとは友達になった。
 けど複雑な人間関係が明らかになった以上、難しいことだってあるのだ。
 ユイカさんだって、そんなことを望むはずがない。

 昌也が空回っているであろうことは明白だった。

 「あのさ」

 昌也は、残りのコーヒーを一気に飲み干した。

 「悪かったよ、色々」

 何それ──。
 色々とは、過去の浮気から現在に至るまでのことだろうと理解はできる。

 けど。
 謝ってやるから言うこと聞けって?

 「馬鹿にしてんの?」

 のこのこと話を聞きについて来た自分に嫌気が差す。
 立ち上がって乳母車の持ち手を掴むと、昌也が焦った様子で身を乗り出した。

 「あッ。ちげぇよ、誤解すんな」

 何がちげぇ、だ。

 最悪だ。
 上京してから付き合った他の男が何倍もマシに思えた。
 ユイカさん自身はとても良い人だということが、余計に心を乱す。

 昌也は「ああぁ」とうめきながら髪を掻きむしった。


 「本当は先に謝るつもりだったんだよ!
 ごめん……これまでのこと。
 本当に悪かったよ」


 ストレートな謝罪が胸を射た。
 足が止まる。

 カゴの中のルナと目が合って、頭の中に声が届く。


 ──話したら?


 分かってる。
 頭を下げる昌也に、不誠実さは感じられない。

 私は彼の隣に座り直した。
 適度にザワついた周囲は私たちに無関心で、いつかの修羅場のようにはならなくて済みそうだった。


 「いいよ、もう」


 自分でも驚くほど穏やかな声が出た。

 簡単なことなのだ。
 謝るのも、許すのも。

 あの頃の私たちは、それが分からないほどこじれてしまっていた。

 「駄目だな、俺は」

 昌也が大袈裟に息をつく。

 「偶然お前を見かけた時、今度こそ謝ろうって覚悟したのに。
 いざとなると決心が鈍っちまう」

 「そういうの昌也っぽいね」

 チクリと言ってやると、彼は決まり悪そうに頭を掻いた。

 「私も……悪かったんだ。
 ごめんなさい」

 私だって、ベビーが欲しいという昌也を全否定してしまったのだ。

 「あの頃、ベビーとか全く考えられなくて。
 余裕がなくて酷いこと言った」

 楕円形の飲み口を見つめていると、あの頃が何十年も前のことのように思われる。

 「俺も一方的に希望を押し付けたとこがあるからさ」

 不思議だな。

 東京こっちで出逢った中でいちばん酷い男なのに、きちんと別れ話ができたのは昌也だけだった。

 ふいに、彼がこちらへ話を振ってくる。

 「そういや、旦那は元気か」

 「だんっ……!?」
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