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第四章 続・十一月の受難

男の本音6

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 ***


 「絵美さーん!」


 キリンのアーチの向こうから、一人の女性が手を振っている。

 晴天。
 今日は風がそんなに強くなく、暖かさを感じるくらいだ。

 「ユイカさん、久しぶり!」

 自分の声も弾んだのが分かった。
 乳母車を押してアーチをくぐる。

 昌也と約束した通り、ユイカさんに会いにきたのだ。

 私たちは、手を取り合って再会を喜んだ。
 そして。

 「無事に生まれたのね。
 おめでとう! この子ね?」

 傍らの、オシャレかつ機能的っぽいベビーカー。
 ユイカさんは、下ろしていたサンバイザーを少し持ち上げた。
 
 「ありがとう、絵美さん。
 カイトです」

 「あきゃっ」

 ルナが、よろしくと言っている。

 「カイトくんかぁ」

 私は、腰をかがめてベビーカーを覗いた。

 まさか、元彼の子供をしみじみと眺める日が訪れるとは。
 人生なにが起こるか分からないものである。


 「……!」


 小さい──。
 ルナと初めて会った時よりも、ずっと小さい。

 心許ない細い首、柔らかそうな頭。
 今にも壊れそう。

 カイトくんは、ぴくりと瞼を震わせた。
 動いてる。



 不自然にならない程度に、ゆっくりと身体を起こした。
 小鼻のあたりに冷や汗が吹き出してくるのを感じる。

 ユイカさんに気づかれなかっただろうか。



 てっきり、もう大丈夫だと思ってた。
 いや、忘れていたのだ。



 十一月の終わり。なのに。
 私……アレルギー、治ってない──。
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