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第五章 クリスマスの涙
すれ違い1
しおりを挟む明け方。
外を、新聞配達のバイクが走り過ぎて行った。
一睡もできなかった。
まだ暗い部屋でゆっくりと身を起こす。
ルナと一言も交わさないまま夜が明けた。
ルナとケンカして、佐山にイライラをぶつけて。
いちばん大切にしたかった繋がりを、自分で壊してしまった。
もう、自分で自分に審判を下したも同然ではないか。
不合格。
「絵美ぃ」
頭の中でルナの声がした。
薄暗い部屋で、ルナの目がぱちくりと開いている。
「起きたぁ」
見りゃ分かる。
私はベッドを抜け出すと、ルナの顔色をチェックした。
「な、何よぅ?」
「あんた、寒くないの?」
「ないよー」
昨日とは打って変わったルナの態度に違和感を覚える。
「あのね、ルナ。昨日、何があったか覚えてる?」
「そういえば覚えてなーい」
「……」
まさか、一晩寝たからか──。
寝ると忘れる。
ベビーの特性。
ここまでけろっとされると、自分は何に腹を立てていたのだろうと思えてくる。
そもそも、何とかしてルナを病院へ連れて行きたかったわけだ。
保険証のことを聞くために依頼主の話を出したことでルナが怒り出した。
もしかして、ベビーには理解し辛い話だった?
いや、ミルクが足りていなくて機嫌が悪かっただけという可能性も?
冷静になってみれば単純な話だ。
こんな……こんな小さなことで。
私は、佐山に八つ当たりをしてしまったのだ。
***
「絵美ちゃん! どしたの、その顔!?」
昼近くにやって来た冴子さんと麻由子は、玄関先で顔を見合わせた。
「……元々こういう顔なんです」
「すごいクマよ。それになんか、やつれたみたい」
麻由子が淹れてくれたコーヒーを飲んで少し落ち着いた。
「ぅあうー」
ルナは冴子さんの膝によじ登り、「絵美の様子がヘンなの」と報告する。
しかし冴子さんはルナを抱き上げて「高い高ーい」などとやり始めてしまい、ルナは困ったような顔で首を傾げた。
「絵美ちゃん、疲れてるのよ。
佐山クンに癒してもらったら?」
ルナの頭を撫でながら、冴子さんは言った。
ルナはサルの頭を鷲掴みにしている。
佐山の名前を出されると胸が痛い。
「……」
「あらやだ。ケンカでもしたの?」
私は溜め息をつきつつ、昨晩の出来事を吐き出した。
そろそろ部屋に溜め息が充満して酸欠になるんじゃないだろうか。
「絵美ちゃんにとって、佐山クンがそれだけ気を許せる相手になったってことね」
冴子さんが、しかつめらしく頷いている。
自分のコーヒーを淹れ終えた麻由子は、「気持ち分かるなぁ」と複雑な表情を浮かべて私の向かいに座った。
「日中、子ども見てるのって自分だけじゃない?
こっちはやっと聞いてもらえるって思ってても、相手の反応はイマイチだったりするのよね」
それだ。
私は、佐山に話を聞いてもらいたかっただけなんだ。
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