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婚約者はマリベル

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 「マリベルはすでに嫁いでいたのですが……」

 「実は、知らなかったのです。しばらくこの国を離れていて、戻ったのは父が亡くなり、爵位を継ぐことになったからでした。アンダーソン伯爵に縁談の話をした時は、マリベル嬢との縁談のつもりでした。」

 ビンセント・ケール侯爵は、他国に3年間留学をしていた。

 「マリベルを知っていたのですか?」

 「何度かお見かけした程度で、お話した事はありません。私はあまり女性に関心がなく、結婚の事を考えてはいなかったのですが、侯爵になったことで妻をめとるべきではと考えた時、マリベル嬢の顔が浮かんだのです。」

 「そうでしたか。誤解があったようですね。では、改めて、ミシェルとの婚約でよろしいでしょうか?」

 「いいえ。マリベル嬢と婚約を致します。」

 「ですが、マリベルは……」

 「マリベル嬢は、離縁すると聞きましたが?」

 「何故それを!?」

 「ミシェル嬢が噂を流していました。姉は夫に裏切られ、白い結婚のまま別れるのだと。」

 「な!? ……お恥ずかしい。」

 「私の婚約者は、マリベルでよろしいですね?」

 「……マリベルはまだ、気持ちの整理がついていません。親としては、そっとしておいてやりたいと思っています。」

 「急ぐつもりはありません。また他の方に、先を越されたくはないので、婚約という形は取らせていただきたい。マリベル嬢に、会わせていただけますか?」

 ケール侯爵は全く引く気がないようで、アンダーソン伯爵は、マリベルが了承するならという条件で、マリベルとの婚約を前向きに考える事にした。



 「そんなの納得いかないわ! どうしてお姉様なのよ!!」

 邸に戻ったアンダーソン伯爵は、ケール侯爵の話を皆に伝えた。

 「仕方ないではないか。先方は、最初からマリベルを指名していたのだ。」

 どうして私なのでしょう? 何度かお見かけした程度で、ケール侯爵とはお話した事もありません。それならば、ミシェルも変わりないはず。どうしてミシェルではいけないのでしょうか?

 「お父様、ケール侯爵にお会いします。」

 「そうか。ケール侯爵家と姻戚関係になる事は好ましいが、無理はするな。お前の気持ちを優先しなさい。」

 お父様……いつも私の事を考えて下さり、ありがとうございます。お父様の娘で、私は幸せです。

 「冗談じゃないわ! ビンセント様は私の婚約者よ! お姉様には、お義兄様がいるじゃない!!」

 ミシェルが壊したのに、よくそんな事を……

 「婚姻無効の手続きは、もう済んでいるわ。それに、ケール侯爵は最初からあなたの婚約者ではないのよ。」

 「何よッ!! お姉様なんて、お義兄様に一度も抱かれたことないくせに! 色気がないのだから、大人しくお飾りの妻でいれば良かったのよ!!」

 「ミシェル! いい加減にしろ!! お前がした事は、全て分かっている! どうしてお前は、姉を貶める事ばかりするのだ!?  」

 「お姉様が大嫌いだからよ! いつだって善人ぶって、誰にでもいい顔して、あんたと比べられて、私は性悪扱い! あんたみたいな偽善者、消えればいいのよ!」

 パンッ!!!

 お父様は、ミシェルの頬を叩いていた。


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