幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

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二章

レイビス視点

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 山を登り始めてから二時間が経った。
 親方を探しながら歩いているが、まだなんの痕跡も見つかっていない。昨日も一昨日も雪が降っていたのだから、足跡が残っているという期待はもてないだろう。

「もう少し、歩くペースをあげた方がいいかもしれないな」
「ああ、そうしよう」

 親方は、採掘場にいる可能性が高い。
 このペースだと、採掘場に着くまでに暗くなってしまう。歩くペースを早めつつ、痕跡を探りながら山道を登っていく。
 セリーナは、大丈夫だろうか。残されることに、納得していない様子だった。だが、彼女を危険な目に遭わせるわけにはいかない。
 セリーナが安全でいてくれなければ、俺は耐えられない。

「彼女が心配かい? 初々しくて、羨ましいねー。うちのかみさんなんて、毎日怒鳴ってばかりだよ」

 歩きながから、世間話を始めるおじさん。なにか話していないと、怖くてたまらないのだろう。それなのに、案内をしてくれていることに感謝している。

「毎日怒鳴られても、幸せなのだな」
「そう見えるかい? まあ、それなりには幸せだな。俺たちとマリーちゃんの両親は幼馴染で、よく四人で遊んだんだ。それがあんなことになっちまって……二人の遺体はあまりに酷くて、かみさんには見せらんなかったよ」

 マリーの両親は、狼に襲われて亡くなったそうだ。遺体は、見るも無惨な姿だった。街の人間が、二度と山に近づきたくなくなるほどに。

「マリーちゃんだけでも、助かってよかった。あいつらが、愛する娘を守ったんだな」
「マリーも、一緒だったのか?」
「ああ。採掘場に、ローラとマリーちゃんが二人で弁当を届けに行ったんだ。マリーちゃんだけ、山の麓で倒れているところを発見された」
「二人の遺体は、どこで見つかったんだ?」
「採掘場の近くだ」

 だとすると、おかしい。
 幼い女の子が、一人で山を降りたというのか?

「採掘場の近くで遺体が見つかったのに、なぜマリーは山の麓に倒れていたんだ?」
「たしかに……おかしな話だな。マリーちゃんは記憶がなくなっていたから、なにも聞けなかったんだよ」

 記憶がない……
 もしかしたら、マリーはなにかを見たのかもしれないな。
 この山で、一体何が起きているんだ……

 山を登り始めて、五時間。日が沈み始めている。
 ここまで、親方の痕跡も狼の痕跡も見つかっていない。

「もうすぐ採掘場が見えてくる」

 採掘場に、親方がいることを願いながら歩く。
 ようやく到着して中を探してみたけれど、親方の姿はない。

「新しく採掘をした痕跡があるから、ここには来たようだ」

 だとすると、親方の行方を掴むのが難しい。
 細心の注意を払って痕跡を探しながら、俺たちはここまで登って来た。痕跡がなかったということは、目的である鉱石を手に入れたのに山を降りなかったということになる。
 何かがあったのだと考えるのが妥当だろう。

「くそっ! 親方は、どこに行っちまったんだ! ここまで運良く狼に出くわさなかったが、闇雲に探すとなると狼に遭遇する可能性は高い」

 運良く狼に出くわさなかった……か。セリーナは、狼が人を襲っているとは考えていないだろうな。
 これからどうすべきか考えながら、採掘場から出て辺りを見渡す。

「嘘だ……ろ!?」

 真後ろから、おじさんの声が聞こえた。
 そう言いたくなる気持ちは、俺にもわかる。思っていたよりも、だいぶデカイ真っ白な狼がこちらの様子を伺っていた。二メートルほどあるだろうか。だが、不思議と怖くはなかった。セリーナを信じているからだろう。
 真っ白な毛並みの狼は、ここより少し高いところから俺たちを見下ろしている。襲ってくる気配はない。

「なにか、言いたげな顔だな」
「レイビス様、近づいてはなりません!」
「大丈夫だ」

 護衛に制されたが、そのまま狼の方へと少しずつ近づく。すると、狼が反対方向へと歩き出す。そして少し先で止まると、もう一度こちらを向く。

「もしかして、着いてこいと言っているのか?」

 狼の方へ歩き出すと、また狼は反対方向へと歩き出し、こちらを振り返る。

「そのようだな……」

 怯えていたおじさんも、狼の不思議な行動に興味津々だ。俺たちは狼のあとを追うことにした。
 しばらく歩くと、洞窟の前で狼が足を止めた。中を覗いてみると、そこには親方の姿があった。

「無事だったのだな!」
「あんたは、あの時のお客さん! ギースまで、来てくれたのか!」

 ギースとは、おじさんの名だ。

「心配しましたよ、おやっさん! どうして三日も帰って来ないんですか!」

 よく見ると、親方は足を怪我しているようだ。太ももに布が巻いてあり、その布には血が滲んでいる。

「その怪我は、どうしたんだ?」
「……山には誰もいないはずなのに、人がいたんだよ。そいつは、俺を見るなり矢を放ちやがった。それが足に命中しちまってな」

 問答無用で攻撃をしてくるなんて、なにかを隠してますと言っているようなものだ。

「もう終わりだと思った瞬間、白狼はくろう様に助けられたんだ」

 狼はその男を倒し、この洞窟まで親方を連れてきてくれたそうだ。山にいるのは、その男一人だけじゃないだろう。仲間が、親方を探しているかもしれない。
 すぐにでも街に戻りたいところだが、怪我をした親方を連れて移動すればすぐに見つかってしまうかもしれない。

「白狼様は、やっぱり守り神だったんだな! 疑ってすまない!」

 おじさんは、狼に何度も頭を下げている。狼は『気にするな』と言っているように見えて、不思議な感覚だ。

「クゥーン……」

 親方の後ろから、三匹の子供の狼が姿を現す。
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