幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

文字の大きさ
33 / 77
二章

セリーナの苦手なもの

しおりを挟む

 辺りを警戒しながら、レイビス様たちの足跡を追う。まだ、レイビス様たち以外の足跡の痕跡はない。そのことに、少しだけ安心しながら先に進む。

「この国は、もう大丈夫なのだと思っていた……。私は、なにもわかっていなかったのかもしれない」

 問題は解決したのだと思っていた。まだ闇が存在していたことに、気付くことが出来なかったことが悔しい。
 マリーちゃんの話を思い出して、胸が苦しくなる。二人の殿下のうち、どちらかがマリーちゃんのご両親を殺した。
 二人とも国を愛しているのだと、民は皆そう話していたのに。愛している国の民を、手にかけていたなんて……

「セリーナがいなければ、王太后様もダベルン公爵も無事ではすまなかった。私たちは、この国の人間ではない。全てを把握することなどできない」

 カタリーナの言う通り、私たちには全てを把握することはできない。けれど、これから起こるかもしれないことは止めたい。
 この山に私兵を集め、訓練していると考えるのが自然だ。つまり、これから起こること……それは、クーデターだろう。狙いは、クリフ様の命。そして、国王の座。

「兄弟で殺し合うなんて、悲しすぎる」
「セリーナは、家族をなにより大切に思っているからな。セリーナの家族が羨ましい」
「カタリーナも、私の家族じゃない」
「え……?」
「カタリーナは親友であり、いつも私を守ってくれる護衛であり、大切な家族でもあるわ」

 カタリーナは大好きな叔父様から離れてまで、私の護衛をすることを選んでくれた。そんな彼女を、私も守りたい。

「あなたは本当に……いや、なんでもない」

 言いかけてやめたことは気になったけれど、カタリーナの表情がいつもより穏やかで、それ以上聞かなくてもいい気がした。

 山を登り始めて、二時間が経った。
 足跡はまだ、レイビス様たちのものしか見つかっていない。

「この辺りから、スピードを上げているみたい」

 歩幅が大きかった足跡が、少し狭くなっている。ゆっくり警戒しながら歩いていたのが、早歩きになったのだろう。
 私たちも急がないと、追いつくことができない。一刻も早くレイビス様たちと合流しようと、歩くスピードを上げる。

「セリーナ、急ぎ過ぎ! もう少し警戒しないと」
「もし敵に見つかっても、きっと大丈夫。逆に、見つかるように行こう」
「?」

 レイビス様が先に見つかることは避けたい。どちらも見つからないことが理想だけれど、見つかるなら私たちの方がいい。
 カタリーナは不思議そうに首を傾げたけれど、すぐに私のペースに合わせてくれた。彼女は私を信頼してくれている。そして私も、彼女を信頼している。

「はーれた日はー君ーとあーいたいー。あーめの日もー君ーとあーいたいー。ねえ、カタリーナも歌ってよ」

 わざと敵に見つかるように、大きな声で歌いながら歩く。なぜかカタリーナは、複雑そうな表情をしている。

「……無理だ」
「どうして? この歌、知らない?」
「いや、知っているが、セリーナに合わせるのは無理だ」

 どういう意味なのかわからず、頭の中にハテナが浮かぶ。

「……セリーナにも、苦手なものがあったのだな」

 そう言いながら、カタリーナは笑いを堪えている。

「私が、音痴だって言いたいの?」

 じとーっとした目で、カタリーナを見る。すると、カタリーナは私の目を見ないように顔を横に向けた。

「個性的な歌声だ……うん、個性的で素晴らしい」

 褒めようとはしてくれているようだ。けれど、堪えきれずにカタリーナは笑い出した。

「酷いわ! お父様もサミュエルも、褒めてくれたもの! よく聞いてね! はーれた日はー君ーとあーいたいー」

 私の歌を聴いて、さらに大きな声で笑い出した。そんなに酷いのかと、ショックを受ける。

「セリーナ、ごめん。うま……うま……うま……」

 そんなにどもるほど、私の歌は酷いのだろうか。自分では全くわからなかった。

「馬なんてここにはいないわ! じゃあ、カタリーナが歌ってみてよ!」

 頬を膨らませながら、抗議する。

「わかった」

 カタリーナは息を深く吸うと、同じ歌を歌い出した。

「晴れたー日はー、君ーに会いたいー。雨ーの日もー、君ーに会いたいー」

 カタリーナの歌声があまりにも美しくて、彼女に魅入ってしまう。いつもは低めの声が、とても綺麗な高音になっている。
 同じ歌とは、とても思えない。

「カタリーナすごい! とっても美しい歌声ね!」

 ぱちぱちと拍手をしながら、感動を伝える。

「歌うのが、小さい頃から好きだっただけだ。女だから騎士にはなれないとバカにされた時、歌うと自然と嫌なことを忘れられた」
「今じゃ、立派な騎士だものね。カタリーナは、本当にすごいな」

 今頃、自分の歌が恥ずかしくなってきた。
 お父様とサミュエルのバカー! 下手なら下手って言ってよー。

「さあ、早くレイビス様を見つけよう!」

 さっきの自分の歌はなかったことにして、歩くペースをさらに早める。恥ずかしくて、顔から火が出そうだ。
 だけど、カタリーナの意外な一面を知ることができて嬉しい。

「先に行かないでくれ!」

 それにしても、あんなに大きな声で歌っていたのに敵は現れてくれない。ただ恥をかいただけだった。
 この道は、採掘場へと向かう道だ。噂を流してまで人払いをしたのだから、定期的に見回りをしていると思うのだけれど……
 その後も、なかなか敵が現れなかった。もしかしたら、レイビス様たちが敵と遭遇しているのではと焦ってしまう。

「セリーナ、下がって!」

 カタリーナが、戦闘態勢をとった。
 ようやく敵が、現れてくれたようだ。
しおりを挟む
感想 308

あなたにおすすめの小説

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。