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二章
セリーナの苦手なもの
しおりを挟む辺りを警戒しながら、レイビス様たちの足跡を追う。まだ、レイビス様たち以外の足跡の痕跡はない。そのことに、少しだけ安心しながら先に進む。
「この国は、もう大丈夫なのだと思っていた……。私は、なにもわかっていなかったのかもしれない」
問題は解決したのだと思っていた。まだ闇が存在していたことに、気付くことが出来なかったことが悔しい。
マリーちゃんの話を思い出して、胸が苦しくなる。二人の殿下のうち、どちらかがマリーちゃんのご両親を殺した。
二人とも国を愛しているのだと、民は皆そう話していたのに。愛している国の民を、手にかけていたなんて……
「セリーナがいなければ、王太后様もダベルン公爵も無事ではすまなかった。私たちは、この国の人間ではない。全てを把握することなどできない」
カタリーナの言う通り、私たちには全てを把握することはできない。けれど、これから起こるかもしれないことは止めたい。
この山に私兵を集め、訓練していると考えるのが自然だ。つまり、これから起こること……それは、クーデターだろう。狙いは、クリフ様の命。そして、国王の座。
「兄弟で殺し合うなんて、悲しすぎる」
「セリーナは、家族をなにより大切に思っているからな。セリーナの家族が羨ましい」
「カタリーナも、私の家族じゃない」
「え……?」
「カタリーナは親友であり、いつも私を守ってくれる護衛であり、大切な家族でもあるわ」
カタリーナは大好きな叔父様から離れてまで、私の護衛をすることを選んでくれた。そんな彼女を、私も守りたい。
「あなたは本当に……いや、なんでもない」
言いかけてやめたことは気になったけれど、カタリーナの表情がいつもより穏やかで、それ以上聞かなくてもいい気がした。
山を登り始めて、二時間が経った。
足跡はまだ、レイビス様たちのものしか見つかっていない。
「この辺りから、スピードを上げているみたい」
歩幅が大きかった足跡が、少し狭くなっている。ゆっくり警戒しながら歩いていたのが、早歩きになったのだろう。
私たちも急がないと、追いつくことができない。一刻も早くレイビス様たちと合流しようと、歩くスピードを上げる。
「セリーナ、急ぎ過ぎ! もう少し警戒しないと」
「もし敵に見つかっても、きっと大丈夫。逆に、見つかるように行こう」
「?」
レイビス様が先に見つかることは避けたい。どちらも見つからないことが理想だけれど、見つかるなら私たちの方がいい。
カタリーナは不思議そうに首を傾げたけれど、すぐに私のペースに合わせてくれた。彼女は私を信頼してくれている。そして私も、彼女を信頼している。
「はーれた日はー君ーとあーいたいー。あーめの日もー君ーとあーいたいー。ねえ、カタリーナも歌ってよ」
わざと敵に見つかるように、大きな声で歌いながら歩く。なぜかカタリーナは、複雑そうな表情をしている。
「……無理だ」
「どうして? この歌、知らない?」
「いや、知っているが、セリーナに合わせるのは無理だ」
どういう意味なのかわからず、頭の中にハテナが浮かぶ。
「……セリーナにも、苦手なものがあったのだな」
そう言いながら、カタリーナは笑いを堪えている。
「私が、音痴だって言いたいの?」
じとーっとした目で、カタリーナを見る。すると、カタリーナは私の目を見ないように顔を横に向けた。
「個性的な歌声だ……うん、個性的で素晴らしい」
褒めようとはしてくれているようだ。けれど、堪えきれずにカタリーナは笑い出した。
「酷いわ! お父様もサミュエルも、褒めてくれたもの! よく聞いてね! はーれた日はー君ーとあーいたいー」
私の歌を聴いて、さらに大きな声で笑い出した。そんなに酷いのかと、ショックを受ける。
「セリーナ、ごめん。うま……うま……うま……」
そんなにどもるほど、私の歌は酷いのだろうか。自分では全くわからなかった。
「馬なんてここにはいないわ! じゃあ、カタリーナが歌ってみてよ!」
頬を膨らませながら、抗議する。
「わかった」
カタリーナは息を深く吸うと、同じ歌を歌い出した。
「晴れたー日はー、君ーに会いたいー。雨ーの日もー、君ーに会いたいー」
カタリーナの歌声があまりにも美しくて、彼女に魅入ってしまう。いつもは低めの声が、とても綺麗な高音になっている。
同じ歌とは、とても思えない。
「カタリーナすごい! とっても美しい歌声ね!」
ぱちぱちと拍手をしながら、感動を伝える。
「歌うのが、小さい頃から好きだっただけだ。女だから騎士にはなれないとバカにされた時、歌うと自然と嫌なことを忘れられた」
「今じゃ、立派な騎士だものね。カタリーナは、本当にすごいな」
今頃、自分の歌が恥ずかしくなってきた。
お父様とサミュエルのバカー! 下手なら下手って言ってよー。
「さあ、早くレイビス様を見つけよう!」
さっきの自分の歌はなかったことにして、歩くペースをさらに早める。恥ずかしくて、顔から火が出そうだ。
だけど、カタリーナの意外な一面を知ることができて嬉しい。
「先に行かないでくれ!」
それにしても、あんなに大きな声で歌っていたのに敵は現れてくれない。ただ恥をかいただけだった。
この道は、採掘場へと向かう道だ。噂を流してまで人払いをしたのだから、定期的に見回りをしていると思うのだけれど……
その後も、なかなか敵が現れなかった。もしかしたら、レイビス様たちが敵と遭遇しているのではと焦ってしまう。
「セリーナ、下がって!」
カタリーナが、戦闘態勢をとった。
ようやく敵が、現れてくれたようだ。
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