幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

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二章

ようやく会えた愛しい人

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「殿下!? レイビス殿下ですか!?」

 敵の姿が見える前に、レイビス様の名前を呼ぶ。次の瞬間、武装した数人の男たちが姿を現した。

「……レイビス殿下とは、グランディ王国のレイビス殿下のことか?」

 男たちは戸惑いながら、私たちに話しかけてきた。

「はい。この山に守り神の白い狼がいると聞いて、レイビス殿下と一緒に来たのですが……はぐれてしまったのです」

 必要以上に、悲しげな表情を彼らに見せる。彼と離れてしまって、不安で仕方ない弱い女性だと思わせるためだ。

「もしかして……あなたはセリーナ様ですか?」

 男たちの態度が変わった。
 私たちを見つけた時は殺気丸出しだったのに、今は敬語まで使っている。思った通り、グランディ王国の王太子であるレイビス様とその婚約者の私には手を出すつもりがないようだ。

「私をご存知なのですか?」
「やっぱり! 噂をご存知なかったのですね。この山は危険です。なるべく早く山を下りてください」
「危険? どうしてですか?」

 なにも知らないふりをしながら、か弱い女性を演じる。

「この山の狼が、人を襲っているのです。我々は、犠牲者が出ないようにこうして見回りをしています」
「そんな……恐ろしい……。殿下を見つけたら、すぐに下ります! ご親切にありがとうございました」
「わかりました。お気をつけください」

 男たちは丁寧に頭を下げて、この場を去って行った。
 男たちの姿が見えなくなると、安心からか盛大なため息が漏れる。

「はあ……」
「さすが、セリーナだ。グランディの人間は襲わないと、わかっていたのだな」
「王座が目的なら、グランディを敵に回したくはないはず。これでレイビス様たちが見つかっても、攻撃される可能性はなくなったかな」

 けれどこれで、どちらかの殿下がクーデターを起こそうとしていることが濃厚になった。

「私たちのせいで、事が動くかもしれない。急いでレイビス様と合流しなくちゃ」

 警戒する必要がなくなり、さらに歩くスピードを上げる。
 レイビス様と私が山にいると知った彼らは、すぐに動くかもしれない。私たちに危害を加えるつもりがないのだから、私たちが王宮にいない時を狙うだろう。
 レイビス様がこの国にいる間に、王座を手に入れる必要がある。王座を奪った後、レイビス様を説得して友好関係を維持するつもりなのだ。
 彼がこの国にいる今が、絶好の機会だと考えているだろう。けれどそんなやり方、レイビス様が認めるとは思えない。

 ようやく採掘場に到着したけれど、そこにレイビス様たちの姿はなかった。
 日が沈んでしまい、辺りは暗くなりランタンに火を灯す。

「採掘場に来れば会えると思っていたけれど、甘かった……。ここに、親方はいなかったのね」

 彼に会えなかったことにも、親方がここにいなかったことにも落ち込んでしまう。親方が無事なら、きっとここにいると思っていたからだ。
 ここに来るまで、親方の痕跡は何もなかった。無事でいるのだろうか……

「セリーナ、外に足跡がある。上に向かったようだ」
「行きましょう!」

 まだ諦めてはいない。親方を無事に連れて帰ると、マリーちゃんと約束をしたのだから、諦めるわけにはいかない。

「足跡は、あの洞窟に続いている」

 雪に残る足跡をランタンで照らす。
 カタリーナが足跡を見つけた時は人の足跡だけだったけれど、先に進むと獣の足跡があることに気づいた。
 レイビス様たちの足跡は、狼の足跡を追うように続いていた。彼は、白い狼に出会ったのだろうか。

「きっとあそこに、レイビス様たちはいる」

 少しでも早く会いたくて、走り出していた。

「セリーナ!?」

 ずっと聞きたかった声が、洞窟の中から聞こえてくる。その瞬間、涙が溢れ出していた。

「レイビス様……レイビス様! レイビス様ー!」

 何度も名前を呼びながら、洞窟の中に入る。ランタンの光がレイビス様の顔を照らし、さらに涙が溢れ出す。
 彼に思いっきり抱きつき、もう離さないといわんばかりにぎゅっと抱きしめる。

「どうしてセリーナがここに?」

 驚きながらも、優しく抱きしめてくれるレイビス様。彼の温もりが、私の心を落ち着かせてくれる。

「工房に残ると約束したのに、来てしまって申し訳ありません。ですが、レイビス様にお伝えしなければならないことがあります」

 彼に抱きついたままそう話した後、みんなが私たちを見ていることに気づいて慌てて離れる。

「さ、さむかったので!」

 苦しい言い訳をしながら、顔が熱くなるのを感じる。

「親方……? 親方ですよね!? 無事だったのですね!」

 おじさんでも護衛でもない初老の男性を見つけ、嬉しくなる。

「あ、ああ。ありがとう。それにしても、熱烈だったな。若いっていいねえ」

 親方にからかわれて自分のしたことを思い出し、また顔が熱くなる。恥ずかしすぎて、消えてしまいたい。
 恥ずかしがっている場合ではないと気づき、レイビス様にマリーちゃんの話や山で出会った男たちの話をした。

「そうか……なにかあるとは思っていたが、これほどのことだとは考えていなかった」

 親方も、問答無用で殺そうとした。どれほどマリーちゃんの家族を苦しめるつもりなのか……

「事情はわかったが、セリーナ……君は、なぜ危険な真似をするんだ? わざと見つかるように仕向けるなんて」

 怒られることは、覚悟していた。けれどまた同じことがあっても、私は同じ行動をする。

「ごめんなさい。でもレイビス様が私を心配してくださるように、私もレイビス様が心配だったんです」
「怒りたいけど、できそうにない。俺は、セリーナに弱すぎるな。だが、頼むから無茶はしないでくれ」

 彼の声が、震えている。前にも、レイビス様をこんな顔にさせてしまったことを思い出す。叔父様からの手紙を装い、カイン様に呼び出された時だ。けれどあの時は、彼が私を探しに来てくれた。

「善処します」
「はあ……」

 私の答えに、思いっきりため息をつく。
 無茶をしたいわけではないけれど、彼を守るためなら私はなんだってするだろう。それは変えられない。
 レイビス様には、諦めてもらおう。
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