幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

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二章

白い子犬?

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「クゥーン……」

 動物の鳴き声が聞こえて、後ろを振り向く。もしかしたら、白い狼がいるのかと期待したけれど、後ろにも前にも狼は見当たらない。

「クゥーン……」

 また聞こえた。けれど、私の視界には狼はいない。

「もしかして……動物の霊!?」

 恐怖からか、身体が震えてくる。

「セリーナ……君の隣」

 レイビス様が、私の隣の下の方を指差す。下を見ると、真っ白い子犬が私を見上げていた。

「可愛いー!」

 あまりに可愛くて、抱き上げて頬をスリスリする。子犬もそれに応えるように、私の頬をぺろぺろと舐める。

「こんなところに子犬がいるなんて。迷子かな? どこから来たの?」

 子犬に話しかけながら、頬ずりを続ける。もふもふした毛並みがまた可愛らしい。嬉しそうに小さな尻尾を振るのも可愛くて、心が癒される。

「セリーナ……それは、犬じゃないぞ」
「え……?」

 少し困った顔でそう言ったレイビス様の後ろに、白くてとても大きいもふもふ……じゃなくて、動物が現れた。

「見回りに行ってくれてたみたいだ。親方を助けたのも、この白い狼だそうだ」

 白い狼……犬じゃない……つまり、この小さなもふもふちゃんは、狼の子供だった。まじまじと狼の赤ちゃんの顔を見ると、クリクリとした大きな目をうるうるさせながら私を見ている。
 こんなに愛らしいのに、狼の赤ちゃんだとは思わなかった。

「そうだったのですね。狼さん、ありがとうございます」

 赤ちゃん狼を抱いたまま、白い狼に近づいて手を伸ばす。すると、白い狼は触りやすいように頭を下げてくれた。
 白い狼を撫でると、ふわふわな感触。毛並みも真っ白で綺麗。抱きしめたい衝動をおさえながら、白い狼から手を離す。

「セリーナに、懐いているようだな。俺たちには、触らせてくれなかった」
「私が、この子を抱いているからかもしれません」

 この白い狼は、きっとこの赤ちゃん狼のお母さんなのだろう。愛おしそうに、赤ちゃん狼を見つめている姿に母性を感じる。
 不思議なのは、この小さな赤ちゃん狼が白い狼みたいにこんなに大きくなることだ。
 座っている状態でも、レイビス様よりも大きい。

「その子も、俺たちには寄って来なかった」 
「セリーナですからね。動物からも好かれるに決まっています」

 なぜか得意げな顔で、カタリーナがそう言った。恥ずかしいから、やめて欲しい。

「なんでカタリーナが得意げなんだ? セリーナは、俺の婚約者だ。自慢していいのは、俺だ!」

 そんなことで言い合いになる二人に、恥ずかしくて穴があったら入りたい。

「二人とも、もうやめて! そんなことより、すぐに山を下りなければなりません」

 山を下りなければならないと言ったら、ここにいる全員が驚いた表情で私を見た。

「そんなことよりには引っかかるが、山を下りるのは無理だ。辺りは真っ暗で、今山を下りるのは危険だ。日が昇るのを待つしかないだろう」

 暗い中、山を下りるのが危険なのはわかっている。けれど、今下りなければクリフ様が危険だ。
 ここは他国で、クーデターはこの国の問題だ。
 友好国だからと、私たちが首を突っ込んでいい問題ではないのかもしれない。それでも、黙って見ていることなんかできない。
 クリフ様やミリアナの顔が、思い浮かぶ。幼い二人を、守りたい。

「大丈夫です。マリーちゃんに、秘密の近道を教えてもらいました。皆さん、これを」

 手渡したのは、マリーちゃんから借りてきた職人が使う革製のエプロン。みんな「なんのためにこれを?」という顔をしている。

「着いてきてください!」

 首を傾げながらも、みんな大人しく着いてきてくれる。採掘場の裏手に回り、マリーちゃんに教わった目印を探す。

「ここです。カタリーナ、先にお願い出来る?」
「わかった」

 カタリーナはエプロンの紐を持ち、革の方に腰を下ろすと、勢いをつけて雪山を滑り落りる。
 すごい勢いで雪山を滑り、数秒でカタリーナの姿が見えなくなった。

「まさか、あれをやるのか?」
「はい。ここは、麓まで木が生えていないそうです。前に白い狼さんに助けてもらった時に、ここを通ったのを思い出してくれました」

 カタリーナは平然と滑って行ったけれど、他の人は怖がっているようだ。

「俺は行く! 早くマリーを安心させたいからな」

 親方は怪我をした足をかばいながら、カタリーナのあとを追うように滑り降りて行った。
 親方も、マリーちゃんに会いたくて仕方がないのだろう。

「皆さん、怖いのですか?」

 レイビス様も護衛もおじさんも行こうとはしない。

「先に行きますね」

 もたもたしてられない。先に行こうと紐を掴むと、「俺が先に行く」とレイビス様に止められた。
 怖いのに、私を心配してくれているようだ。

「レイビス様、我々が先に!」

 護衛が先に行くと言い出した。
 どちらでもいいから、早く下りて欲しい……。そう思っていると、私の隣に白い狼が立った。

「一緒に来てくれるの?」
「ウォオーン!」

 私の問いに、返事をしてくれたみたいだ。この子が一緒に来てくれるのは、心強い。

「クゥーン」

 鳴き声が下から聞こえてそちらを見ると、一緒に行きたいのか、さっきの赤ちゃん狼が私の足にまとわりついていた。
 可愛い……とっても可愛いけれど、この山がこの子の家だ。連れていくわけにはいかない。

「ごめんね。あなたは連れていけない。お家でお母さんを待ってて」

 白い狼が赤ちゃん狼を咥えた。さっきの洞窟に連れて帰るのかと思ったら、なぜか私の頭に乗せた。

「……え? この子を、連れていけと言うの?」
「ウァオーン」

 そういうことのようだ。
 赤ちゃん狼をコートの胸元に入れて、エプロンに座り、雪山を滑りおりる。
 しまった。レイビス様を忘れてきてしまった。
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