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二章
恥ずかしい姿
しおりを挟む「お元気になられたようなので、失礼します」
ずっと言い合いをしてる二人を置いて、部屋を出る。私が部屋を出たことにも気づいていない。扉を閉めると、深いため息が漏れる。
「話し声が、ここまで聞こえていた。セリーナも大変だな」
ルドルフ殿下の部屋の前で待っていてくれたカタリーナが、憐れむように私を見る。
「ルドルフ殿下は、あんなことを本気でおっしゃっているわけではないわ。なんだか前より、あの二人が仲良くなった気がする」
「ルドルフ殿下……お気の毒様」
ボソッとカタリーナがなにかを言ったみたいだけれど、聞き取れなかった。
「なにか言った?」
「いや、なんでもない。クウにミルクをあげに戻ろう」
お腹を空かせるクウの顔が思い浮かぶ。
「そうね。行きましょう」
クウの顔を思い浮かべたら、早く会いたくなってしまった。こんな調子で、もしクウがここに残ると決めたら私は耐えられるのだろうか。
部屋に戻ると、クウが嬉しそうに床を走り回りながら出迎えてくれた。
「そんなに走り回ったら危ないよ」
お皿にミルクを注いで床に置くと、ぺろぺろと美味しそうに舐め始める。目の前に座ってクウの姿を見つめていると、舐め方が下手なのか顔中にミルクが飛び散ってしまう。
「お皿で飲むのは、初めてなのね。毛が白いから、どこにミルクがついているかわからないわ」
いつもはお母さんのおっぱいを飲んでいるのだから、下手なのは当たり前だ。
お皿に入っていたミルクを飲み終えると、全身をブルブルとさせて顔についたミルクを飛ばす。
「クウ……服が、ミルクまみれになってしまったじゃない」
「クウーン」
ごめんなさいと言っているのだろうか。うるうるさせた目で、私をじっと見つめながらお座りをしている。
「怒ってないよ。でも、もう少し上手く飲めるようにならないと、あなたのご飯が私の服に食べられてしまう。おいで……顔を綺麗に拭かなきゃ」
「クウ様は私が拭きますから、セリーナ様はお着替えをなさってください」
メーガンにクウを奪われ、少ししょんぼりしてしまう。仕方なく、クローゼットから服を取り出す。
着ていた服を脱ごうとしたところで、扉がバンッと音を立てて開いた。
「セリーナ! なぜ俺を置いてい……」
扉を開けたのは、レイビス様。
ルドルフ殿下の部屋に置いていったのが、不服だったようだ。ノックもなしに、続き部屋の私の部屋の扉を開けた。服を脱ぎかけた私を見て、目を丸くしたまま彼は固まっている。
なんて、冷静に考えている場合ではない……
「きゃーーーーーーーーっ!!」
恥ずかしさから、悲鳴をあげる。
「で! ん! かーーーーっ!!」
カタリーナが悪魔のような形相で、レイビス様を睨みつける。そして、腰の剣に手をかけながらレイビス様に近づいて行く。
「ご、ご、ご、ごごごごごごめん!」
カタリーナに睨まれたことでレイビス様が正気を取り戻し、開いた扉をバタンと閉めた。
脱ごうとしたところだったから、見られたのは肩くらいだった。いつもドレス姿で、肩は見られている。けれど、着替えを見られたのは恥ずかしすぎて顔が一気に熱くなってしまう。
「だから鍵を閉めようと言ったんだ! 殿下! あなたはしばらく出入り禁止です!」
隣の部屋に聞こえるような大声で、カタリーナが叫ぶ。
さすがに私も、今は恥ずかしくてレイビス様に声をかけることができない。
「……はい」
小さな声だったけれど、レイビス様の返事が聞こえた。反省はしているようだ。いや、反省してもらわなくては困る。
そのあとも扉は閉じられたまま、カタリーナの説教が二時間続いた。二時間も説教されているレイビス様が、さすがに気の毒になってくる。
カタリーナの怒鳴り声のあとに、「はい……」と小さく聞こえるレイビス様の声。小さな声の返事が聞こえるということは、まだ扉の前にいるのだろう。
扉のそばを離れても気づかれないのに、ちゃんとカタリーナに説教をされているところがレイビス様らしい。
「カタリーナ、もうやめてあげて」
見るに見かねて、カタリーナにやめるように言う。カタリーナだって、二時間怒鳴りっぱなしは疲れただろう。
「セリーナは甘い! こういうことは、きちんとしなければならない!」
あれだけ説教したのに、まだ怒りがおさまらないようだ。叔父様に、申し訳ないのかもしれない。
「今度、叔父様に会いに行こう。サミュエルにも会いたいし」
王妃教育が終わったら、叔父様にきちんと挨拶に行きたいとレイビス様が話してくれた。けれど叔父様との挨拶は、スフィリル帝国にいた頃にすませている。
レイビス様は、私がまた叔父様に会えるように考えてくれたのだろう。
「へ、陛下に!?」
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けれど、それがカタリーナの選んだ道なのだから応援しなければ。
「ずっと怒鳴っていたから疲れたでしょう? メーガンがお茶を淹れてくれたから、一緒に飲みましょう」
そのあと私たちは、お茶をいただきながら叔父様の話で盛り上がった。
一時間後、レイビス様のことを忘れていたことに気づく。彼はずっと、扉の前で反省しながら立っていた。
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