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二章
脱獄
しおりを挟む雪がしんしんと降り始めた真夜中の王宮の地下牢。
一番奥の地下牢の鍵が、静かに開けられた。
「遅い!」
開かれた牢から出てきたのは、ケリースト。ケリーストは、鍵を開けた男に腹を立てている。
「申し訳ありません。安全に救出出来る時間は、この時間しかなかったのです」
申し訳なさそうにそう答えた男は、牢の見張りの格好をしている。つまり、ガレスタ王国の兵士だ。
「それで? 人数はこれだけか?」
見張りの男の隣には、二人の男たち。
二人とも、兵士の格好をしている。
「私を含め、あの日休みを取っていた者たちです」
カシムが事を起こした日、彼らは休みを取っていた。王宮襲撃は、急に決まったこと。休みの者まで召集する余裕はなかった。
「……これっぽっちか」
明らかに落胆するケリースト。
「ですが、大丈夫です。カシム殿下の部屋の前に、見張りはおりませんでした。どうやら鍵をかけているだけのようです。すぐに殿下をお救いしましょう!」
兵士たちは、カシムを救い出すためにここに来ていた。
「なにを言っている? あんな使えないやつ、もうどうだっていい。おまえたちは、俺をここから逃がすことだけ考えていればいいんだ」
ケリーストの言葉に、見張りの兵士以外の二人は動揺を隠せない。
「なにをおっしゃっているのですか!?」
「我々は、カシム殿下のために立ち上がったはずです!」
セリーナが牢を去った数時間後、ケリーストは牢の見張りをしている味方に「今日、決行する」と告げた。
牢に捕らえられた日から、脱獄の計画を味方の兵士と共に立てていたのだ。見張りの兵士は、カシムではなくケリーストの部下。
ケリーストの部下は、「カシム殿下をお救いしよう」とそそのかし、まだ捕らえられていなかったカシムの味方の兵を集めた。
ほかの牢には、カシムの味方をした王宮の兵たちが入れられている。だが、皆眠らされていた。
騒がれると厄介だからと、ケリーストの部下が食事に眠り薬を入れていた。
もちろん、最初は彼らも誘った。だが彼らは、カシムの判断を尊重すると誘いを断っていた。
「あいつが怖気付いたせいで、計画が失敗した。それなのに、なぜあいつを救わなければならない? とっとと処刑されてしまえばいい」
「ケリースト、貴様!」
カシムへの暴言に、二人の兵士は剣を抜く。それに反応して、ケリーストの部下も剣を抜いた。
「俺がおまえたちの名を出さずにいたのは、この日のためだ。おまえたちも、いつ捕えられるかずっとビクビクしていたんだろ? 俺と一緒に逃げるか、ここで罪人として死ぬか選べ」
ケリーストの言う通りだった。
自分たちが参加出来なかった戦いで、カシムたちが捕らえられた。なにも出来なかったことに腹が立つと同時に、自分たちもいつ捕まることになるか怯えていた。
そんな時、ケリーストの部下から「カシム殿下をお救いしよう」と誘われ、自分たちが救われた気分だった。
「……一緒に行こう」
「……私も」
彼らはゆっくりと剣を下ろした。
カシムを救いたい気持ちは、本物だった。だが、それを誘われるまで自分たちで決行しようと考えなかったのは、カシムが自ら投降したからだった。
カシムは、救って欲しいとは思っていない。それが、わかっていた。
彼らは、なにかしたかっただけだ。国から逃げることも、自ら告白することも、自害することも出来なかった彼らには、ケリーストの誘いは救いの手だった。
四人は地下牢から出ると、見回りをしている兵に見つからないように慎重に出口へと向かう。
王宮全体を警備することができるほどの兵は、この王宮には残っていない。あの戦いで多くの兵を失っていた。
ケリーストが今日決行すると決めた理由は、国境から兵を呼び戻す話を聞いたからだ。
兵が戻って来るまでには、まだ日数はかかる。だが、セリーナの言葉がケリーストを焦らせた。その言葉が、真実になってしまうのではないかと。
彼女の言葉が、頭から離れない。
「兵は少ないな。これなら楽に出られそうだ」
ケリーストは、笑みを浮かべた。
王宮の外には、馬が用意されている。王宮を出ることさえ出来れば、ここから逃げられる。追ってこられるほどの兵もいないのだから、逃げ切るのは簡単だろう。
全てを失ってしまうことになったが、セリーナの思い通りにはならない。命さえあれば、またどこかの国で上を目指すこともできる。
頭の中は、未来への希望でいっぱいになっていた。
「お待ちください! 少し様子が変です!」
一人の兵が、違和感を感じた。
「見回り兵が少ないことか? それなら心配ない。今この国には、兵が少ないからな」
ケリーストは、早く王宮から出たい一心だった。
四人は見張りがいないのを確認し、王宮の入口へと走り出す。
「もう少しで、外に出られる!」
王宮の入口の扉の前で、四人は足を止める。この扉を開けたら、あとは城門まで一直線だ。距離は、二百メートルほどだろう。
兵が少ないと言っても、城門には警備兵がいる。ここからは、警備兵に気づかれないように慎重に進む必要がある。
「左側から、壁伝いに行きましょう」
ケリーストの部下がそう提案すると、ほかの三人は頷く。
「では、開きます」
入口の扉が、ゆっくりと開かれる……
「な……!?」
ケリーストは『なぜ』と言おうとしたが、それ以上言葉が出なかった。
「お待ちしていました」
目の前には、ホワイトとレイビスの護衛二十人、そしてカタリーナが立っている。その後ろから、レイビス、セリーナ、クリフ、ルドルフが姿を現した。
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