16 / 26
16、計画開始
「お茶をお持ちしました」
ブレナン侯爵とお会いした後、いつものように執務室へとお茶を持って行く。
今日の食事は、アビーが作っていた。元々アビーから料理を教わったのだから、味はそれほど変わらないだろう。
最近は、アンディ様が私の顔を見ることもなくなっていた。
それが、少し寂しい。憎まれても、嫌われていてもいいから、彼の瞳に映りたいなんて……私は変わっているのだろうか。
「……ああ、そこに置いておいてくれ」
彼の顔を正面から見られることがなくなり、書類に目を落としている彼の顔を目に焼きつける。
私の役目は、もうすぐ終わる。彼の側にいられるのも、あと少しだ。だから、少しでも彼の顔を見ていたかった。
一分……それが、彼に怪しまれない時間。一分が過ぎ、執務室から出て行く。
「失礼します」
王宮に来る前よりも、アンディ様に惹かれていた。冷たい態度しか取られていないのに……やっぱり私は変わっている。
部屋に戻ると、ブレナン侯爵とのことをアビーとサナに質問攻めにされたけれど、何だか楽しかった。
二人の前では、ブルーク公爵の娘でも王妃でもなく、ロゼッタとしていられる。こんなことを考えるのは、二人とももうすぐお別れになるからだろう。
私は大罪人の娘。良くて国外追放、最悪死刑だろう。助かりたいだなんて、思ってはいない。
私は、父のしたことを全て証言するつもりだ。父は私を王妃にしたことを、心底後悔するだろう。
私を王妃にし、アンディ様の監視をさせたことによって、父の為なら何でもする娘を演じて来た。その私が証言することで、真実なのだと証明する。けれど、それだけでは弱い。父を追い詰める為の証拠が欲しい。
そして私は、最大の嘘をつくことにした。
ブレナン侯爵とお会いした三日後、アビーを連れて堂々と王宮を出る。そして馬車に乗り込み、実家であるブルーク公爵邸へと向かった。
王宮の外に出ることは禁じられているけれど、父には嘘をつく。すぐにバレてしまうような嘘だけれど、数時間騙すことが出来ればそれでいい。
邸に到着し、門番に取り次ぎを頼む。
実家であるはずのこの邸に、私は自由に出入りすることが出来ない。
母が生きていた頃は私の居場所だったけれど、母が亡くなってからは、まるで別の邸のように感じていた。
執事が出迎え、父の待つリビングへと向かった。
「ロゼッタ様を、お連れしました」
父はソファーに座りながら、ゆっくりと私の顔を見た。
「王宮から出るなと、言ってあったはずだが?」
昔は、父の高圧的な態度が恐ろしかった。けれど、今は違う。この人を、心底軽蔑していると同時に、哀れに思う。
誰も信じられず、誰にも心を許すことが出来ない。寂しい人だ。
「分かっております。お父様の命に背くつもりはないのですが、直接お伝えしたかったのです」
「……聞こう」
表情を変えることなく、話の続きを待つ。
「実は、陛下のお子を身ごもりました」
「まことか!?」
それを聞いた瞬間、高圧的だった父は笑顔で立ち上がり、私の身体を支えながらソファーに座るように促す。
もちろん、私は身ごもってなどいない。身ごもるような行為をしていないのだから、子が出来るはずがなかった。
「よくやってくれた! お前に子が出来る日を、どれほど待ち望んでいたことか!」
父の笑顔を見たのは、何時ぶりだろうか。見た記憶さえないのだけれど。
「先日、主治医に身ごもっていると言われ、一刻も早くお父様にお知らせしたくて」
「そうかそうか! 命に背きはしたが、こんなに嬉しい知らせを届ける為なら仕方ないな!」
父は、私の嘘を疑っている様子はない。けれど、私の言葉だけで信じるほど甘くはない。
「グレイソン! 今すぐ医者を呼べ!」
すぐに執事を呼び、私の検査をする為に医者を呼ぶように言った。それは、想定内だ。
「お父様、馬車に揺られて気分が悪くなってしまったようです。静かなところで、休んでいてもよろしいでしょうか?」
いつものメイクよりも、顔色が悪く見えるようにしてもらっていた。
「気付かなくてすまない。顔色が悪いな。客室のベッドで休むといい」
アビーに寄りかかりながら、使用人に客室まで案内してもらった。
ベッドに横になり、アビーが布団をかけてくれる。
「ロゼッタ様がお目覚めになった時の為に、お茶を用意したいの。手伝ってくれる?」
アビーは、使用人を部屋から離す。 これで、準備完了。
医者が来るまでが、自由に動ける時間だ。その時間で、父の悪事を明らかに出来る証拠を見つけることが目的だ。
あなたにおすすめの小説
どうかこの偽りがいつまでも続きますように…
矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。
それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。
もう誰も私を信じてはくれない。
昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。
まるで人が変わったかのように…。
*設定はゆるいです。
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。
山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。
姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。
そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。
王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく
木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。
侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。
震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。
二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。
けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。
殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。
「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」
優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎泡雪 / 木風 雪乃
私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。
火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。
しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。
数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定