〖完結〗私は誰からも愛されないと思っていました…

藍川みいな

文字の大きさ
1 / 11

義母と義妹

しおりを挟む

 「こんなに不味いもの食べられないわ。ティナ、早く片付けてちょうだい。」
 
 「本当に不味いわ。吐きそう。よくもこんな料理を私達に食べさせたわね。こんなもの、犬だって食べないわ!」

 お母様が亡くなってすぐに、お父様(セルドア・クーバー公爵)が再婚して、私には新しい義母(ロザリア)と義妹(イライザ)が出来ました。そして私は今、クーバー家の使用人として働かされています。

 「申し訳ありません……新しく作り直しますので、少しお待ちください。」

 使用人のミルダがお皿を下げようとすると、

 「ミルダに言っていないわ! お義姉様がやりなさいよ! 18歳になるまで贅沢し放題で、なんでも使用人がやってくれていたのでしょうけど、これからはご自分でなさらないとね? これは何も出来ないお義姉様のためなんだから。」

 「ミルダ、大丈夫よ。私がやるわ。」

 義母の前からお皿を下げようとすると……

 「待ちなさい。まさか捨てる気じゃないでしょうね? 今ここで食べなさい。スープなんだから、そのまま舐めればいいわ。」

 義母は少しお皿を横にずらし、スプーンを使わずにそのままお皿に顔を寄せて舐めるように言った。

 「奥様それは……!!」

 「ミルダは黙っていなさい! 使用人の分際で意見しようだなんて、どういうつもり!?」

 「お義母様、やめてください。舐めますから……」

 ミルダが叱られることが耐えきれず、私はお皿に顔を寄せ、ぺろぺろと舐めた。

 「あははははは! お義姉様ったら獣みたい! こんな獣と同じ料理なんて食べられないから、さっさと片付けてちょうだい。」

 毎日のように、義母と義妹から虐げられているティナ。クーバー公爵はその様子を見ても、何もしようとはしなかった。
 
 20年前、セルドア・クーバー公爵は兄であるデイモン王に勧められ、侯爵令嬢のクレアと結婚をした。クレアの容姿は地味で、お世辞にも美人とは言えなかったが、とても気立てが良かった。
 だが、セルドアは容姿が良くないクレアを愛することはなく、クレアと夜を共にしたのも初夜の一度きり。その一度で生まれたティナも愛することはなかった。20年もの間、ろくに邸にも帰らず、セルドアは愛人を作り、クレアは病でこの世を去った。

 再婚してからは、クーバー公爵は邸に戻るようになったが、それはティナの為ではなくロザリアとイライザの為だった。
 とても美しい容姿の2人に比べ、ティナは母クレアに似て、地味で平凡な容姿をしていた。
 
 「ティナよ、お前が醜いからそんな目に合うのだ。恨むなら、お前を醜い姿で生んだクレアを恨みなさい。クレアが醜かったのだから、お前が醜いのも当然なのだがな。」

 「私はお父様の血も受け継いでいます。私はお父様に似たのですね。」

 いつもなら謝ってばかりのティナだったが、母親を侮辱された事が許せなかった。

 「お父様になんて口を聞くのッ!? お前は何様のつもりッ!? お父様に謝りなさい!」

 義母の金切り声が、食堂に響き渡る!

 「どうして謝らなければならないのですか? 私はお父様の子です! 間違ったことは言っていません!」

 バシッ!!

 義母の右の手のひらが、ティナの左頬を勢いよく叩いていた。
 ジンジンする頬を押さえながら義母を睨むティナ。

 「お前は部屋に戻りなさい! 今度生意気な口を聞いたら、それだけじゃすまさないわよ! ミルダ、早く連れていきなさい!」

 ティナはミルダに連れられ、部屋へと戻った。部屋といっても、使用人が使う部屋。
 義母と義妹が来てから、ティナは自分の部屋を奪われ、ミルダが使っていた部屋でミルダと一緒に暮らしていた。

 「お嬢様、大丈夫ですか?」

 「大丈夫よ。それよりミルダ、私を庇うのはもうやめて。あの人達は何をするか分からないわ。」

 「でもあの人達、お嬢様にあんな事をするなんて許せません!」

 「ミルダがいてくれるから、私はどんな事にも耐えられるの。だからお願い。」

 「……お嬢様……わかりました。」

 ミルダ以外の使用人は皆、義母とイライザの言いなりになっていた。2つ年上のミルダだけが、私の味方でいてくれた。

 
 
 数日後、何故かいつもとは違い、夕食の際に一緒に席に着くように言われた。食事はいつも、家族が食べ終わった後にミルダととっていた。
 私とは一緒に食べたくないと、イライザが言ったことが始まりで、そのあとは何に対しても使用人のように扱われて来たのに……何かあるのかな?
 そう思いながらもおそるおそる席に着くと……

 「ティナ、喜びなさい! あなたの結婚が決まったわ! あなたは、ガルシア・ボーメン男爵に嫁ぐのよ!」

 婚約もなしにいきなり結婚。そして、公爵家から男爵家に。しかも、ガルシア・ボーメン男爵は32歳で、ティナとは歳がだいぶ離れていた。

 
 
 
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

見た目を変えろと命令したのに婚約破棄ですか。それなら元に戻るだけです

天宮有
恋愛
私テリナは、婚約者のアシェルから見た目を変えろと命令されて魔法薬を飲まされる。 魔法学園に入学する前の出来事で、他の男が私と関わることを阻止したかったようだ。 薬の効力によって、私は魔法の実力はあるけど醜い令嬢と呼ばれるようになってしまう。 それでも構わないと考えていたのに、アシェルは醜いから婚約破棄すると言い出した。

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…

まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。 お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。 なぜって? お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。 どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。 でも…。 ☆★ 全16話です。 書き終わっておりますので、随時更新していきます。 読んで下さると嬉しいです。

奪われたものは、全て要らないものでした

編端みどり
恋愛
あげなさい、お姉様でしょ。その合言葉で、わたくしのものは妹に奪われます。ドレスやアクセサリーだけでなく、夫も妹に奪われました。 だけど、妹が奪ったものはわたくしにとっては全て要らないものなんです。 モラハラ夫と離婚して、行き倒れかけたフローライトは、遠くの国で幸せを掴みます。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

妹の嘘を信じて婚約破棄するのなら、私は家から出ていきます

天宮有
恋愛
平民のシャイナは妹ザロアのために働き、ザロアは家族から溺愛されていた。 ザロアの学費をシャイナが稼ぎ、その時に伯爵令息のランドから告白される。 それから数ヶ月が経ち、ザロアの嘘を信じたランドからシャイナは婚約破棄を言い渡されてしまう。 ランドはザロアと結婚するようで、そのショックによりシャイナは前世の記憶を思い出す。 今まで家族に利用されていたシャイナは、家から出ていくことを決意した。

【完結】どうぞ他をあたってください

風見ゆうみ
恋愛
ビレディ侯爵家の嫡男、トータムに嫁いだ私、ミアリナは彼と共に幸せな生活を送っていくのだと信じて疑いもしなかった。 義父は亡くなる前に、メイドと再婚してから私の夫は義母の連れ子のフララさんに夢中になり、私ではなくフララさんを優先しはじめる。 挙句の果てには、義母やフララさんの嘘を全面的に信じ、私の話は信じてくれなくなった。 限界にきた私が別れを告げると「義妹とは結婚できないから、君は僕の妻のままでいいんだよ」と離婚を拒む。 都合の良い妻をお探しなら、どうぞ他をあたってください。

皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]

風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが 王命により皇太子の元に嫁ぎ 無能と言われた夫を支えていた ある日突然 皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を 第2夫人迎えたのだった マルティナは初恋の人である 第2皇子であった彼を新皇帝にするべく 動き出したのだった マルティナは時間をかけながら じっくりと王家を牛耳り 自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け 理想の人生を作り上げていく

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...