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義母と義妹
しおりを挟む「こんなに不味いもの食べられないわ。ティナ、早く片付けてちょうだい。」
「本当に不味いわ。吐きそう。よくもこんな料理を私達に食べさせたわね。こんなもの、犬だって食べないわ!」
お母様が亡くなってすぐに、お父様(セルドア・クーバー公爵)が再婚して、私には新しい義母(ロザリア)と義妹(イライザ)が出来ました。そして私は今、クーバー家の使用人として働かされています。
「申し訳ありません……新しく作り直しますので、少しお待ちください。」
使用人のミルダがお皿を下げようとすると、
「ミルダに言っていないわ! お義姉様がやりなさいよ! 18歳になるまで贅沢し放題で、なんでも使用人がやってくれていたのでしょうけど、これからはご自分でなさらないとね? これは何も出来ないお義姉様のためなんだから。」
「ミルダ、大丈夫よ。私がやるわ。」
義母の前からお皿を下げようとすると……
「待ちなさい。まさか捨てる気じゃないでしょうね? 今ここで食べなさい。スープなんだから、そのまま舐めればいいわ。」
義母は少しお皿を横にずらし、スプーンを使わずにそのままお皿に顔を寄せて舐めるように言った。
「奥様それは……!!」
「ミルダは黙っていなさい! 使用人の分際で意見しようだなんて、どういうつもり!?」
「お義母様、やめてください。舐めますから……」
ミルダが叱られることが耐えきれず、私はお皿に顔を寄せ、ぺろぺろと舐めた。
「あははははは! お義姉様ったら獣みたい! こんな獣と同じ料理なんて食べられないから、さっさと片付けてちょうだい。」
毎日のように、義母と義妹から虐げられているティナ。クーバー公爵はその様子を見ても、何もしようとはしなかった。
20年前、セルドア・クーバー公爵は兄であるデイモン王に勧められ、侯爵令嬢のクレアと結婚をした。クレアの容姿は地味で、お世辞にも美人とは言えなかったが、とても気立てが良かった。
だが、セルドアは容姿が良くないクレアを愛することはなく、クレアと夜を共にしたのも初夜の一度きり。その一度で生まれたティナも愛することはなかった。20年もの間、ろくに邸にも帰らず、セルドアは愛人を作り、クレアは病でこの世を去った。
再婚してからは、クーバー公爵は邸に戻るようになったが、それはティナの為ではなくロザリアとイライザの為だった。
とても美しい容姿の2人に比べ、ティナは母クレアに似て、地味で平凡な容姿をしていた。
「ティナよ、お前が醜いからそんな目に合うのだ。恨むなら、お前を醜い姿で生んだクレアを恨みなさい。クレアが醜かったのだから、お前が醜いのも当然なのだがな。」
「私はお父様の血も受け継いでいます。私はお父様に似たのですね。」
いつもなら謝ってばかりのティナだったが、母親を侮辱された事が許せなかった。
「お父様になんて口を聞くのッ!? お前は何様のつもりッ!? お父様に謝りなさい!」
義母の金切り声が、食堂に響き渡る!
「どうして謝らなければならないのですか? 私はお父様の子です! 間違ったことは言っていません!」
バシッ!!
義母の右の手のひらが、ティナの左頬を勢いよく叩いていた。
ジンジンする頬を押さえながら義母を睨むティナ。
「お前は部屋に戻りなさい! 今度生意気な口を聞いたら、それだけじゃすまさないわよ! ミルダ、早く連れていきなさい!」
ティナはミルダに連れられ、部屋へと戻った。部屋といっても、使用人が使う部屋。
義母と義妹が来てから、ティナは自分の部屋を奪われ、ミルダが使っていた部屋でミルダと一緒に暮らしていた。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。それよりミルダ、私を庇うのはもうやめて。あの人達は何をするか分からないわ。」
「でもあの人達、お嬢様にあんな事をするなんて許せません!」
「ミルダがいてくれるから、私はどんな事にも耐えられるの。だからお願い。」
「……お嬢様……わかりました。」
ミルダ以外の使用人は皆、義母とイライザの言いなりになっていた。2つ年上のミルダだけが、私の味方でいてくれた。
数日後、何故かいつもとは違い、夕食の際に一緒に席に着くように言われた。食事はいつも、家族が食べ終わった後にミルダととっていた。
私とは一緒に食べたくないと、イライザが言ったことが始まりで、そのあとは何に対しても使用人のように扱われて来たのに……何かあるのかな?
そう思いながらもおそるおそる席に着くと……
「ティナ、喜びなさい! あなたの結婚が決まったわ! あなたは、ガルシア・ボーメン男爵に嫁ぐのよ!」
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