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7、罠にかける
しおりを挟むトーマス殿下は、笑顔で部屋の中に招き入れてくれた。
「叔父上、お久しぶりです。叔父上とレオナ嬢のご婚約、嬉しく思います。今、お茶を用意させますね」
「歳は同じなのだから、叔父上はやめろ。アンディでいいと言っているだろう」
「殿下、お茶は結構です。この状況なら、また毒を盛られる事も考えられますので」
トーマス殿下の笑顔が、戸惑いの表情へと変わる。
「トーマス殿下を、疑っているわけではありません。この状況で私とクラウェル公爵が毒を盛られたら、疑われるのはトーマス殿下です。誰かさんにとって、都合のいい状況だと思いませんか?」
二回目の死に戻りで、トーマス殿下はジョセフ殿下を恐れていた。『殺されたくはない』と言っていたトーマス殿下を、巻き込んでしまった。
「……もしかして、舞踏会の騒ぎはジョセフの仕業ですか?」
やっぱり、トーマス殿下はジョセフ殿下を疑っていた。
「証拠はありませんが、私はそう確信しています。そこで、トーマス殿下にお願いがあってまいりました」
「お願い……とは?」
「継承権を、放棄していただけませんか?」
私がクラウェル公爵を指名した時点で、継承権を放棄する事に通常ならそれほど意味はない。だけど、トーマス殿下が継承権を放棄する事で、クラウェル公爵に何かあった場合はジョセフ殿下が王位を継ぐことになる。トーマス殿下には動機がなくなり、ジョセフ殿下が疑われる。つまり、下手に動く事が出来なくなり、今までのようにはいかなくなる。それに何より、トーマス殿下の身は安全になる。
「そう……しても、良いのでしょうか……?」
トーマス殿下は、ただ静かに暮らしたいだけだった。継承権を放棄する事は、だいぶ前から考えていたようだ。でも、自分が継承権を放棄すれば、必然的にジョセフ殿下が次の国王になってしまう。ジョセフ殿下の残酷さに気付いていたトーマス殿下は、自分から継承権を放棄して国を危険にさらす事が出来なかった。積極的に動く事は出来なくても、王子としての責任から逃げる事はしなかった。
「もう自由になってください」
トーマス殿下は、幸せそうに微笑んでいた。
その後すぐに、トーマス殿下が継承権を放棄する事が発表された。
これでジョセフ殿下は、トーマス殿下に罪を着せる事が出来なくなった。
クラウェル公爵に会いに行ったあの日から、公爵は部下にシンシアを見張らせている。あれから半年程が経ち、ジョセフ殿下はシンシアに週に一度会いに行っているとの事だ。
ジョセフ殿下は慎重で、簡単には本性を現さないだろうけど、そんなジョセフ殿下にも弱点があるという事だ。それは、シンシアだ。
シンシアの家族は、彼女を愛していない。彼女は、いつもひとりぼっちだった。似たもの同士の私達は、直ぐに仲良くなっていた。だから、シンシアが私を殺そうとしていたなんて信じられなかった。今はまだ、シンシアは私が彼女を信じていると思っている。動くなら今だ。
シンシアに、会いたいと手紙を書いた。
「なぜ君は、そのような危険な真似をする?」
クラウェル公爵には、一人で会いに行きたいと話した。
「私が一人で行かなければ、シンシアが行動を起こさないからです。一人といっても、護衛はしてもらいます。ですから、見つからないように見守っていてください」
私が死んでも、また死に戻るからという理由なんかじゃない。これは、もう二度と死に戻らない為に考えた策だ。危険なのは、分かっている。それでもやらなければ、いつまで経ってもビクビクと怯えて暮らす事になる。そんな人生、冗談じゃない。
「はあ……止めても、無駄なのだろうな」
諦めたようにため息をつく、クラウェル公爵。
前世の記憶のない私なら、こんな事は絶対しなかった。でも積極的に動かなければ、いつまでも変わらない。だから、前世の記憶が戻ったのかもしれない。
計画をクラウェル公爵に話し、了承してもらった。
すぐにシンシアから、会うという返事が来た。私から会いたいと手紙を出した事を、ジョセフ殿下に知らせようとしていた。でもそうはさせない。シンシアをずっと見張っているクラウェル公爵の部下に頼み、殿下への手紙を入手した。手紙を届けようとした使用人は、拘束している。
準備は万端。さて、シンシアに会いに行こう。
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