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8、殺そうとする親友
しおりを挟む「久しぶりね、レオナ!」
シンシアには、会う場所を指定していた。指定した場所は、前にシンシアに呼び出されたカフェだ。この場所を選んだ理由は、シンシアの裏切りがここから始まったから。
「会いたかったわ、シンシア。なかなか抜け出せなくて、連絡も出来ずにごめんね」
「仕方がないわ。舞踏会で、あんな事があったのだから。護衛の方は? 命が狙われたのだから、護衛はついているのでしょう?」
「護衛は、馬車の側で待ってもらっているわ。シンシアと会うのに、護衛なんて居たら煩わしいもの。それに、舞踏会で命を狙われたのはクラウェル公爵で、私じゃない。毒が入っていると見抜いたのも、公爵だったの」
「そうなのね、クラウェル公爵ってすごい方ね! レオナが無事で、本当に良かった」
「ありがとう、こうして生きて居られる事に感謝しなくちゃ」
本当は、クラウェル公爵の部下が変装して客として店内に居る。部下だけでなく、クラウェル公爵まで変装して店員になりすましている。彼の姿が目に入る度に、吹き出してしまいそうなのを我慢するのが大変だ。……あんなに無愛想な店員なんて居ない。
でも、そこにクラウェル公爵が居てくれるというだけで、何だか安心する。
シンシアがジョセフ殿下に書いた手紙には、私を殺すつもりだと書かれていた。隠されなければならない関係をいつまで続ければいいのか、不満に思っているようだ。トーマス殿下が継承権を放棄した事で、私の存在が消えれば元々継承権の低いクラウェル公爵は国王にはなれない。つまり、私を殺せばジョセフ殿下が王太子に選ばれ、自分と結婚してくれると考えるはずだ。シンシアはきっと、毒を持ってきている。それが一番、手っ取り早い方法だろう。私が毒を見抜いたわけじゃないと言ったのは、彼女が毒を私に飲ませるように動いてもらう為だ。
「それにしても、レオナが精霊の加護持ちだなんて全く知らなかった。私にも話してくれないなんて、なんだか寂しいわ」
薄っすらと涙を浮かべて私を見ながら、悲しげな表情をするシンシア。
昔なら話さなかった事を申し訳ないと思っていただろうけど、今は『どの口が言ってんだこの女狐!』としか思わない。本当に感心する……くさい演技に。
「ごめんね。そうだ! シンシアにプレゼントがあるの! 馬車に忘れて来てしまったから、取ってくるわね。ハーブティーを頼んでおいてくれる?」
「プレゼント? 嬉しい! 頼んでおくわ!」
席を立ち、店を出て馬車に向かう。
私が戻る前に、ハーブティーは席に運ばれる。そのハーブティーに、シンシアは毒を入れるだろう。
プレゼントを持って店に戻ると、シンシアは笑顔を見せた。私達の後ろの席に座る公爵の部下が、三回瞬きをして水を飲んだ。シンシアが毒を入れたのは、ハーブティーではなく水の方らしい。
親友だからこそ、私の癖をよく知っている。私は猫舌だから、お茶を飲む前に冷たい水で舌を冷やすクセがある。それを知っているからこそ、水に毒を入れたのだろう。
「お待たせ! これ……気に入ってもらえたら嬉しいな」
プレゼントは、シンシアがずっと欲しがっていた香水。出来れば、シンシア自ら自白して欲しい……なんて、ありえない事を願ってしまう。
「わあ! 欲しがっていた事、覚えててくれたんだ! 嬉しい!」
シンシアは香水に夢中だ。私は席に着き、小さく深呼吸をする。
「頼んでおいてくれて、ありがとう。いただくわ」
そう言って、水の入ったグラスを手に取る。
もちろん、毒入りの水を飲むつもりはない。飲んだフリをする。
シンシアに止めて欲しい……そう思いながら、グラスを口元に近付ける。
願いは叶わず、唇を閉じたまま水を飲むフリをした。
「……っ……う……うぅ……」
苦しむフリをして、その場に倒れ込んだ。
「キャーッ! レオナ!? どうしたの!? 誰か助けてー!」
必死に、私を心配する演技をするシンシア。水を持って来た店員が犯人だというつもりなのだろうけど、その店員はクラウェル公爵だ。
残念ね、あなたはもう終わりよ。
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