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11、両親と弟
しおりを挟むだとしたら、これがウィルソン様の地ということになる。この様子だと、折れてはくれなさそうね。婚約者って、こういうのは受け入れないとダメなのかな。ゲームの中のことだから、あんまり深く考えてなかった……
「分かりました。送り迎えはお願いします」
結局、今までと同じになってしまった。ウィルソン様はきっと、ヒロインを選ぶことはない。それは、破滅することを回避出来るということだから、喜びべきなんだろうけど……
無理! 絶対に無理!
だって彼は、先輩にそっくりなんだもん。あの日言われた言葉は、私の心をめちゃくちゃ傷付けていた。今はミシェルだから、ブスだなんて言われることはないのは分かってる。それでも、そんなことを女の子に平気で言えちゃう先輩を愛することは出来ない。もちろん、ウィルソン様が先輩じゃないことは分かっている。だけど、私には先輩にしか見えないんだから、しょうがない。それに、彼が何者なのか分からないのに、好きになれるはずがない。
「良かった! 君と一緒にいる時間は、一分一秒でも大切にしたい」
これでもかというくらい、嬉しそうな顔をする彼。こんなに想われているのに嬉しくないと思う日が来るなんて、莉音の時は思ってもみなかった。
とにかく、今はそんなことよりも早く邸に帰って、なぜミシェルが無視をされているのかをセシリーに聞きたい。
「そんなことより、もう少し馬車の速度上がりませんか?」
「そんなところも、可愛い」
自分で言いたくはないけど、可愛くはない。何でも可愛いと言えば、女は喜ぶと思っているのだろう。
「ウィルソン様……速度、上げてください」
「何か事情があるのかい? 分かった。だが、今回だけだよ?」
なぜか、甘やかしてくれる。頼み事をしたら、何でも聞いてくれそうだ。
ウィルソン様のおかげで、早めに邸に帰ることが出来た。出迎えてくれたセシリーの手を引き、部屋へと連れていく。
「お嬢様? どうされたのですか!?」
戸惑ってはいるけど、大人しく部屋まで着いて来てくれた。セシリーをソファーに座らせ、私もイスに座って話し始める。
「強引に連れて来ちゃってごめんね。聞きたいことがあるの」
真剣な顔でセシリーを見つめると、彼女も真剣な顔になった。
「私に分かることでしたら、何でもお聞きになってください」
彼女が居てくれて、本当に良かったと思った。
「ありがとう、セシリー。
どうして私は、両親にもデイビスにも嫌われているのか理由を知りたいの」
こんなことを聞けるのは、セシリーだけだと思った。他の使用人に聞いても、きっと答えてくれない。彼女とは知り合ったばかりのはずなのに、なぜか信頼出来るような気がした。これはきっと、記憶を思い出す前のミシェルの感情じゃないかと思う。
セシリーは、少し考えた後口を開いた。
「……やはり、ミシェル様はお変わりになられましたね。いいえ、記憶がなくなっていると言った方が、正しいのでしょうか」
セシリーの、私を見る目が少しだけ変わった。
図星をつかれて何も言い返せない私を、観察しているみたい。セシリーが鋭いのか、私の質問が自爆していたのかさえ判断出来ない。
「それでも、変わらないことがひとつだけあります。私の、忠誠心です」
私を観察するように見ていたセシリーは、柔らかい笑みを見せた。
「セシリー……」
「ミシェル様は、記憶を失っているのですね。理由を、話す必要はありません。もちろん、聞いた方がいいのならお聞きします。私は、何があってもミシェル様の味方です」
セシリーの言葉は、不思議とすんなり受け入れられる。
「ありがとう、セシリー。実はね、私には昨日以前の記憶がほとんどないの。自分の名前や、婚約者のウィルソン様……それと数人の名前と顔しか覚えていないの」
さすがに、前世の記憶があるのは黙っておこう。話したところで、理解出来ないだろうし、余計混乱させるだけだと思った。
「そうだったのですね。確かに、お嬢様がお変わりになられたのは、昨日からでした。私は、幼い頃からミシェル様にお仕えして来ました。ご両親とのことは、ミシェル様自身がわざとそうさせたのです」
わざと? それは、どういう意味なのだろうか。
疑問に思いながらも、セシリーの次の言葉を待つ。
「ミシェル様とデイビス様が幼い頃から、旦那様も奥様もミシェル様ばかりを可愛がっておられました。何をしても、『お姉様を見習いなさい』『お姉様は素晴らしい』『ミシェルが男に生まれてくれていたら……』と、全くデイビス様を見ようとはなさいませんでした。次第に、デイビス様はご自分の殻に閉じこもるようになり、見かねたミシェル様は、デイビス様のことを想い、私に噂を流すようにお命じになりました」
私のせいで、たった一人の弟を傷付けていたなんて……
デイビスに嫌われても、仕方がなかったということね。
「その噂って?」
「ミシェル様がデイビス様を虐めていると、使用人達に話しました。そして、その噂を信じた旦那様と奥様はミシェル様を問い詰めたのです。問い詰められたお嬢様は、『私がデイビスを虐めたわ。このバークリー公爵家を継ぐのに相応しいのは私よ!』そう、宣言なさいました。それからは、旦那様も奥様も、お嬢様を無視するようになられたのです」
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