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記憶
しおりを挟む「君はずっと、騙されてきたんだ。」
お父様は全部知っていて、私の存在を消していた。お父様にとって娘はサマー1人だけなんだ……。
「でもどうしてお母様もサマーも、私を邸に閉じ込めておいたのでしょう……?」
「それはきっと、私のせいだ。私がこの国の第一王子だから。」
ラウルはこの国の第一王子で、メリッサの婚約者。ルーズはその婚約者を、メリッサからサマーに替えたかったのだ。
テイラー侯爵に嫁いでから、毎日毎日メリッサを醜いと罵り部屋に閉じこもるようにしてきた。使用人には、メリッサに関わることを禁じ、関わった者は厳しく処罰して来た。
そうして、姉のメリッサは醜い姿を晒したくないからと部屋に閉じこもった為、妹のサマーとの婚約をとずっと王に提案して来た。
年々美しさが増していくメリッサに、ルーズとサマーは脅威を感じていた。そこでティナを送り込み、優しくさせ、たった一人の味方を演じさせた。
メリッサがあの時気づかなければ、ティナが急に亡くなった事にし、悲しみに暮れるメリッサを修道院に送る計画だった。
「お母様もサマーも、結局は私が邪魔だったのね。サマーをラウル様の婚約者にする為に私を……」
メリッサは今までされてきた事に、怒りではなく悲しみを感じた。
「ラウル様、覚えていなくてごめんなさい。」
「気にする事はない。私が鮮明に覚えてるから大丈夫だ。」
ラウルは優しく微笑み、頭を撫でてくれた。
「暖かい……」
人ってこんなにも暖かいんだ。
メリッサの頬を涙がつたう……その涙を、ラウルが親指で拭ってくれた。
何年も部屋から出て来ないメリッサに、王はルーズの言う通り婚約者をサマーに替えようとしていた。その事を知ったラウルは逃げ出し、メリッサの住む邸の近くの宿屋に泊まっていた。
いつかメリッサに会えることを信じて……。
「いつか君に会えるんじゃないかと、信じて待っていてよかった。」
ラウル様はそんなにも私のことを……?どうして私はあなたを忘れてしまったの?思い出したい……。
メリッサがラウルを覚えていないのは、仕方がない事だった。大好きだった母を亡くて悲しみにくれている所に、新しく出来た母と妹に毎日蔑まれ続け、父や使用人からは存在しないかのように扱われていたのだから……。いつからか、大好きだった母の記憶さえ、なくしてしまっていた。
「ラウル様、お願いがあります。お母様とラウル様の事を話してください。私が忘れてしまった事を知りたい。」
その日は朝まで、ずっとラウルの話を聞いていた。ラウルの話を聞きながら、メリッサの記憶が断片的にだが、少しづつ戻って来ていた。
「ラウル様、お城に戻ってください。」
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